とまぁ、話しは逸れてすっかり昔話になってしまったが、にとってサスケは微妙な存在だった。
別に嫌いな訳でもないし、好きな訳でもない。けれど、全くの他人には思えない存在。
「え、もしかしてもサスケくんのこと・・・!」
いのがきっと目を吊り上げるのが見えて、は溜め息まじりに首を横に振った。
そうしている間に廊下を歩いていたサスケは自分のクラスに戻ってしまったのだろう。姿は見えない。
「残念だけど、私は年上が好みなの。同年代は眼中に無いわ。」
そう言いながら再び本に視線を落としたに、いのはそれはそれで問題だと呟く。
「の恋バナなんて聞いた事無いんだけど、ちゃんと恋したことあんの?」
まさか、従姉妹に恋について説教される日が来ようとは。
は微妙な表情で顔を上げた。
「が男の子に興味持ったのなんて、イタチさんの時くらいしか思い浮かばないんだけど。」
「・・・よく覚えてるわね。」
イタチはいのが幼いうちに里から抜けたし、会ったことも片手で足りる程度だと記憶している。
彼女がそんなに物覚えが良かったとは、と驚いた様に言う、彼女にそれが伝わったのか、すぐにむっとした顔になってしまった。
「そりゃぁ、そうよ!だって衝撃だったもの。」
何が?と言う前に、いのは話し始める。
「あんなに他人には無関心なが初めてなついた人!ってば外面は良くても何か一線引いてて・・・」
そこまで言って、いのは言葉を詰まらせた。
そして小さく溜め息をつく。
「もしかしたら、最初で最後だったんじゃない?」
笑って言ってはいるが、違和感を感じる。
子供だと侮っていたが、子供だからこそ、のこの何処か突き放す冷たさを感じ取ったのだろう。
それでなくても、彼女は幼い頃からと共にいる為か、他の子よりも聡い。
「心外ね。いののこともそれなりに気に入ってるつもりなんだけど。」
「そりゃそうよ!これだけ一緒にいるんだから!」
しおらしくなったと思ったら、いつもの少し傲慢な彼女が顔を出して、は再び本に目を落とした。
これが私の生きる道 #6
イタチの名前が出たからかどうかは知らないが、はよくイタチと修行をしていた森に足を向けた。
あぁ、これはあの時自分が傷を付けた木だとか、イタチが折ってしまった所だとか中々感慨深い。
そっと、木に触れようとした時、近付いて来る気配には頭上の木の枝に飛び乗ると気配を消した。
知っている気配だ。
(うちは、サスケ・・・)
見える姿は、彼に似ている。
・・・似ているが、やっぱり似ていない。
(・・・いのが、イタチの話しをするから)
それでも、サスケの姿を見つめてしまったのは、血のつながりがあるからか。
は静かに息を吐き出すと、さっさとこの場を離れようとぐっと足に力を入れた。
が、後ろ髪を引かれるように視線を戻す。
やはり、イタチに似ている。
数少ない自分の理解者、まるで兄のような存在の彼に。
(ここで、私が突然現れたらびっくりするかしら。最初、イタチに会ったときのように)
最初の出会いは、岩を粉砕したとき。彼は自分の姿と言動に驚きを隠せないでいた。
彼はどういう風に驚くのか。少し興味はあるものの、今彼の目の前に姿を現す気はさらさら無い。
は音も無くその場から姿を消した。
サスケの様子を見ていると、もし自分が姿を現したら今後アカデミーでの生活に支障が出そうな程付きまとわれそうだ。
(面倒臭いのはいや)
は人の目が無いのを確認してようやく地面に降り立った。
そしてそのまま大通りに出る。
イタチのことを思い出したからか、お陰さまで今日は不安定だ。
「あ、ちょっと、待てってばよ!」
傾斜のある坂道上から転がって来る音と声。
は視線をあげた。
そして足を止めて眉を寄せる。
「おい、危ないってばよ!!」
勘に触る話し方をする奴だ、とは溜め息をつくと、その転がってきたものを蹴り飛ばした。
風呂敷で包まれた何かは、転がっている間もがしゃがしゃと割れた何かがぶつかり合う音が聞こえて来たが、が蹴り飛ばした時、それは一際大きく聞こえて来た。
「あーーー!!!」
蹴り飛ばされた荷物は、上空に浮き上がったかと思おうとの斜め前に落ちた。
その時、聞こえて来た絶叫に、は耳を押さえた。
「お前、何するんだってばよ!」
そう言いながら走って来た少年に、は大袈裟に溜め息をついた。
「何って、転がって来た障害物を蹴り飛ばしただけだけど、何か?」
そうして今更ながらにこりと微笑んでやると、少年の表情からは憤慨しているのが見て取れた。
「感じ悪い奴だな!何も蹴飛ばすこと・・・!」
「ごめんなさい。悪気は無かったの。」
明らかに嘘をついている事が分かるその表情にナルトは更に眉を寄せた。
「あれ、君・・。」
その後ろからやって来たのは見覚えのある人物ではそっちに視線を投げた。
見覚えがあるとは言っても、直接かかわり合いになったことは無い。
唯、向こうから一方的に面白そうな視線を向けられることがある、そんなもの。
「あら、イルカ先生。ごきげんよう。」
そうしてにっこりと笑ってみせると、イルカは苦笑して頬をかいた。
「そっちはあんま機嫌良さそうには見えないな。」
「えぇ、よくお分かりで。」
それだけ言って、さっさとこの場を去ろうとは背を向けた。
が、思いとどまったように振り返る。
「あぁ、先生。お願いがあるんです。」
「なんなんだってばよ!」
返して来たナルトにお前には言ってねぇよ、と笑顔で告げるとくるりと再びイルカに顔を向ける。
「私、どうしても母と父のお墓参りがしたくて・・・あぁ、勿論一人で。でもおばさまとおじさまってば心配性でしょう?だから、イルカ先生。一週間合宿とか何か適当な理由付けて、私の一人旅をどうにか誤摩化して頂けないか、と。」
思いも寄らなかった相手からの思いも寄らなかった依頼に、イルカははぁ?と思わず声をあげた。
「ということで、決まり。じゃぁ、お願いしましたからね?先生。」
ひらり、と手を振ったと思ったら、その場にもう、はいなかった。
かれの面影