Dreaming

これが私の生きる道 #27

は脱いでいた紅い雲の模様の入っていない黒の羽織を羽織り直した。
洞窟の中は暑い外から入った際には涼しく快適に感じたがしばらく経つとひんやりと冷たく感じる。
それと同時にそろそろ我愛羅の尾獣の分離も終わりが見えてきた。


(人柱力、ね・・・)


洞窟の片隅に腰を下ろし、我愛羅を眺めているとナルトの姿が思い浮かぶ。彼も、我愛羅のように尾獣を引き剥がされて生き絶えるのだろうか、と。は居心地の悪さを感じて目を閉じた。
別に未練があるわけでは無いが、も人並みの感覚は持ち合わせている。今更だがかつての仲間の命を奪うのは気がひける。こんなことを考えてるのがバレたらサソリには甘いと、イタチにはだから里抜けなんて止めておけと言ったのに、と言われてしまいそうだ。
どさり、と我愛羅の身体が地面に落ちる音では目を開いた。


(まぁ、仕方が無い)


すでにナルト達はの”円”の範囲内に入ってきている。気は進まないが、これも仕事だ。


「もう一人人柱力がいるんだってな・・・悪く思うなよ、イタチ。」


頭上からサソリの声が聞こえてきて、は視線を上にやった。すると、何か言いたげなイタチと目が合う。
大方、がナルト達と対峙する事を気にしているのだろう。だがそれには首を横に振った。
全てを聞いたわけではないが、イタチが里を抜けたのは事情があったからだという事は知っている。里への執着が薄すぎて、力を求めて里を抜けたとは違うのだから、きっとイタチの方が木の葉の忍と対峙することに心の中では抵抗がある筈だ。


(外は・・・7人。旧カカシ班ともう1班、ゼツの話だとガイ班が来てるってことね・・・あと、サソリのお祖母様。)


サソリはどう思っているのだろうか。と思ってサソリを見てもヒルコに入っている今は何も読み取れ無いし、きっと本体が出ていたとしても分からないのだろう。


「外の奴らはサソリとデイダラで始末しておけ。ただし人柱力は生け捕りにしろ。他は解散だ。」


暁のリーダーがそう告げている音を拾う。そういえば彼ともう一人いるらしい女性のメンバーだけ、暁の中で会っていないなとぼんやり思う。まぁ、は暁のメンバーではなく、サソリとイタチの部下という扱いになっている為仕方がないのだが。
一体こんな一癖も二癖もあるようなメンバーばかりの組織をまとめる彼はどういう人物なのだろうかと今更ながら興味が湧いた。


「イタチ・・・九尾の人柱力はどんなヤローだ?」


問われて、イタチはがその人柱力と暫く同じ班にいたことを伝えていないのか、と視線でに尋ねた。が、その視線に気づいたサソリは「あぁ・・・」と納得したようにを見た。


「知り合いか?。」
「まぁね。でもイタチが彼のことをどう表現するのか気になる。」


そう言うとイタチは呆れたようにため息をついた。まるで心配して損したとでも言うような表情だ。


「一番最初に大声で怒鳴ってくる奴がそうだ。」
「ん?なんだそりゃ?」
「もっと具体的な特徴はねーのか?うん?」


デイダラが続けて尋ねるがイタチは答えることなく姿を消してしまった。


「・・・相変わらずいけ好かねぇヤローだぜ。うん。」
「まぁが顔見知りらしいからな。」
「イタチの言った特徴だけできっとわかると思うわよ。」


それにサソリは鼻を鳴らしただけだった。




























カカシ班とチヨが洞窟へと入ってきて今まさに対峙しているというのに、 どちらが九尾を狩るかで喧嘩を始めた2人にはため息をついた。この2人の話に芸術が絡み始めると長いのだ。
しかもデイダラが我愛羅の身体を粘土の鳥に咥えさせて勝手に逃亡したのだからタチが悪い。どうせなら会話で平和的に、禍根を残さずやってくれと思うのだがこのメンツにそれを求めるのは無理なのだろうか。
デイダラの思惑通り、彼というより我愛羅を追ってナルトとカカシは飛び出して行ってしまった。


「チッ・・・あのクソガキ・・・、追え。」


その名前が出た瞬間、サクラの顔にまさか、と動揺が走った。


「えぇ・・?追ってどうするのよ・・。」


ついで、聞こえてきた声に確信する。笠を深く被っていなくて顔は見えないが、確かにかつて同じ班だった少女だと。


「アンタ・・・なの!?なんでそいつらと・・!」


はサクラの声には答えずに壁に寄りかかっていた背を離した。


「口答えするんじゃねぇ。邪魔して、で、一尾の抜け殻を俺のとこまで持ってこい。」
「簡単に言うわねぇ・・・」
「アレを使っても良い。さっさと行け。」
「はいはい。」


仰せの通りに、と呟いて”円”を広げながらサクラを見る。
泣きそうな顔で何かを言いたそうにしている。が、こちらに話す事などないのだ。


「行ってくる。」


“円”の中に先ほどデイダラが飛び出す瞬間にあの粘土の鳥に刺しておいた”念”を込めた針を補足して”跳んだ”。


「うわっ!ってか!いきなり出てくんじゃねぇ!うん!」


予想はしていたが想像以上の暴風に突然叩きつけられて足にチャクラを込めて鳥にはりつく。
突然現れた人影にデイダラは身構えたがそれがだとわかると、くたりと肩を下ろした。


「サソリが邪魔して来いって言うから。」
「ほんっと性格悪ぃな、旦那。邪魔すんなよ!」
「いやだから邪魔しろって言われてるんだってば。」


呆れたように言って、は眼下のカカシとナルトを見下ろした。


「で、どうするのよ。もう粘土も無いんでしょ。」
「それを今考えてるんだっつーの!うん。」
「後先考えずに突っ走るからよ。準備不足だって我愛羅との時に言われたばっかじゃない。」


バカなの、と付け加えられた言葉にデイダラは地団駄を踏んだ。


「だぁー!うるせぇ!今考えてんだよ!」
「3分以内に良い案が浮かばないんだったら私が貰ってくからね。」


デイダラは舌打ちをして追ってくる2人を見た。人柱力だけではなく、写輪眼を持つカカシまでいるのだ。
そう簡単にはいかない。とその時、空間が歪むのを感じてデイダラが何かをする前にその左腕が消えた。


「・・・あら。」


驚いたように言ってはすぐさまはデイダラを抱えた。その時にはすでにナルトが迫っている。


(ナルト達だけじゃなくてカカシ先生も成長してるってことか・・・)


このまま”念”で移動してしまいたいが、人を連れて移動することはできない。仕方なく鳥から飛び降りて下の木の枝に着地して我愛羅がいるあたりを伺うがすでにナルトが回収してしまっている。


(負傷したデイダラ連れてちゃ分が悪すぎる。)


ここは神威にデイダラを逃させる間が囮になって、頃合いを見て”念”で逃げるのが良いだろう。と、その前に状況をサソリに報告しなければ。そう考えながら神威を呼び出してデイダラをその背に放り投げる。


「行って。」
「あぁ、クソ!いてぇ!」
「後で治療してあげるから、ほら。」
「逃がすかよ!!」


ナルトの影分身が数体デイダラと神威に向かっていくがが2体を刀で斬り伏せ、残りの攻撃を神威がうまく避けての背後へと走り去っていく。


「・・・暁・・のコートは着ていないようだが、何者だ?」
「あぁ、やっぱり声だけじゃわかりません?カカシ先生。」


今にも飛び掛かりそうなナルトの本体を手で制しながら鋭くカカシが尋ねると、は笑って言って、笠を取った。
そこから見えた見覚えのある顔に2人は目を見開く。


「お久しぶりです。お二人とも、随分と力をつけたみたいで。」


森の中で日差しも遮られているし、もういいか、と笠をぱさりと放り投げた。


!!お前、こんなとこで何してるんだってばよ!」
「生きているとは聞いていたが、まさかお前、暁に?」


カカシの言葉にナルトは動きを止めて、すがるような目でを見た。


「まさか、そんな訳・・」
「正確には暁の一員じゃないんですけど、そうですね。私の師匠が暁なもんで、ちょっとお手伝いしてるんですよ。」


神威は順調に逃げているようで、後少しでの”円”の範囲から抜ける。ぎりぎり範囲内にいるのは他にサソリくらいだ。


「・・・あぁ、ヒルコか。」


カカシは過去の記憶から引っ張り出してきた、あの一度だけ出会ったの師という人物をあげるとは頷いた。


「流石に私も同郷の、それも同じ班だった人たちとやり合うのは本意ではないんですよ。見逃してもらえません?」
「そりゃできない相談だネ。」


そりゃそうか、とは冷静にカカシは瞳術の使いすぎでそこまで脅威ではないと判断するとその横で未だ放心しているナルトを見た。


「・・・ってことは、お前も、我愛羅を・・・嘘だろ。」
「ナルト、落ち着け。」


目を赤く染め始めるナルトを見ながら、”円”からデイダラが抜けたのを確認して、ナルトが動くのを待つ。


「ナルト!」


そしてカカシの制止を振り切って飛びかかってきたナルトの攻撃を避けて土埃が舞った瞬間、自分の体を分身と入れ替えては再び”念”でサソリの元へと”跳んだ”。





















”跳んだ”瞬間見えたのは、サソリ本体とそれに迫る2体の傀儡。切っ先はサソリの核を向いている。
あ、と声をあげる間もなくはサソリと傀儡の間に飛び込んだ。移動する時間も”硬”で攻撃を受ける場所を強化する時間も何もない。
急に現れたの姿にサソリは目を見開いた。


「クソがッ!」


この距離では避けることも、体勢的にも弾きかえすこともできないことを瞬時に悟ったは来るべき衝撃に備える。
サソリもせめてだけはと彼女を抱え込もうと手を伸ばすも間に合わない。2本の刀の切っ先は、1つはの脇腹を、1つはサソリの核を深々と突き刺した。


「サ・・・ソリ・・」


ぐ、とすぐさまサソリの核に刺さった刀と自分の脇腹を貫いている刀を抜いて投げ捨てる。は自分の傷口も塞ぎながらサソリの核へ手を向けた。


「いい、無駄だ。」
「・・・死なせないわよ・・!」


せり上がってきた血液が口の端を伝い、落ちていくのをは乱暴に拭ってサソリの核の治癒を始めた。


!」


その手をサクラは掴んで引っ張ると、は地面に手をつき、サクラの方を向く。
は舌打ちをしてサクラを睨み上げた。びくり、とに初めて睨まれたサクラは体を震わせるが、すぐに気を持ち直して拳を握りしめた。


「アンタ、死んじゃったかと・・・!ナルトから話を聞いて探してたこっちの気も知らないで!!」


そう言って振り上げられた手をは払いのけた。


「今はそれどころじゃ・・」
、お前は1人で行け。」


サソリは呟くように、静かに言った。視線だけ動かしてを見つめている。


「行ける訳ないでしょ。」


予想通りおとなしく言葉に従うそぶりを見せない彼女にサソリはなんとか指だけ動かして、彼女の首の後ろを掴むと、ぐ、と引き寄せた。
次の瞬間、訪れた唇への冷たい感触にとサクラ、そして遠目に状況を伺っていたチヨまでも目を見開いた。


「行け。最後の命令だ。」


の口の端についていた血がサソリの唇についている。
その口がもう一度動いた。


「何度も言わせんな。行け。」


はじ、とサソリの目を見つめて、目を伏せた。



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2016.08.10