カカシは本来の動きを取り戻した身体を確認するかのように、手を動かしてみて、一つ息をついた。
修行を急遽3人に言い渡したものの、余り時間は取れなさそうだ。
「から大体話は聞いてる。」
窓から飛び込んできたのはサソリで、その横には神威が居る。
直前までその気配が読めなかった事に驚きつつも、の気配の消し方が尋常じゃなかった事を思い出して、流石は彼女の師匠だ、と内心舌を巻く。
「お前の身体が癒え始めたということは、相手もそろそろ動ける頃だろうな。」
正に今自分が考えていたことを言葉にされて、カカシは笑った。
とは言っても、今回はサソリとのお陰で回復はいくらか早かった分、あちらが動き出すのは明日以降だろう。
「少しあいつらの様子を見てきたが、ありゃぁ、中々使えるようになるまでは骨が折れるぜ。」
お世辞にも面倒見が良いようには見えない彼が、3人の修行を見たというのはカカシにとって少し衝撃だった。
しかし、彼の言い方だと、どうやら3人は彼の御眼がねにかなわなかったようだ。
「どうかな。あいつらの成長は早い。」
く、と笑いながらサソリは腕を組んで、壁に背を預けた。
「一つ言っておくが、は本調子じゃねぇ上に、今回は傀儡も使わせねぇ。」
「・・・噂に勝るスパルタだね、キミは。」
使わせないということは、サソリが強制しているということだ。
この分だと、傀儡以外にも彼女には何か切り札のようなものを隠し持たせているのだろう。
「万全の状態で戦うばかりじゃ、使えねぇ奴に成り下がるからな。」
その言葉に一理あるものの、下忍に上がったばかりの少女に課すには少々重い様にも感じられる。
「全く、どんな修行をつけたらあんな末恐ろしい子になるんだか、教えて欲しいね。」
「少なくとも、木登りなんて温いことはさせてねぇな。」
サソリは少し馬鹿にするように笑って言う。カカシはそれに別段気を悪くした様子も見せずに、じっとサソリを見つめた。
「・・・キミがどこの忍なのか、とかはまァ、気になるところだけど、取り合えず礼は言っておく。ヒルコ。」
カカシのことだ、ヒルコが偽名であることなど、感づいてはいるだろうが、律儀に礼を言った彼に、サソリは心の中で甘い奴だと悪態をついた。いくら、生徒の師匠であろうと、身元がはっきりしない男に満身創痍の状態の自分に対して治療を許し、あまつさえ、追求もする気が見られない。
「・・・俺はもう行く。じゃぁな。」
神威に跨ると、そのまま神威は窓から躍り出た。
すっかり見えなくなった姿に、暫く窓を見つめていたカカシは頬を所在無さ気にかいた。
これが私の生きる道 #7
今回の戦いで、3人を成長させようとするカカシの思惑は分かっていた。
だからこそ、は大人しくタズナの横で最低限の動きだけをしていた訳だが、サスケが白の氷の檻に閉じ込められてから雲行きが怪しくなった。
(致命傷は無いにしても、ちょっと彼には荷が重いわね)
そうは言ってもも本調子ではない。
またあの変な薬を飲まされて副作用に苦しむのは遠慮したいところだ。
「ちょっと!何ぼさっとしてるのよ!」
どうしたものか、と腕を組んで観察していると、隣のサクラが涙を溜めた目で大声を上げた。
「アンタなら、なんとか出来るでしょ!」
白の第二撃が正に放たれる其のとき、はため息と共に姿を消した。
直後響くのは金属が切断されるような耳障りな音。
気がつけば自分の目の前に立っている、そしてぱらぱらと彼女の手前で千本が砕け散るのを見て、サスケは目を見開いた。
「立てる?」
「あ、あぁ・・・。」
カカシは再不斬から手が離せない。
「で、貴方はどうしたいの?」
サスケを連れて此処から出るのは、の念を使えば容易に出来る。
しかし、サソリから発の使用は禁じられている。そもそも、自分ひとりでこれを片付けてしまうのはカカシの本意でもないだろう。
「どうしたいって・・・」
「ほらほら、時間なら私が稼いであげるから。」
そう言いながらは跳んできた白を蹴り飛ばし、外に押し出した。
其の隙に、クナイに雷を纏わせ、氷の壁に向かって放つ。それに伴い少しヒビが入るものの、すぐに修復されてしまったのを見て、は肩を竦めた。
「物理攻撃は効かないと考えた方が良いわね。」
さて、参った参った。と暢気に呟いて、は急速に近づく気配に振り返った。
黄色いそれ、ナルトは、止める前にこの氷の檻の中に飛び込んでくる。
それは、ここにいる誰もが予想していない行動だった。
(2人のお守をしながら、か。ちょっと厳しいわね・・・。)
助けに来たぜ!と意気込みながら叫んだナルトの頭をはたいたのはサスケで、も頭を抱える。
「おっと」
迫り来る千本に、は2人の首根っこを掴むと、自分の後ろに放り投げて刀で弾き返す。
数本防ぎきれなかったものが腕に突き刺さるがそれを手早く抜くと舌打をした。
すぐさま構えた白に、も迎え撃とうとするが、自分の身体の異変を感じ取って眉をぴくりと動かした。
ついでせり上がる何かに口元を押さえる。
「ふっく・・・!」
げほ、と咳き込むと口の中が鉄の臭いで一杯になった。
腹痛まで一気にやってきて、やはり動きすぎたのがいけなかったかと思うものの、あの怪しげな薬を投薬したサソリを恨む。
「おい、!?」
甘んじて受けるしか無い、と、身体をオーラで覆ったものの、白は標的をからナルトに移したようで、視界の端を通り過ぎた。
(しまった)
口の中の血を吐き出して駆け寄ろうとするが、思うように身体が動かない。
ナルトでは受けきれないだろうが、この発作をやり過ごす時間くらいは稼いでくれるだろうか、と思ったのに、倒れたのはサスケだった。
ナルトを庇ってその攻撃を受けたサスケを見て、膨張するナルトのチャクラに、はサスケを抱える。
巻き込まれたらかなわない、とナルトの暴走によってひび割れた檻から飛び出した。
少し離れた位置にサスケを下ろすと、それを見つけたサクラが顔を青くしながらも叫ぶ。
「サスケ君!!」
駆け出そうと足を踏み出したサクラをじろりとはにらみつけた。
「依頼主の傍を離れないで!」
びくり、と肩を揺らしたサクラはぐっと口をかみ締めると、タズナの横に佇んだまま2人のほうへ視線を送り続けた。今、こっちに来られて横で騒がれても困るのだ。
再びせり上がってきた血液を吐き出し、サスケの治療に入る。
見た目ほど重症ではないのに胸を撫で下ろしながら一本一本抜いていく。
気を失ったままのサスケだが、一応傷が塞がったのを見て、は立ち上がった。
一応ここに記しておくが、は別段チャクラの量が多い訳では無い。
普通の忍と変わらない量しか持ち合わせていない。それでも、対等に再不斬と渡り合えるのは一重に彼女のチャクラコントロールが秀でているからだ。
そして、医療忍術は結構なチャクラを消費する。
(まぁ、あの白とかいうのは、ナルトが抑えてるし、なんとかなるでしょ)
念で使用するオーラとチャクラは別物。詰まるところ、は動けない訳では無いが、必要最低限の手伝いしかする気は無い彼女は傍観を決め込んで、サスケを抱えてサクラとタズナの元まで移動すると、タズナの隣に腰を下ろした。
結果は何とも、後味が悪いものだった。
この班の人間らしすぎる言動に、不快感を感じずにはいられなかったのだ。
非情になりきれない、それが時に命取りになる。
そもそも、白の術に嵌った時、サスケがナルトを庇った事にもはイラついていた。
あの時点でナルトはお荷物だった。だから、任務遂行を第一とする忍であれば、あそこはナルトを見殺しにすべきだったのだ。
(やめよう)
どれだけ心の中で文句を言ったとしてもどうにもならないし、どうにかしたい訳でも無い。
一つ息を吐き出して、目を向けるのは、再不斬と白の墓標。
「おい、、何処に行くんだってばよ!」
4人が話しているのを尻目に、一足早くこの場を離れようと踵を返すと、ナルトに呼び止められて立ち止まる。
「あなた達の足に合わせてたらかえって疲れちゃうわ。先に戻ってる。ね、先生、いいでしょう?」
その表情から笑顔ではあるものの、彼女の機嫌が悪いのであろうことが分かったカカシはため息をついた。
は、下忍とは思えない程の実力を持っている。それは確かだが、チームワークを大切にする気持ちがほぼ見られないのだ。
「まーったく、本当に我侭だね。」
そう言った直後、苦無が飛んできてカカシはひょい、と半歩足をずらし、それを避けた。
「神威、行くわよ。」
だんだん、と苛立たしげに足で自分の影を蹴ると、ぬるりといつぞやのように神威が顔を出した。
「チッ、今度は何だよ。」
面倒くさそうに言う神威の首根っこを引っつかむとはその身体を影から引きずり出した。
体格差があるにも関わらず、簡単に片手で持ち上げてしまう辺り流石といったところだろうか。
「木の葉に戻るわよ。ほら、走った走った。」
文句を言おうとする神威を無視して彼に跨ると、はその腹を蹴るものだから、神威はちらとカカシを見た後、駆け出した。
背後からナルトとサクラが何か叫んでいるが知ったことではない。
「随分と機嫌が悪いじゃねぇか。あー、ヤダヤダ、なんでアイツといいお前といいこうも気分屋なんだか。」
「神威。その口を縫い付けられたいの?」
神威は口を噤むと黙って走り出した。
その女協調性皆無につき
2013.7.8 執筆