木の葉に戻ったはそろそろの死体が出来上がりそうだというサソリからの知らせに心を躍らせていた。
一度その出来を見てみたいものの、残念ながら下忍である今、自由に里を出ることは出来ない。
悶々としたまま、従来どおりのつまらない仕事をしていた時だった。カカシに呼ばれたのは。
「中忍試験?」
言われた言葉を復唱すると、カカシは「そ」と軽い声で返した。
「試験は3マンセルで申し込むから、1人あぶれる訳よ。」
その言葉には面白そうに笑った。
3人で試験を受ける。あぶれるのは誰か、ということだが、個別にこう話しをされているということはがそのあぶれる対象になるのだろう。
「そうね。組ませるなら私を除いたあの3人で組ませるのが良いと思うわ。先生。」
何とも言いにくそうに、カカシは頭を掻いた。
「言っちゃなんだが、は既に中忍、いや、下手したら上忍レベル。そこで、1人で試験に出れるように交渉してみようと思ってるんだよね。」
それを聞いては嫌そうに顔を顰めた。それが意外だったカカシは首を傾げる。
「悪いけど、私は中忍になる気は無いわ。」
「なんで?下忍の仕事は嫌なんじゃなかったの?」
「・・・・気が変わったのよ。前のタズナみたいな任務ばっかりだったら私の身がもたない。ほら、私ってか弱い女の子だから。」
明らかに嘘だ。カカシは疑わしげな視線を向けると、は肩を竦めた。
「まぁ、冗談は置いておいて、普通3人で受ける試験を1人で合格できるほど私は自分の力を過信してはいないわ。次の中忍試験を待つわよ。私、9割り勝算がある試合しか受ない性質なの。」
もっともらしい意見だが、果たしてそうだろうか。彼女の性格は分かっているようで分かっていない。
彼女が自信家であることは明白だが、確かに勝率によっては身を引くことも出来るような性格をしている気もする。
「ま、オレも流石に1人で中忍試験に出ることを強要する程鬼じゃない。が、本当に良いのか?」
「えぇ。あ、でも、私が入る次の班くらいは面倒見て貰えるかしら。」
カカシはその言葉に無言で頷いた。
これが私の生きる道 #21
中忍試験はにとって程よい時期に来てくれたと思う。
彼女の死体が出来上がりつつある今、中忍試験が行われる事でそちらに注意が行く。
試験準備期間は任務もほぼ無くなる。
「さて、と。」
デイダラの粘土で作られた鳥が窓から飛び込み、の肩に停まった。
最初は、例のごとくこの粘土の鳥が爆発して酷い目にあったものだ。
しかも忍術の失敗だ、と言い訳をして回る必要があり、あの時はサソリと共にデイダラを袋叩きにしたものだ。
思い出して小さく笑いながらも、は絶をした。
絶をすれば臭いを辿られない限りはその足取りを追うことは難しい。まぁ、最も、途中からは念を使って移動するため、を追うことは無理に等しい。
「よォ。」
「・・・あの薬のせいで大変だったのよ。新薬を試すなら、次からはデイダラでやって。」
にやにやと笑いながら出迎えたサソリに、はつん、と顔を背けながら言うと、サソリが低く笑った。
「お、オイラも、無理!旦那の怪しげな薬だなんて、無理!!うん!!」
「おいコラ、誰の薬が怪しいって?あぁ?」
すごまれて一瞬ひるむものの、デイダラは反論しようとするが、結局サソリに言い負かされて逃げ去ってしまった。
「あと2時間で帰るから、早く死体が見たいんだけど。」
「あぁ、こっちだ。」
歩き出したサソリの横を歩く。
ふと、サソリが楽しそうにを見下ろした。
「そういや、大蛇丸が木の葉を狙ってるらしい。里を抜けるならそこだな。」
「中忍試験の最中に?・・・まぁ、混乱するから丁度良いけど。」
何故わざわざ警戒態勢がしかれる中忍試験を狙うのかが分からなかったが、別にとしては双方の損害はさして重要ではない。
「他の里から試験を受けに忍が入ってくるだろ?おそらく、その中に大蛇丸の配下がいるんだろうよ。」
「あー、なるほどね。そういえば大蛇丸って、有望そうな子の体を乗っ取るんでしょう?随分と良い趣味してるわよね。」
相槌を打ちながらドアを開くと、そこの簡易ベッドににそっくりの人が横たわっていた。
近づいて顔を見つめると、本当に似ている。
「ここまで似てると気持ち悪いわね・・・。」
「おいおい、似せろっつったのはお前だろうが。」
呆れたように言われて、確かにそうだと笑って返す。
「心臓に、この身体を生きた人間に見せる為、血液を造り循環する器械を入れてる。こいつを使う時は、心臓を抉り取ったように見せろ。」
死体の心臓部分に手を当てると、己の心臓の拍動に似た振動が手のひらに伝わる。
生きた人間と言うのは土色をした肌の色が気になるが、心臓を一突きした後身体を軽くばらせば問題無いだろう。
(何故、身体をバラす必要があったのか、っていう疑念をあちらに与えるけど、まぁ、時間稼ぎになれば良い訳だし。)
心臓の上においた手を下ろして、サソリを振り返った。
「想像以上だわ。ありがとう。これ、もう完成でしょ?」
「ああ。・・お前もじきに俺の正式な部下だな。さっさと抜けて来い。」
巻物に身体を仕舞いながら、頷くと、サソリは満足そうに笑った。
中忍試験開始まであと1週間を切った。
別段、持って行く物が多いわけでもなく、イタチから昔貰った刀を巻物に仕舞う。
「一楽のラーメンでも食べてくるかな。」
中忍試験が始まって数日くらいで、恐らく騒ぎが起こるだろう。
余り此処に居られる時間は長くは無い。
情が完全に無い訳ではない為、世話になったいのの父母や、一応短い時間だが時を共にした班員に少しだけ寂しさを感じさせる。
「あ!!」
一楽の前でサクラに声をかけられて、は足を止めた。
カカシと会い、中忍試験の辞退をした後、彼らには会っていない。
これは少し面倒くさいかもしれない、という彼女の思惑は外れず、サクラはに掴みかかってきた。
「アンタ、中忍試験受けないってどういうことよ!」
「どういうことかって・・・中忍試験はスリーマンセルだし、私、別に中忍になりたい訳でも無いし、別に良いかなって。」
笑いながら答えると案の定サクラは噴火した。
「アンタねぇ!そこまで力あんのに諦めてどーすんのよ!なら中忍どころか上忍になれるでしょ!」
「そんな事言っても、組む相手もいないし。」
肩をすくめて言うと、サクラは二の句が告げずに口ごもった。
「まぁまぁ、その分頑張ってよ。応援してるから。元班員のよしみで、ね。」
やんわりとサクラの手を外して、言うと、彼女は大きくため息を付いた。
としては、中忍試験に参加しないほうが自由に動けて都合が良いのだ。
カカシはすぐにでもをどこかの班に属させて監視下におきたいと考えてるだろうが、彼らにそんな余裕は今ない。
中忍試験が終わった後に、と思っている今は、が完全にフリーになれる為都合が良い。
「・・・アンタ、里を抜けるなんてこと、しないわよね。」
恐ろしく勘が鋭いサクラには表情には出さずとも内心舌を巻いた。何も出来ない少女だ、と油断していた。
「まさか。どうして?」
「だって、の師匠のヒルコさんって、抜け忍でしょ?中忍になる気も無いみたいだし、このままヒルコさんのところに行くつもりなのかって・・・。」
確かにその通りで、は苦笑した。
「ヒルコのところに行くなら、もっと早く行ってるわよ。」
「そ、そうよね!うん、あ、、これからお昼でしょ?一緒に行くわよ!」
納得してくれたサクラにほっとしながらも、手を引かれて一楽に入る。
店に入ると、ナルトとサスケがずるずるとラーメンを啜っていて、と目が合うとラーメンを噴出した。
「・・・下品」
その後、ラーメンそっちのけで中忍試験のことをサクラ同様問い詰められ、とサクラがラーメンにありつけたのは1時間もたった後だった。
(暗部が1人・・・)
気がつけば監視がついていて、は舌打をした。
この状況でに1人つけるなんて、思ったより彼らは暇らしい。
(カカシの差し金よね、多分。)
食えない男だ。確かに、下忍の任務が暇すぎて気に食わないから忍をやめる、などと辞表を叩き付けた過去から、中忍にはならないと名言してしまったのは、少し拙かったか。
サクラでも里を抜けるのでは、と推察してきたのだ。カカシがそれを可能性の一つとして考えない訳が無い。
(それにしても、大蛇丸が試験中襲ってきたって話は本当なのかしら。)
其れにもかかわらず今日は中忍試験が行われていると聞く。
(何にせよ、派手な騒ぎが起きるまでは大人しくしているのが吉ね。)
ごろりと布団に横になって、本を読む。
しかし、すぐに窓からカカシが入ってきて本を読むのを中断したは不機嫌そうにカカシを見た。
「あら、カカシ先生。忙しいんじゃないの?」
「・・監視をつけたことを怒ってる訳ね。ごめんごめん。」
謝ってるようには見えない彼の言い方に眉を寄せながらも身を起こすと、何の用かと視線で促す。
「サスケの修行に付き合ってくれ。」
それは思いがけない申し出だった。
暫しの休憩
2013.7.25 執筆