イタチが暗部に入って4ヶ月が過ぎた頃のお話。
彼は任務の報告を終えて、本部を出ようと廊下を一人歩いていた。
「あ、イタチくん!今からお昼?」
呼び止められてイタチは足を止めた。
「はい。」
視線の先には、一人の女性。暗部の1人だ。
「ちょうどシュウと下で待ち合わせてるの。久しぶりに一緒にご飯しましょうよ。」
イタチは女性・・カヤの言葉に了承する様に頷いた。
「あの人ったら、最近イタチくんが独り立ちしちゃって寂しいって。任務が一緒の時はまた一緒にご飯食べにいってあげてよ。」
暗部になりたてのとき、彼女の旦那がイタチのアドバイザーで、良く面倒を見てもらった。
その縁で、彼女とも、一緒になった時はよく話す。とても、明るい女性だ。
「シュウさんとはこの前一緒に食事させて頂きましたよ。娘さんの話で随分と盛り上がりました。」
「あー、だって、ったら可愛いんだもの!」
階段を降りながら、この人も類に漏れず親ばかかとイタチは苦笑した。
「写真も頂きましたよ。3人で映っているものと、カヤさんと娘さんで映っているものの2枚。」
「家宝にしなさいよ?うちのはきっと大物になるんだから。あの子、天才なの、天才。」
胸を張って言うカヤに、イタチはそれは楽しみだと笑った。
「いつアカデミーに?」
尋ねると、カヤは苦笑して首を横に振った。
てっきり、大物になるというのだから、アカデミーに入れるのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「あの子は忍にするつもりは無いの。」
「そうなんですか。」
階段の最後の一段を降りると、視界にシュウの姿が入った。
これが私の生きる道 #2
が従姉妹である、いのの家に来たのは、彼女達が7歳のときだった。
両親を任務で命を落とした少女は当然ながら、人々には悲哀の少女に映るようで、随分と腫れ物を扱うような態度に我慢ならなかった。
(確かに、育ててもらったんだから悲しいに決まっているけれど、ここまで腫れ物扱いされるのは気が滅入るわ。)
全く泣く素振りも無く、普通に振る舞うに、いのの両親は嘆いた。
あまりのショックに感情も上手く出せなくなった!と。
(失礼ね。ちゃんと笑ってるじゃない。この私の完璧な笑顔のどこに不満があるというのかしら。)
は心の中で悪態をつくと、部屋の窓に手をかけた。
同じ部屋(2階)にいた、いのはそれにぎょっと目を見開く。
「ちゃん!なにしてるの!?」
「なにって・・・そうねぇ・・・。」
あぁ、まったく面倒臭い。
そう思いながらも、は笑顔のままに、いのを見た。
「私、約束をしてて、どうしても行かなきゃいけない所があるの。大丈夫よ、おばさんもおじさんも此の事は知っているもの。いつものことなの。」
「いつものこと・・・。」
繰り返す従姉妹には頷いて頭を撫でた。
「じゃぁ、ちょっとしたら戻るから、絵本頑張って読んでて。私、いのがその絵本を読んだら是非、その感想を聞きたいのよ。あぁ、楽しみだわ。」
「うん、分かった!」
そういって丸め込んで、は窓から飛び出した。
(全く、何故こんな面倒なことになってるのかしら。)
はぶつぶつと心の中で呟きながら森の中へと入った。
木をうまく伝い、取りあえず誰にも見つからない場所を探す。
(このまま、どこかに行くのも手だけど、ここの地理は良く知らないし・・・。)
は数日前にこの場所へ引っ越して来たばかりだった。
生前、任務に忙しかった両親は家を空けることが多く、は自由気ままに暮らして来た。
それなのに、今度は一転して束縛される毎日。
「放っておいてくれれば良いのに。」
ぽっかりと空いた空間、岩がむき出しになっている。随分と大きい岩だ。
気分はパンチングマシーンを目の前にしたサラリーマン。
これはもう、殴るしか無いだろう。この鬱憤を発散させる為に。
「あー、もう、苛々するったら無いわ!」
そう言いいながらぐっと握りこぶしを作って、眼前に迫った岩肌に拳をぶちこんだ。
その瞬間、弾けとんだ岩に、自分の気持ちがすっと引くのを感じる。
ばさばさ、と鳥が飛んで行く音が大袈裟に聞こえた。
はっきり言って、周りの思いを押し付けられるのにうんざりだったし、彼女の性格上、哀れみの眼を向けられるのは真っ平だった。
視線には草にばらばらと散らばっている岩の破片が見える。
(・・・・帰りたい)
どこに、とは言わない。
取りあえず、自分が何の気兼ねなく暮らせる環境に戻りたい。
(あの家に戻ろうかしら)
ここからは少し遠い場所にある家。
あの家が恋しくなる日が来るとは思わなかった。
はぁ、と溜め息をついて、視線をあげた瞬間、一瞬目の端に映った黒いものに、反射的にはその場から飛び退いた。
残念ながら、今のは昔程の力を持っていない。ここの世界の人間と争ったことは無いが、緊張が走る。
「・・奇襲なんて、下種のやることよ。」
ついてない。なんでこんなことに。と内心呟きながらは懐から小刀を取り出した。
「何者だ。」
黒ずくめの男は、そう問うた。
予想以上に若い声。その割に隙のない身のこなしに、警戒を強める。
「何者か、ですって?木の葉の一般人よ。・・・あぁ、貴方のその額宛、それって木の葉のものでしょう?」
はそう言いながらじりじりと男から距離を取る。
「何故木の葉の忍に攻撃されなきゃいけないのかしら。ほんと、理不尽だわ。」
大袈裟に溜め息をつくと、男がクナイを投げて来た。
それを弾いて、は男へと向かう。
「ねぇ、見逃してくれない?本当に、一般人なの、私。」
男はが見た目に反した口ぶりで話すのに警戒しながらも彼女の振り下ろした一打を受けようとしたが、直前になって思い直して避けた。
脳天から振り下ろした足蹴りは地面へと陥没し、周りの地面もつられて陥没した。
どこからそんな力が、と彼女の右足を中心にできあがったクレーターに驚愕しながらも冷静に背後に回り、叩き込んだ手刀は、の手によって弾かれた。
「とても一般人には見えないな。」
「失礼ね。立派な一般人よ。」
は面倒くさそうにイタチを見た。
その顔をじっと見つめる。どこか、見覚えがある顔だ。
(何だったかしら。凄く見た事のある顔。)
イタチもそれを受けて、負けじと見返す。
(どこかで見かけた気がするが・・・)
すぐに、記憶のピースが見つかって、対峙している顔と合致した。
「「・・・あ。」」
二人は同時に声を上げて、暫く見つめ合った。
こんにちは