「こいつが今俺が見てる新人!」


そう言ってみせられた写真には、1人の少年と、その少年の肩に腕を回して豪快に笑っている我が父の姿。
その写真の端には母が呆れた様な顔で立っている。


「・・・なんか、良かったわね。しっかりしてそうな新人さんで。」


大雑把な父は、結構抜けている。
例えば、ピクニックに行くぞと意気込んで、るんるんと走っているうちにお弁当を振り回してぐちゃぐちゃにしてしまったり、罠の作り方を教えてくれるのは良いが、それを不用意に放置して自分がかかってしまったり(そうは言っても咄嗟の動きで脛に青あざが出来るくらいで収まったのだから腕は良いらしい)。


「イケメンだろ?」


どうやら、暗部にはOJT的な制度があるらしく、父は今年初めてアドバイザーになったらしい。
まぁ、言っても若い方である父にこの話が来るということは、本当に忍者としての才能はあるのかもしれない。


「この前なんて、飯食いに行くぞって、3人でご飯食べに行ったんだけど、この人ったら『奢りだから好きなだけ食べろよ!』って言っておきながら財布忘れちゃって。」
「あー、カヤ、あんまそういうことは・・・」
「結局私も財布もってなくて、イタチくんに奢ってもらっちゃったのよね。あの時は本当に無様過ぎて笑っちゃったわ!あっはっは!」


そう言って豪快に笑う母。
自分も財布を忘れていたくせに、そんなことはすっかり忘れているようだ。


(イタチ君、大変でしょうね)


本気で抜けている父と、しっかりしている癖にどっか抜けている母。
この二人に構われたら気苦労が絶えないだろうに、とちょっと気の毒になってその写真を見つめた。









これが私の生きる道 #3











父母が家に帰って来るのは数週間に数日だった。
その中で6割程会話に出て来る名前は彼の名前だった。


「貴方のことは、よーく、シュウさんとカヤさんからお話は聞いていたわ。」


確かにイケメンかも。とその顔をしげしげと眺めた。


「君の事もよく聞いていた。大人びているとは聞いていたが、予想以上に・・・」


というか、大人びている大人びていないの話ではない程、落ち着いた様子でこちらを見ている少女を目の前に、イタチは疑問に思う。


「可愛げの無い子供?・・・えぇ、それは十分自分でも自覚しているわ。」


くすくすと笑ってはイタチを見上げた。


「シュウさんとカヤさんがよく話していた『イタチくん』に偶然会えたのは幸運と言えるんでしょうけど、生憎、私、今すっごく機嫌が悪いのよね。」


ふかーく溜め息をついては少しだけ目を閉じた。


「・・・1人でここまで森の奥まで入るのは危険だ。」
「あぁ、嫌だ。説教?」


は肩を竦めてくるりと背を向けた。


「悪いけど、説教を聞く気分じゃないわ。」


そう言っては足を踏み出した。
それを追ってイタチも足を踏み出す。

二人ともほぼ同時に身体がぶれたように見えた瞬間、その場から姿を消した。


(結構速いじゃない・・・いや、)


森の奥へ、奥へと向かうに彼はぴったりとついて来る。


(私が遅いのね。)


両親は自分を忍にする気が無いのか、忍術という類いのものについて全く教えては来なかった。
その為、今のの力は全て前世での記憶を頼りに再現させたものでしかない。
前、行った修行を自分に課しているだけで、相手は居ない。
つまるところ、組み手については、全てシュミレーションだった。


「やっぱり、1人でやるには限界があるってことね。」


己の弱さを認めるのも一つの強さだと自分を納得させては足を止めた。


「ねぇ、貴方、いつまでついて来るのよ。」
「君を放っておいたらシュウさんとカヤさんに顔向け出来ない。」


イタチも自分も息は上がっていない。
しかし、明らかに感じる力の差に、は舌打ちした。


「ねぇ、お願いがあるの。」


イタチは促す様にの目を見つめた。


「時間があるときで良いから、修行、つけてくれない?」


それに、彼は考えるように顎にてをやった。


















は、全てを彼に話した。
そう、前の世界の事からこの世に生まれ落ちたことまで、全て。
これを話したのは、父母以外に彼が初めてだった。


「基礎体力はあるみたいだな。」
「そう、言って、貰えると・・・あー、きっつい!」


上手くチャクラをコントロールして、足を木の枝にくっつけてぶら下がりながらの腹筋は、慣れない力のコントロールをしているからか、異様な疲労感を感じる。


「その歳でそれだけ出来れば上出来だ。」


もー無理。と呟いて木から飛び降りて着地する。


「チャクラのコントロールは上手いな。だが、術には結びつかない・・不思議だ。」
「・・・イタチって、たまに、冷静に人の心をえぐるわよね。」
「そうか?」
「そうよ。その淡々と言う感じが結構傷つくのよ。酷いったら無いわ。」


手渡された水をごくりと喉に流す。


「ネン・・・と言ったか。チャクラのコントロールはそれに似ている様だな。」
「んー、そうね。イメージはしやすいかも。」


自分のオーラを身体の一部に集める作業は結構昔から得意だった。
あの地獄の特訓のお陰だろう。身体に染み付いているお陰で、ようやく流がこなせるようになった。


「・・・最初に出会った時のやつも強烈だったしな・・・。」


イタチは最初に目にした驚愕の光景(が片手で大きな岩をばらばらにしているところ)を思い出して呟いた。
あれほどの力を出すのは中々出来ることではない。
チャクラを(の場合はオーラだが)手に集中させて、それを叩き込む。
少なくとも、の歳で出来たとしたら、本当に天才児だ。


「あぁ・・・アレね。あっちの世界では流って言うんだけど・・・そういえば、貴方達には見えるのかしら、こういうの。」


はそう言ってぴんと人差し指を上に向けた。
オーラで「見える?」と、書いたそれに、イタチは目を赤くした。


「あぁ。」


は彼の視線が、自分のオーラで描かれた文字の場所を見ていることを確認すると、それを消して、今度は右手にオーラを集中させた。
そしてそれを今度はするりと左手、右足に移す。


「こういう風に、オーラを攻撃、防御する場所に素早く動かすことを流って言うの。これ、私結構得意なのよね。」


そう言いながらオーラの集まっている右手を寄りかかっていた木にゴンと当てるとその木はの右手が当たった部分が吹き飛び、倒れた。


「・・・凄い怪力だな。」


しげしげとその手を眺めてイタチは感心したように呟いた。


「組み手ではやらないわよ。」


安心して、と言うと、イタチは苦笑して頷いた。


「それは助かる。」


そうして、くしゃりと低い位置にある頭を撫でると、は驚いた目でイタチを見る。


「あぁ、悪い。丁度と同じくらいの弟がいて・・・」
「ふぅん・・・弟さん、いるのね。」


は別段その手を振り払う事はしなかった。


にもいるだろう?妹みたいなものが。」


以前、イタチと刀を選びに行った時に偶然出会った従姉妹である、いの。
後で、「誰々、あのカッコイイおにいさん!」と問いつめられたのも記憶に新しい。


「あー、まぁ、そうね。」


確かに、彼女は妹みたいな存在かもしれない。


「えぇ。確かに、そうだわ。」


それでも、家族には程遠いのだと、は心の中で呟いた。









怪力少女