1週間厄介になるとは言っても、イタチと鬼鮫は毎日いる訳ではない。
2人がいる時は修行をしたり一緒に家事をしたりして2日間を過ごしたが、3日目の朝に二人は任務だと言って、連れ立って出て行ってしまった。
翌日の夜には帰ってくるとは言っていたが、どうなることやら。
別段1人が嫌いではない。
むしろ、1人がアカデミーに行くかと問われれば喜んで1人を取るだろう。
「お昼ごはんでも作ろう」
昨日から読み始めた、死体の加工の仕方の本をぱたんと閉じた。
いろいろと考えた結果、やっぱり最終的には里を抜けるに行き着くのだが、追跡の手は少ないに越したことは無い。
任務中に死亡と見せかけるのが一番角が立たない・あるいは良い時間稼ぎになるだろうと思い立ったはどうにか自分と瓜二つの死体が作れないかと、ここに置いてあった本の中から役に立ちそうなものを読んでいる。
(ちなみに他の暁のメンバーが置いていったものらしい)
とりあえず、昼時になったので、と作り始めた昼食ができあがるのと、見知らぬ2人の気配が近づいてくるのはほぼ同時刻だった。
これが私の生きる道 #8
は勿論、ここに近づく2人の存在に気づいていた。
もとより、人の気配は敏感だったし、修行の一環で今このアジト周辺を自分の円ですっぽり包んでいる。
『他のメンバーもここを利用することがある。一応がいることは伝えてあるから恐らく問題ないとは思うが油断するなよ。』
朝、任務に向かう直前、イタチが言い放った言葉が蘇る。
そうは言われても、今丁度昼食が出来上がったところなのだ。
夕食もこれで済ませてしまおうと、少し多めに作ったものの半分を保存用の器に移しながら、どうしようかと思案する。
今更自分が気配を消して、どこかへ潜んだとしても余計な警戒を抱かせるだけだろう。
「おお、いい匂いがするな、うん。腹減った。」
出した結論は、何もしない、だった。
ただ、予定通りご飯を用意して、食べ始める。
よって、サソリとデイダラが目にしたのは、広間で食事をしている見知らぬ女だった。
「誰だ、お前。」
は箸を置いてにこりと微笑んだ。
「ここに1週間滞在させてもらってるです。」
「・・・?」
デイダラは名前を聞き返して、知らないと即座にレッテルを貼り付けると、どうするよ、旦那。とサソリに目をやった。
「どうするもこうするも、イタチの言っていた女だろう。名前が一致してるじゃねぇか。」
「イタチの部下ぁ?この餓鬼が!?」
餓鬼、と言う言葉にの米神がぴくりと動いた。
「あぁ、嫌だ。きゃんきゃん喚く餓鬼に餓鬼扱いされたくないわ。もう少し、声量を落として話して頂けないかしら。」
その物言いにサソリはくつくつと面白そうに笑う。
「確かに、お前の方が餓鬼だな。デイダラ。」
「なっ!酷いぞ、旦那!うん!!」
やっぱり煩い。とは眉を寄せながら食事を終わらせた。
そして食器を持って立ち上がると、未だこちらを見ている2人の姿に、あれ、と首をかしげる。
「そっちの煩いのは置いておいて、貴方、随分と変わったオーラをしてるのね。まるで、貴方の中にもう一人人がいるみたい。」
凝をするのは癖だ。
そして、不思議なオーラをしたサソリに、何でも無いように言うと、流し台に向かう。
「・・・写輪眼か?」
「いいえ、生憎とそういう立派な血継限界は持っていないわ」
更に面白い、と口を歪めてサソリはヒルコから出た。
食器を水につけていたはぱちぱちと目を瞬かせた。
「へぇ、面白い。どういうこと?もうこっちからはオーラを・・・・・・あぁ、そういうこと。貴方が本体で、その糸でこのお人形を操ってたのね。」
水を止めて駆け寄ってきたは、興味深い、という視線を全く隠すことなく、ヒルコとサソリを見比べる。
凝で見えるヒルコとサソリをつなぐ複数の糸。それはサソリの指から出ていて、まるで己の世界にいた人形使いのようだ。
「お人形って言うと、なんだか可愛く聞こえるな、うん。」
サソリは珍しく楽しそうに笑った。
「そこにある本といい、面白ぇ。」
「・・・貴方も、凄く興味深い。こんな面白いオーラを持つ人、初めて見たわ。」
しげしげとサソリを観察するは、まるで玩具を見つけた子供のように顔を輝かせた。
「オーラ?ってなんだ?」
さっきからが口走るそのキーワードに首をかしげるが、はサソリの観察に忙しい。
なんていっても、人にしか見えないそれは、少し具合が違うのだ。
「傀儡は初めて見るのか?」
「本で見たことだけ。でも、こんな精巧なものを作る人がいるだなんて、思わなかったから。」
ちょっとびっくり。とこぼすに益々サソリの機嫌は上昇する。
反対に、無視されているデイダラは急降下だ。
「おい!話聞けって!うん!」
声を張り上げるデイダラに二人は一様に眉を寄せた。
「もう、仕方ないわね。オーラって言うのは、人の持つ生命エネルギーの事よ。私はそれが生まれつき見えるの。」
興が殺がれたとでも言いそうな表情では言うと、本を拾い上げた。
「悪いけど、煩い子供って嫌いなのよね。」
名残惜しそうにサソリを見て、最後にそんな捨て台詞を吐くと、はさっさとイタチの隣の部屋に作った自分の部屋に引っ込んだ。
「・・・あいつの言うとおりだな。」
笑いながら見下すように言われて、デイダラはきゃんきゃんと騒ぐが、サソリは無視して自分も自室へと向かった。
本を読みながら、役立ちそうな情報を紙に書き取る。
とは言っても、最初から己の目的に直結するものは少ない。
「2年以内に、できればいいけれど」
出来れば、誰かに助言を貰いたいところだ。
せめて参考になりそうなものでも。
ふと、この本を置いていったメンバーとは誰だろうか、と疑問が浮上するが、すぐにその答えは出る。
先ほどやってきたサソリが、本のことを言及していたのだ。十中八九彼のものだろう。
「あの煩いのがいなければ、聞けるかしら。」
決して友好的とは言い難い彼らだが、まだ、サソリの方は自分に興味を持っているようだった。
少ししか話していないが、彼の様子から初対面の人間に本体を晒すような人物には見えない。
とんとん、と指で机を叩く。
「とは言っても、あの二人もいつまで此処にいるか分からないし、さっさと聞きたいと思ってたけど・・・」
この部屋に近づく気配。
は嬉しそうに口角を上げた。
「あっちから来てくれるなんて、好都合。」
音を立てるドアに、入ってきたのはやはりサソリだった。
「その本は古いものだ。こっちを読め。」
投げて寄越された本を難なくキャッチしては驚いたようにサソリを見た。
「・・・貴方、てっきりこういう世話を焼く人間じゃ無いと思ってたけど。」
「お前の年で、こういうもんに興味を持つ奴は少ねぇ。それに少しは頭も回るようだからな。」
壁に寄りかかり、腕を組むサソリを尻目にはぱらぱらと本をめくった。
「まぁ、道中あの頭が軽いのといれば、自然とこういう会話をする相手もいない。貴方に話を聞きたい人間は山ほどいるだろうけれど、何の関係も無い奴に教える気は無い。その点、ここにいる私は少しの間、話し相手にしてやるには丁度良い、ということ?」
「よく回る頭と口だな。まぁ、そこそこ当たってる。」
は受け取った本を閉じて、サソリを見上げた。
「貴方、いつまでここにいるの?」
問われた言葉にサソリは次の任務はいつだったかと少し考えた。
「3,4日だな。」
「じゃぁ、決まりね。」
はにっこりと微笑んだ。
「私、ちょっとやそっとじゃ偽者だって分からないような自分の死体を作りたいの。少し、知恵を貸して欲しいんだけれど。」
「面白ぇ冗談だな。俺が簡単に手を貸すように見えるか?」
うーん、と考えるように声を上げて、は良い方法は無いかと探る。
「そうねぇ・・・私、貴方のこと余り知らないから交換条件を出しようにもないし、今の私じゃその代価も限られてくる。」
そう考えると本当に困った。
さて、目の前の男は何を差し出せば気に入るのか。
「あ、私の処女とかどう?」
サソリはそれに珍しく目を丸くした。
目の前の、デイダラよりも年下に見える少女は今、何と言ったのだろうか。
「あぁ、余りそっちには困って無さそうね。それじゃぁ・・・」
次は何が良いだろうか、と続ける声をサソリの笑い声がかき消した。
「お前、俺の身体が普通じゃないことを分かって、よくもまぁ、そんな事を言えたもんだ。しかもお前、いくつだ。」
「12よ。」
それを聞いて、サソリはまた笑い始めた。
はそれを諌めるべきかどうか迷って、サソリが笑い終わるのを待った。
言われてみると確かに、自分は今12歳で、身体上は10歳くらいにしか見えないだろう。
全く、念能力を成人してから身に着けていれば、また違った結果が待っていたのに、と内心後悔するが、後悔先に立たず。
「気に入った。いいだろう。ただし、条件は俺の弟子になることだ。」
それは願っても無い申し出だとは快諾した。
まさかの師弟関係
2013.4.15 執筆