何故、自分がこんなにも孤独感に苛まれているのかが全く理解出来なかった。
一応身を置いている家では、それなりに干渉され過ぎない環境を作りかけているし、こちらの世界に来て、初めての友人も出来た。
それなのに、どこかへ帰りたいという気持ちは消えない。


「クロロ・・・」


この世界に来て、初めてその名前を呟いた。
彼は今、何をしているだろうか。


立ち止まった眼下には崖。
もうすぐ日が暮れるのだろう。赤い光が顔を覗かせている。


(帰りたい・・・)


この世界で自分を最初に理解してくれた両親と呼ばれる存在は、思った以上に大きかったらしい。
今更ながら、それを痛感して、は鼻がつんとするのを感じた。


(泣くなんてみっともない)


彼女の高過ぎるプライドは、決してそれを許そうとしない。
だからこそ、尚更、今の自分がみっともなく思えた。











これが私の生きる道 #5












彼女をこの世に生まれてより、理解してきた二人の喪失。
彼女はそれを静かに受け止めているように見えたが、きっと、二人の死は何かの切っ掛けになって彼女の精神的不安定をもたらすだろうと、イタチは考えていた。
二人が亡くなって2ヶ月程経っているが、彼女は二人の死を受け入れたように人を、自分をも騙しているだけなのだと。


(受け止めているなら、何故、サスケの話をする時、動揺する。)


彼女はきっと自分自身を理解してくれる人を探している。
そのタイミングに自分が、それも、両親からよく話を聞いていた人間だったからこそ、今の関係に至っているのだろう。


(放って、おけるか)


彼女は本当に気配を消すのが上手だ。
だが、まだ未熟なのは真実で、己の眼で微かな軌跡を追うことは出来る。





ようやく見つけたその背中に声をかけると、その背は少しも動揺する事はなかった。


「どうかしたの?」


なんでも無いように言う彼女にイタチは強いひとだと素直に思う。


「・・明日は、昼食を一緒に食べてから、修行にいこう。どこに行きたい?」
「お昼?」


ようやく、はイタチを振り返った。


「・・・美味しい中華が食べたい。」
「分かった。」


は溜め息をついて、俯いた。


「ごめんなさい。気を使わせるつもりは無かったの。」
「・・・何のことだ?」


イタチはそう言いながらを抱き上げた。
小さい身体は軽々と抱えられる。


「・・・イタチって、見た目、冷酷で恐そうだけど、意外に優しいのよね。」


子供扱いすると、余り表面には出さないものの、笑顔で圧力をかけて来るだが、今回はそうでもないようで、イタチの首に顔を埋めた。
その様子は歳の離れた兄妹のようだ。


「意外か?」
「えぇ。」


はぐっと目を瞑ると、顔を離した。
抱きかかえられているは目線はイタチと同じだ。


「ありがとう。」






















イタチが、あの事件を起こしたのは、そんなやり取りが1年と少し続いた後だった。
夜、が騒ぎを聞きつけて真っ先に向かったのはよく修行を行った場所。


「・・・。」


木から降り立つと、其処には矢張り彼の姿があった。


「この騒ぎは一体なに?」


自分の一族の人間を次々と手にかけていたことは道行く人の話で知っていた。
だが、彼に対する嫌悪は全く無い。
彼女の自分が知らない人間への関心は著しく低かった。


「すまない。」
「・・・謝らないでよ。」


血に濡れた彼の表情は伺い知る事が出来無いが、彼の赤い瞳が全てを語っているようだった。
何かを言いかけて、口を噤んだ彼女は溜め息をついた。


「・・・3人、こちらに向かってるわ。あと1キロも無いわね。早く、行った方が良いわよ。」


は目を伏せて呟く様に言った。


「傍にいてやれなくて、すまない。」


そうしてぐしゃりと頭を撫でる。
はそれを黙って受けた。


「・・死なないでよ。」
「あぁ。」


力強く頷くイタチを早く行くように促すと、彼はもう一度の頭を撫でてからその場を後にした。
その背中を眺めていたが、すぐに彼の姿は闇に解けてしまった。
次いで追っ手の気配に、は気配を消してその場を離れた。


(確か、こっち)


数回だけ訪れたことがあるイタチの家。
其処は酷い状態だった。
円を広げ、すっぽりと家を覆うと一つだけ人の存在を感じ取って、そこへと向かう。


(十中八九、イタチの弟)


何があったかは知らないが、イタチはうちは一族を皆殺しにしたと聞いている。
その中で生き残っている人物がいるとしたら彼の弟だと直感的に感じた。


「火が回ってる・・・さっさと連れ出さないと。」


そう呟きながら廊下に出ると、自分と同じくらいの身の丈の少年。
は気を失っている彼を担ぐと、足早に屋敷を後にして、病院へと向かった。


「・・・だれ・・・?」
「・・・すぐに病院へ連れて行ってあげるから。」


途中、背中の少年が声をあげたが、は答えは返さずにそう告げた。
彼女にとって、彼に自分の事を知らせるのは本意ではなかった。
それなのに彼を助けているのは、何となく、イタチがこれを望んでいる気がしたから。


「びょう、いん・・・」


意識は朦朧としているようで、好都合だと心の中で呟く。
そのまま再び意識を失った少年を病院の近くに転がしたのは、それから数分後のことだった。

病院の人間に発見されて、運ばれて行くのを見届けて、はようやく帰路についた。








別れ