とイタチが指導室へ呼び出されたのは入学してから4ヶ月がたった頃だった。
授業中、たまに別の事をしていたりひどい時はサボったりしているはともかく、品行方正、成績優秀のイタチが呼び出されるのは全くもって心当たりが無い。
「何かしらね。」
「何だろうな。」
1ヶ月に1回、指導室への呼び出しがあるは別段焦りもせず指導室へとイタチを伴って向かう。イタチはなんと心当たりがあるらしい。何の心当たりなのか聞いても教えてくれないのだからおもしろくない。慌てるイタチを見るのも一興だったのに、とは心の中で呟いた。
「失礼します。」
イタチは指導室のドアをノックするとすぐに返事が聞こえてきて、ドアを開いてに入るように促した。距離が縮まってから「レディファースト」と口を酸っぱく言ってきた甲斐があるというものだ。
「おぉ、来たな。」
部屋の中にいたのは達の学年の学年主任と、2つ上のクラスの学年主任(仮に前者を学年主任Aと学年主任Bとしよう)が居た。達の学年主任はわかるが、なぜ2つ上のがいるのだろうか。
「それで、何のご用件でしょうか。」
生花の授業をサボったことか、はたまた忍術の基礎講座をサボった事だろうか。心当たりがありすぎで困るな、といくつか選択肢をあげていると、案の定学年主任Aは「本題に入る前に」と話を切り出した。
「。お前また授業サボっただろ。」
「だって先生。生花なんて私にとっては今更ですし、忍術も然り。実技があるならまだしも、座学だけだなんて・・・宜しければいくつか術を披露してお見せしましょうか?」
「あぁ、あぁ、分かった。そうだな。お前はそういうやつだ。」
はぁー、と大きくため息をついた学年主任Aは気まずそうに隣に立つ、2つ上の学年主任Bを見ると彼は低く笑って口を開いた。
「頼もしい限りだな。お前ら2人を呼んだのは他でもない、飛び級制度の適用について話をするためだ。」
それには驚いては瞬いた。この可能性も考えなかったわけではないが、飛び級するなら1年たって、昇級試験のタイミングだと思っていたのだ。まだ入学して4ヶ月。あまりにも早すぎる。
「この前の試験結果については2人とも満点、体術の授業については2人が頭飛び抜けていて他の生徒と組ませるに組ませられない、そして忍術については2人ともすでにいくつか術を使えると聞いている。」
については飛び級の布石の為、体術の授業中に怪我をした生徒を本当に簡単な医療忍術で治療したりしていたが、イタチはどこで・・・と疑問に思いながらイタチに視線を向けると、彼は肩を竦めて見せた。
「実は少し前に先生に何か術ができるか聞かれて、な。だからなんとなく今日の呼び出しが何の話か分かってたんだ。」
「一週間後から2つ上のクラスだ。まぁ、お前らなら何とかなりそうだな。」
そう言いながら学年主任Aは巻物を渡した。断って中身を流し読むと昇級することと火影の名前が記載されている。
「2人ともおめでとう。来週からも頑張れよ。」
そういう彼の顔は清々しいものだった。
飛び級制度があるとはいえ、矢張り入学して4ヶ月でそれも2学年すっ飛ばすというのは中々無いようで、一週間後のクラス移動から1ヶ月たった今でも2人は好奇の視線を集める事となった。
「・・・鬱陶しい。」
小さく舌打ちと共に吐き捨てた言葉を隣でばっちり聞いていたイタチは苦笑しながら宥めるように彼女の肩を叩いた。なんの気遣いか、とイタチは同じクラスしかも隣の席だ。
最初の1週間で前回と同様くノ一クラスから男子のクラスへ変更。そして他のクラスメートと組んでいたが2週間もするとまたもやイタチとばかり組まされるようになってしまった。デジャビュだ。
「まぁまぁそうカリカリするな。今日はお前の好きな筑前煮だ。」
「それは今日のお昼が楽しみね。」
何度かうちは家で夕食をご馳走になっていた所、うちは家で食べない時、食事はどうしているのかとミコトに聞かれ、まぁ平日は褒められた食生活は送っていなかった為、適当に躱そうとしたところに、イタチがお節介を発揮して少なくとも昼食は出来合いのパンかおにぎりばかりだと暴露してしまった。挙句、お弁当をの分まで作って欲しいとの目の前でお願いしてしまった訳だ。慌てて断ろうにもミコトがイタチにいたく同調してしまい、今に至る。ちなみにお返しに休日はお菓子を作って持って行ったりしている。
「んだよ、リア充かよ。」
そして、こういうとイタチのやりとりも目立つのに一役買っている。ただでさえ4ヶ月で3年(飛び級・昇級試験で落第しない限り)アカデミーに通っている中に飛び込んできた上に、成績はトップ。その上周りから見ればイチャついていると取れる2人に周りがやっかむのは当然とも言えるだろう。
「・・・」
なんだ喧嘩なら買うぞコラとでも言わんばかりに顔を顰めては少し離れた席でつぶやいた男を睨んでいる。大人気ないと言われようと、歯向かう奴は完膚なきまでに叩き潰す精神の濃ゆいはイタチ以上に敵を作りやすい。
「落ち着け。」
「嫌ねぇ、落ち着いてるわよ。落ち着いてあいつをどう潰してやろうか考えてるところなんだから邪魔しないで。」
「潰すほどの相手じゃないだろう。」
そしてイタチはイタチで無自覚に心ない言葉を吐き、別の意味で敵を作りやすいタイプだった。つまるところ2人揃うと際限なく敵を増やし続けるということだ。
「・・・イタチも相当よねぇ・・・。ま、いいわ。」
何の事だと真剣に聞いてくるイタチを呆れたように見る。これが天然という奴か。タチが悪い。
おまけに顔が良いのは年上の女子にも作用するようで、女子生徒からは好意の視線が多い。それも余計男子からの当たりが強くなる要因の一つかもしれない。
ちなみには女子からはもちろん、男子からも、「年下で女のくせに男の授業も受けやがって、生意気なんだよ」ということで同性からも異性からも非常に受けが悪い。
「集団行動ってこういうところが嫌。」
ぶつぶつ文句を言いながら教科書を出す。今日は午前中座学と体術、午後忍術の実技と幻術の講義、そして家庭科
。最後の授業については全く出席する気が起きないしサボる気満々だ。家庭科の授業を受けるくらいならその裏で男子がやっている組手に参加したほうが数百倍もマシというものだ。
本当に家庭科の授業をサボったは屋上の給水塔の影で本を読んでいた。いつも通り医術書だが、いかんせん最近は書物だけではどうしようも無くなってきた。かといって都合よくほいほいと実験台がいる訳でもない。(もちろん授業で生徒が軽症を負うことはよくあるが、がやりたいのは重症な患者の治療だ)
「やっぱ本格的に任務に出始めないとそうそう良い機会無いわよねぇ・・・。」
はぁ、とため息をついた時、影からぬるりと白い虎が飛び出してきた。2メートルはゆうにあるであろうその虎にはぱちぱちと目を瞬かせる。恐れは全く無い。なぜなら顔見知りだからだ。
「よぉ、久しぶりだな。」
「久しぶり・・って、なんでこんなとこにいるのよ。」
ぱたん、と本を閉じる。なんでこんなところにいるのかと尋ねたものの、彼・神威と口寄せ契約をしている彼が命令したのは明らかだ。何か自分に用でもあるのか、あの引きこもりが。
「木の葉との共同任務で、ちっと寄ったんだと。夕方迎え行くから準備しとけだってよ。」
「え?どういうこと?」
「察し悪ぃなァ。1週間修行に連れてくって言ってたぜ。」
「・・・とうとうぼけたのかしら。」
下忍にもなっていないを連れて、砂の里の幹部(とは言っても面倒くさがってほとんど任務にも出ていないらしいが)が里を出て修行だなんて許されると思っているのだろうか。
「お前それ言ったら殺されるぞ。俺にもとばっちり来るんだから言うなよ。」
「サソリのことだから、2人だけで修行よね・・・死にそうになったら誰が止めてくれるのよ。」
「お前聞いてんのか?」
は神威の言葉を無視して大きくため息をついた。
「なんだかどっとやる気が失せた。帰ろう。」
貴重品は手元にある。教科書やら何やらが入ったバッグはこの際良いだろう。よし帰ろうとは立ち上がると神威に跨った。
「ほら、行くわよ。」
「俺ァ駕籠(*)じゃねぇんだけどなァ・・・」
*:かき。籠で人を運ぶ人。
渋々ながらも駆け出す神威は滅多に彼の主人以外をその背に乗せないのだから、なんだかんだ言いながら彼女のことを気に入ってはいるのだろう。表情は読み取れないが指示を出されるがままの家へと大人しく走り出した。
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