二人は、自分が転生前の記憶を持っていることを明かしても、全く変わらずに自分たちの子供として扱って来た。
「ー、これがかの有名な・・・」
「トリカブトでしょ?あぁ、正式にはキンポウゲ科トリカブト属の一種。生薬名はぶし、毒に使うときはぶす。比較的湿気の多い場所に分布する。」
はそう言ってようやく本から顔を上げた。
笑顔の父の表情はぴきりと固まる。
「摂取すると、嘔吐、呼吸困難、臓器不全から死に至ることも。あぁ、でも、弱毒処理をすれば強心作用や鎮痛作用があるのよね?パパ?」
シュウはひくりと頬を引きつらせたあと、カヤに駆け寄った。
「カヤー!が苛めるー!!」
「いつものことでしょ。」
対するカヤは冷たくあしらい、食事の準備を淡々と進めた。
「カヤさん、手伝うわ。」
「もー、ったら、シュウとは違って優しいんだから!」
がーん、と、自分の心情を口で表現する彼に、二人で笑い合いながら、久しぶりの3人揃っての夕食のためにカヤを手伝う。
「やっぱり娘って良いわね。明日は、一緒にお菓子作りましょ!」
「甘さは控えめでね。」
「あれ、俺は?」
放置されていたシュウは慌てて二人の後ろに回った。
「よし!じゃぁ明日は菓子と弁当作ってピクニックだな!」
それに、カヤとは嫌そうに顔を見合わせたものの、苦笑すると、頷いた。
これでは、どっちが子供か分からない。
これが私の生きる道 #4
いのは、繋いだ手を嬉しそうにきゅっと握った。
横を見ると、ほぼ自分と変わらない身の丈の(少しだけ自分の方が小さいかもしれないが)従姉妹の姿。
「えぇっと、塩と・・・あれ、あと何だっけ。」
早速買うものを忘れてしまった彼女に、は呆れたように口を開いた。
「塩と牛乳と豚肉とネギよ。あぁ、あと水ね。全く、子供に重いもの買いに行かせるなんて。」
ぶつぶつと言っては近くのスーパーを目指す。
実は何だかんだ言ってこの人生初のおつかいなのだが、全く嬉しくも何ともない。
最近自分のことを随分としっかりした子供だと理解し始めたいのの両親は、そろそろお使いに行かせるタイミングだろうと勝手に画策して、先ほど昼食を食べてすぐに、行って来いと放り出されてしまった。
「?」
さっさと買って帰ろうと、足を進めていると後ろから声をかけられて振り返った。
「あら、イタチ」
「あ!イケメンのお兄さん!」
と同時に声をあげたいのの言葉には溜め息をついて、イタチは苦笑した。
「どこか出かけるところか?」
遠出にするにしては軽装。これはお使いでも頼まれたかと思いながら尋ねると予想通りの言葉が帰って来た。
「お使いよ。丁度良いわ。荷物持ちお願い。」
「ん?あぁ、別に構わないが・・・。」
「ありがとう!イケメンのお兄さん。」
は自分の横で元気よくそうお礼を言ったいののデコにデコピンをしてやった。
「いたぁ!なに、ちゃん」
「イケメンのお兄さんじゃなくて、イタチよ。いつまでもそう呼んでたらイタチが不憫だわ。」
「・・・(確かに。)」
イタチは心の中でそう呟いて二人を見下ろした。
「分かった。イタチさんね。私はいのよ。よろしく!」
「あぁ。」
こうして、この奇妙な3人での買い物が始まった。
イタチは、いのと何度か会ったことはあったが、言葉を交わしたことは無い。
一方、いのはというと、この時からミーハーだったようで、色々と質問を投げかけて行く。
スーパーに向かっているところから、買い物中も質問し続けるいのに、は初めて彼女が凄いと感じた。
「ねぇねぇ、イタチさんは、ちゃんのこと、すきなの?」
買い物のあとの帰り道、今度はそう尋ねられて、水の入った瓶3つと塩を2袋と牛乳を2本(イタチが居なかったらそれぞれ1つずつにするつもりだったが、イタチがいる今、遠慮を全くしないは豪快に買って持たせている)持ったイタチはすっこけそうになった。
「・・・いの、男女の間に友情は存在するのよ。覚えておきなさい。」
「ゆうじょー?」
難しい、と小さく呟くいのに、イタチはようやく口を開いた。
「俺とは友達ということだ。」
「へぇー!」
そう言って、いのは今度はに視線を向ける。
その視線に、嫌な予感がして、は顔を背けた。
二人は決まって、あの森に向かう。
「そういえば、ここって、そんなに奥に行かなくても人が居ないわよね。町のすぐ傍なのに。」
「ここはうちはの私有地だからな。」
さらりとそう返されてはイタチを見た。
「・・・イタチって坊々だったのね。」
そうしてじぃっと彼の顔を眺めた。
「まぁ、確かに育ちの良さそうな顔はしているかも。」
「褒め言葉と受け取って良いのか?」
「勿論。」
笑顔で頷くと、イタチは微妙な表情のまま肩を竦めた。
はそれをよそに、ポケットに手を突っ込むと紐を2本取り出す。
「そうそう、これ、髪紐に使って。・・・あぁ、もう一本は予備よ。」
「?」
彼女が自分に贈り物をするなど、珍しい。そう思いながら、イタチはそれを髪にくくり付けた。
「それ、私の念をかけてるから、ちょっとやそっとじゃ駄目にはならないけど、だからと言って乱暴に扱っちゃ駄目よ。」
「あぁ・・・しかし、これは、何か意味があるのか?」
そうして手に残ったもう一本の紐を見ると、細かい文字が一カ所刻まれているのを見つけた。
読める文字ではないことから、彼女の前の世界の文字であることが分かる。
「秘密」
「・・・そうか。大事にする。」
彼の良い所は、こういう、しつこく追求をして来ないところだ。
は、持って居た刀を包んでいた布から出した。
そこには二振りの刀があって一振りをイタチに投げて寄越す。
「刀、使えるでしょ。」
「あぁ。」
だが、久しぶりだ、と、イタチは鞘から抜いた刀身を眺めた。
「実は、私、前の世界ではこれを使ってたのよね。」
「だろうな。」
この二振りの刀は、以前が「刀が欲しい」と呟いたのを覚えていたイタチが彼女の誕生日に贈ったものだ。
「念は使わないから安心して。あぁ、その代わり忍術も使わないでね。」
そう言いながら鞘から刀を引き抜いた。
の戦闘スタイルはその速さと、彼女の発を活かした特攻的なものだったが、速さについてはイタチの方が上。更に、発はまだ使える状態に無い。
「考え事か?」
存外に近くで響いた声にはイタチの振り下ろした刀を己ので受け止めた。
「あぁ・・・そうね。どういう風に攻めるのが良いのか、ちょっと悩んでるのよ。」
そう言いながら彼の刀を弾き返して更に叩き込む。
この世界で刀を扱うのが初めてとは言っても、流石それなりに修行をして来ただけはある。
彼女の身の丈程ある刀を易々と扱う姿にイタチは感心した。
「随分扱いに慣れているな。」
軽く彼女の剣撃をいなしながら、呟く。
か細い腕には不釣り合いな重い一撃。彼女には驚かされてばかりだ。
「大分鍛えられたもの。流石に、鈍ってるけれど。」
そう肩を竦めたところで、何かが走って来る音に、は近くの木に飛び移って気配を消した。
「兄さん!」
その声に、は顔をちらりと覗かせて声が聞こえて来た先を見た。
イタチはと言うと、彼女の気配の消し方に感心しながらも、己もその声の主に視線を向ける。
「サスケ。どうした。」
「どうしたって、いつ修行つけてくれるんだよ!」
は小さく息を吐き出すと、別の木へと飛び移った。
少しだけ揺れた頭上の木に、イタチもサスケも頭上を見上げる。
「・・・鳥かな。」
「いや」
すぐに否定して、イタチはぐしゃりとサスケの頭を撫でた。
「すぐ戻る。先に戻っていてくれ。」
「え?」
「気をつけて帰るんだぞ。」
言うなり、自分の目の前から姿を消した兄に、サスケは頬を膨らませた。
「ちぇっ、何だよ。」
そう呟いて、くるりと背を向けた。
偶然