サソリへの弟子入りは早まったかもしれない、とは傷だらけの身体に、わずかに後悔を滲ませた。
弟子入りが決まって一時間後からサソリの修行という名の憂さ晴らし兼虐待は始まったのだ。


「オイ、余所見してるなんて、余裕じゃねぇの。」


サソリが指を動かすと、3体の傀儡が再びに迫る。
厄介なのは仕込まれている痺れ薬だ。まだ、死に至る薬じゃないだけマシだが、少し掠っただけですぐ動かなくなる為、一切攻撃を食らう訳には行かない。


「っ!」


迫り来る傀儡に避けようとするが逃げ場が無い。
サソリはもう2体傀儡を追加したのだ。


は円を広げると瞬時にその身体を移動させた。
瞬身とは異なるその移動方法にサソリは面白そうに口を歪める。


次いで、歪む空間。


サソリは瞬時に飛びのいたが、サソリが座っていた木の枝は細かく裁断されてしまった。


「・・・面白ぇ。お前、忍術はからっきしだと言っていたが・・・。」
「生憎と、その分代わりになるものは出来るのよ。」


念は余り使う気は無かった。
恐らく追求されることだろう、というの予想は外れず、サソリは問い詰める為に傀儡を操る手を止めた。









これが私の生きる道 #9













問い詰められたは、諦めて全てを話した。
彼相手にごまかすのは骨が折れそうだし、何より、今後師弟関係を保つ中で話しておいた方が良いと思ったからだ。


「・・・・さっきの技、発、か。それは、俺が良いっつーまで使うなよ。」
「分かったわ。」


サソリはそう言ったっきり、考えるようにを見た。


「チャクラを練るのは問題なく出来ている。術が不完全に終わるのは、その念が原因かもしれねぇな。」


いままで、の忍術が一度とて成功したことが無い。
イタチが里に居たとき原因を探してみたものの、結局分からないまま今に至る。


「絶をして、印を組んでみろ。」


言われて半信半疑ながら印を組む。
基本の分身の術。


「!!」


は驚いて自分の隣を見た。


「ほらな。」


そこには自分に瓜二つの人物が立っている。
顔つき、服、全てが同じだ。


「はじめて、出来た・・」


は、こちらを見下ろすサソリに目を向けた。


「チャクラを術として変換する時に、オーラが何らかの形で邪魔をしていたんだろう。これから術を使う時は暫く絶の状態で使え。術に慣れてきたら、絶を解いた状態で使う。忍術と念は同時に使えるようにしておいた方が良いからな。」
「・・・貴方、絶対教師には向いていないと思ってたのに、向いてるかもよ。」


そう言うと、サソリは鼻で笑った。


「そりゃぁ、俺にかかれば人を育てるなんて訳ねぇ。ただ、面倒なだけだ。」
「性格は向いていないけれど、その洞察力と明確な説明でカバーしてるってことね。」


相変わらず、素直にほめて終わらないに、くつくつと面白そうに笑う。


「まだ憎まれ口が叩けるっつーことは、スタミナはあるみてぇだな。次はコレだ。」


そう言って放り投げられた巻物を受け取る。
もう日は暮れ始めているというのに、まだ、何かやるというのだろうか。
それ以前に既に2時間ほど傀儡と戦い続けていた為、結構な疲労感を感じているというのに。


「いいか、俺の弟子っつーことは、体術は勿論、傀儡の操作、基本忍術、医療忍術は出来て当たり前だ。」


何と、言ったのだろうか、目の前の男は。


「その巻物は練習用の傀儡だ。明日の午前中までに操れるようになれ。今からやり方を教えてやる。」
「はぁ?」


そう言うと、ごつんと思い拳骨が落ちてきた。


「口答えすんじゃねぇ。おら、やるぞ。」
「・・・・もう、お腹一杯なんだけれど・・・。」


ぶつぶつ言いながら巻物から傀儡を出すを尻目に、サソリは己も傀儡を取り出した。


















はとっぷりと日が暮れた後もひたすら傀儡を動かし続けていた。
サソリから明日の午後一で、お互いが操る傀儡で手合わせすると言われている。
今日サソリの傀儡相手に散々戦わせられたが、アレに自分の操る傀儡で戦うと瞬殺されるのが落ちだろう。
それは、仕方が無いとは思いながらも、そうなったらなったで気に食わない。


「・・・サソリの鬼ーーー!」


中々上手く動かない傀儡に、そう叫ぶと少しすっきりしたような気がした。


「てめぇ、誰が鬼だ。えぇ?」


しまった。すっかり周囲を円で見張っておくのを忘れていた、とは背後を振り返った。


「あ、あぁ。えぇと、誰かしらね。」


本日二回目の拳骨が落ちる。
こんなこと、経験したことが無い。は目に涙を浮かべながらサソリを睨み付けた。


「そんなに叩かれると、どこかの金髪みたいに馬鹿になるじゃない。」
「ったく、大した根性してるのは認めるが、今日はもう休め。チャクラも底が無い訳じゃねぇんだぞ。」


確かに、そう言われてみると、いつもより身体がだるい。
は大人しく傀儡を巻物に戻した。


「・・・お前は、素直なんだがそうじゃないんだか・・・・」


大人しく自分の言うことを聞くにサソリは少し呆れたように言った。


「自分が納得することには従うし、納得できなければ文句を言う。シンプルでしょ?」


胸を張って言う目の前の少女に、サソリは生意気なヤツだと悪態をつく。 それに対しては、どうも、と礼を言うものだから、益々食えない。


「・・・餓鬼だと思ってたら、実際は俺とそう年がかわらないっつーんだからなァ。そりゃぁ可愛くない訳だ。」


が転生する前は20代。それに今の年を足すと、同じくらい、いや、もしかしたらサソリよりも年上かもしれない。
不思議なものだ、とサソリは苦笑する。


「周りは子どもだと思って色々と世話を焼くものだから、鬱陶しいと言えばそうだけど、まぁ、それなりに楽しいわよ?」


その割には、余り里に戻りたくない様子だ。
彼女が木の葉に戻るのは4日後。その後は火の国で任務がある時に少し時間を作って修行をつけるしかない。


(戻る時には何かしら持たせておくか・・・)


自分も少しは丸くなったもんだ、と過去であれば絶対考えないようなことを、考えていることに自分でも驚く。


(明日は何をやらせるかな)


死なない程度にはするつもりだが、女だからと甘くする気は全く無い。


「半殺しになるくらいは覚悟しておけよ。」


突然告げられた言葉に、これからの修行のことを指していると察するのに数秒を要した。


「・・・貴方がちゃんと治療してくれるんなら、喜んで。」







修行