練習試合が終わり、夕食を食べに行こうと越前、桃城、不二、菊丸がを取り囲んでいた時。
幸村と真田、そして柳がやってきたのにいち早く気づいたのは矢張りだった。
「やぁ」
目があったのに気づいて幸村が軽く手を上げながら微笑むと、はそれが自分に向けられていることを不審に思い眉を寄せた。
そしてそのの表情と目線に気づいた越前がその先をたどる。
「あれ、幸村さん。何か用っスか?」
あまり歓迎する様子の無い越前を気にすることなく幸村はの前まで行くと目で真田を示した。
「この前はうちの部員がボールをぶつけかけてごめんね?」
その言葉でようやくは少し前にコートの前を通った時のことを思い出した。
言われてみれば、唖然とラケットを持ったまま突っ立っていた人物はこの帽子をかぶっているおよそ同じ高校生とは思えない生徒だったかもしれない。
「(・・この人監督じゃなかったんだ)別に気にしてないです。」
「いや、あのまま当たっていたら大惨事だった。すまなかった。」
真田はそう言ってお手本のような姿勢と角度で頭を下げた。
「本当に気にしてないんです。こっちも電話してて気づくのが遅れてしまいましたし。」
「あの反射神経すごかったよね。まさか片手で真田の打った球を掴むとは思わなかったよ。」
申し訳なさそうにしている真田とは反対に、幸村の顔は面白いものを見つけたようにきらきらしている。
それに気がついた越前が顔をむすりとさせてと幸村の間に割り込んだ。
「ちょっとあんまり絡まないでもらえますか。人見知りする人なんで。」
「確かにそうだね。」
くすくすと笑いながら不二が越前の援護をする。
「当事者たちは謝って、許しているんだし、もうこの件は良いんじゃないかな。」
笑顔で笑顔の幸村を見据えると、その隣にいた菊丸が居心地悪そうに方を竦めた。
「ねぇねぇ桃、俺たちそろそろお暇しようか。」
「え、なんでッスか?」
下がった気温に気がつかないらしい桃城は純粋に首を傾げてそれより夕食を何にするかと切り返す。
「あ、立海の人たちも一緒にどう・・」
「うわー!桃!」
あまつさえとんでもない誘いを持ち掛けようとする桃城の口を手でふさいだ菊丸は少し離れた場所に桃城を引きずり出した。
「嫌だな。別に取って食おうって訳じゃないんだから、そう警戒しないでほしいな。」
本人よりも警戒心をあらわにしている越前と不二に幸村は笑いかけた後、を見た。
彼にこうも話しかけられる覚えのないは首をかしげる。何かしてしまったのだろうか、と。
「私、何かしましたか?」
「うん。」
「それはすみませんでした。」
「いや、謝る必要はないよ。ただ、僕が興味を持っただけだからね。」
終わりの見えない会話に越前がため息をついた。
「つまり、真田サンの豪速球を素手で、それも片手で受け止めた先輩に興味を持ったってことみたいッスよ。ほんと、先輩って濃い人をひきつけるよね。」
ピンときていないに説明をして越前はの両肩を掴んでくるりと後ろを向かせた。
「特に大事な話でもないんで飯食いに行きましょうよ。」
「そうだね。」
そしての背中を押してコートの外へ歩かせる越前に同意した不二は越前の分の荷物も手に持ってその後ろを追う。
「えっ、もう話終わったの!?待ってよー!」
少し離れた場所で見守っていた菊丸も慌てて自分の荷物を持って食事の場所を探すためにスマホをいじっている桃城の肩を叩いて、そして手塚と話をしている原口を振りかえった。
「佳代ー!携帯に場所送っとくからね!」
そして慌ただしくコートを出て行く後ろ姿を眺める幸村の肩を柳が笑い声を堪えるようにして声をかける。
「見事に逃げられたな。」
「逃がしてあげたんだよ。学校が始まれば邪魔者はいないし、赤也と同じクラスみたいだしね。」
ふふふ、と笑った幸村に、長い付き合いの真田はすぐに彼があまり褒められないことを企んでいる事に気づく。
「幸村、あまり彼女に迷惑をかけるのは・・」
「真田がそれを言うのかい?」
怪我をさせかけた手前、せめてもの償いをと思ったがそれは失敗に終わった。
言葉につまり、ため息をつく。
「ほとほどにな。」
「ふふ、そうだなぁ、お昼に誘うくらい良いだろ?」
「昼で済めば良い方だな。俺も同席しよう。」
残念ながら自分には止められそうにないなと、これから彼女に迷惑をかけるであろう事に一人胸を痛めた。
「幸村サンに真田サンと関わりがあるなんて聞いてないッスよ。」
「今日まですっかり忘れてた。見たの一瞬だったし。」
「真田の豪速球なんて受け止めるから悪目立ちしちゃってもー」
「だって気づいた時には目の前に迫ってきてたし、仕方ない。」
越前と菊丸からぶつぶつ言われるも、責められる覚えがなくても淡々と返す。
あの後、結局駅の近くにある中華料理屋に入った面々はターンテーブルの周りに座ってメニューを見ている。
「真田だけならまだしも、幸村がその場にいたのはまずかったね。これから面倒な事になると思うよ。」
「面倒なことって何スか?不二先輩。」
桃城に問われて不二は笑みを崩さずに答えた。
「だってあの幸村が興味を持ったんだよ?彼の粘着質な性格を考えると、接触できるまで執拗に追いかけ回すに決まってるじゃないか。」
「あぁ、なんか幸村サンって不二先輩に似てますもんね!」
「バッ、桃!」
悪気なく言う桃城を菊丸が慌てて止めるがもう既に遅い。不二はすっと目を開くと口の端を上げて見せた。
「ふぅん、そう思ってたんだ、桃・・」
「えっ、あ、ちが・・」
ようやく自分が何を口走ったのかを理解した桃城が慌てて弁明をしようとしたところで、個室の扉が開いた。
「すみません、遅くなりました!」
入ってきたのは原口と手塚で助かったとばかりに桃城は息を吐き出して開いている自分の隣を示すように大きく手を振った。
「おー、こっち空いてるぜ!」
「そんなの見れば分かるよ。」
原口はの両隣が越前と桃城で埋まっているのを見て残念そうに肩を落としながら桃城の横に向かった。
手塚は既に不二の横に座っている。
「雲雀もあれが相手では苦労するな。」
不二からメニューを受け取りながら労わるように手塚はをちらりと見て言うと、メニューを開いて視線を落とす。
「手塚もそう思うよね。ただでさえ目立つ事を嫌っているのに、かわいそうにねぇ。」
「不二、あまり面白がってやるな。」
「僕だってさっきはちゃんと援護したよ。」
肩をすくめて言う不二に手塚はため息をついた。
「仕方ない。雲雀さんはテニス部に巻き込まれる運命みたいだからね。」
「・・・自分でも薄々そうじゃないかって思う。」
氷帝は言うまでもなく、青学も周りにいた(いる)のはテニス部、そして引き続き立海までとくるといよいよ有難くもない運命を疑ってしまう。
「まぁそんな気落ちするなって。いつでも相談に乗ってやるからよ。」
「先輩口下手だから、誤解されないようにね。」
「越前くんには言われたくない。」
その態度も相まって生意気と称される彼に言われるのも釈然としない。言い返すと越前は猫のような目を細めて笑った。
「ところで皆んな何頼むか決めた?決まってない人は激辛四川麻婆豆腐にするからね。」
「わー!不二、待って!」
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