翌日、眼を覚ますと、じっとりと汗でぬれた身体に、相当汗をかいたことを知る。
起き上がると、額に乗せられていた手ぬぐいが落ちた。
濡れているそれはひんやりとして、誰かが取り替えてくれていたのだろう。


「起きたか。」


声の主はすぐ近くにいた。


「これで身体を拭いておけ。・・あぁ、気分はどうだ。」


取ってつけたように調子を聞かれて、は不機嫌さを隠さずに答えた。


「最悪よ。頭痛に吐き気。あと腹痛。」
「・・・やっぱ、少し分量が多かったか。」


さらさらと何かメモを取り出すサソリは、部屋から出て行くそぶりを見せない。
確かに身体上10歳とちょっとくらいではあるが、中身は立派な成人なのだ。
出て行け、と言おうとしたときに、動かないを不審に思ったサソリが振り向いた。
彼は、やはり服を着たまま自分を見ている彼女に眉を寄せる。


「・・?さっさと身体拭け。傷口の確認ができねぇだろ。」


は体調不良を感じさせない動きでサソリを部屋から放り投げると、力任せにドアを閉めた。
メモを取っていたサソリは部屋の目の前の壁に打ち付けられ、盛大に舌打ちをする。


「この、クソ餓鬼!何だその態度は!あぁ!?」


チンピラのように悪態をつきながらドアを開けようとするものの、いくらドアを回しても開く気配が無い。
それもそのはず、は念でしっかりとドアを開かないように細工をしたのだ。
試しにドアを蹴ってみても、びくともしない。


「あれ、ヒルコさん、おはようございます。は目を覚ましたんですか?」
「あ?・・あぁ。あいつ、世話してやった俺を部屋から投げ出しやがった。何が気に食わねぇんだか。」


サクラはその言葉に首を傾げた。


「で、今は何をしてるんですか?」
「身体拭いてんだろうよ。」


勘の良いサクラは何となく分かった。何故、彼が追い出されたのか。


「仕方ねぇ、先に朝食を作るか。台所はどこだ。」
「え、朝ごはんまで作るんですか?」


驚きながらも、台所へと案内する。好きに使って良いといわれているため、台所を借りても大丈夫だろう。


「あぁ。一応内臓の傷も全部治った訳じゃねぇし、試してぇもんもあるからな。」


最初の言葉でなんて弟子思いの良い人なのだろう、と思ったが、どちらかと言うと後半の目的の方が強そうで、サクラは何ともいえない目でサソリを見た。











これが私の生きる道 #19














昼食の直後、サソリは吐血したの血液を採取しながら手ぬぐいを手渡した。
その後ろではサクラとナルトがおろおろとし、サスケは壁に背を預けながらも心配そうにを見ている。


「コウカソウが多かったか・・・」


其の言葉には手ぬぐいで口元をぬぐいながらサソリを睨み付けた。


「あんなもの入れたの!?」


コウカソウは主に毒殺に使われるものだ。
どう考えても薬に入れるには相応しくないもの。はやっぱりあんな新薬の投与を許すんじゃなかったと後悔するものの、今となってはどうしようもない。


「細胞の再生には破壊も必要だからな。次は量を少なくするか・・・。」


ぶつぶつ言いながらメモを取る彼をぶん殴ってやりたかったものの、生憎とまた咳き込んでしまう。
慌ててサクラは水を湯飲みに注いだ。


、水は?」
「あぁ、水はやめとけ。ぬるま湯が良い。」


そう言いながらも、サソリはの腹部に手を当てる。


「ま、副作用でそれくらいなら合格だろ。」
「何が合格よ、ほんと、いい加減にしなさいよ・・・。」


そう言うものの、の声には覇気が無い。それでも、起きたときにはあった頭痛はなくなっていて、残るは吐き気と腹痛のみ。傷は痛まないのだから、効能としてはサソリの言う通り合格だろう。
しかし、副作用が頂けない。


「お前らは修行だろうが。さっさと行け。」
「えー、だって、あれ、難しくて出来ないんだってばよー・・・。」


それにサソリは首を傾げた。


「そんな難しい修行してんのか、お前ら。」


そう呟いて、顎に手をやった。
一応の師匠をしているものの、今まで弟子を取ったことなど無い。当然、他のと同年代の子どもがどのような修行を受けているのかだなんて知らない。


「・・・俺が少し見てやる。」


そんなに難しいのであれば、の修行にも取り込もうとサソリは腰を上げた。


「え、本当ですか!?」


嬉しそうにサクラは声を上げるが、は慌てて口を開く。
サソリの想像している修行と彼らの想像している修行とでは雲泥の差だろう。


「止めた方が・・・っ!」


止めようとするものの、枕を顔に押し当てられ、ベッドに沈められたは言葉を続けられない。
サスケも、サソリがの師匠だからか乗り気な様だし、ナルトも、ヒントをくれるのだと喜んでいて誰も彼女の言葉を聞こうとはしないのだから困ったものだ。

意気揚々と外へ出て行った3人を思って、はため息をついた。
何でも良いが、半殺しにだけはしないでほしいと、切に思う。




















やはり止めるべきだと判断したは暫くして吐き気がおさまるとベッドから出た。


「てめぇら、んな事も出来ねぇのか!」


サソリの怒号が響き、木が倒れる。恐らく暫く見ていたサソリが痺れを切らしたのだろう。


「ったく、下忍が聞いて呆れるぜ。特にナルト、お前は一番下手だ。お前ら、今日中に木にぶら下がって腹筋が出来るようになれ!なるまで家に戻るな!」


其の言葉に、ナルトは分かりやすいくらい落ち込む。


「おい、お前。お前はまだマシだ。今から体術の稽古をつけてやる。」


サソリが視線を向けたのはサスケだった。
彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに顔を引き締める。


「キャー!さすがサスケくん!!」


黄色い声援が聞こえてくるものだから、は暢気な子、と呟いてサクラの隣に着地した。
いつもどおりに走れるまで回復してきたのだから、自分でも驚く。


!あんた、寝てなくていいの!?」
「えぇ、平気。それよりも、彼に修行を付けさせるだなんて危なっかしいこと放っておけないわよ。」


言っている傍からサスケが蹴り飛ばされる。
ほらね、と苦笑しながらサクラを見ると、彼女はムンクのようになっていた。


「何の為にチャクラのコントロールをやってると思ってんだ。その棒クナイを使うなら、それにチャクラを流し込め。お前ら、チャクラが術を使う為だけにあると思うなよ。」
「クソッ」


あっけなく蹴り飛ばされたサスケはすぐに起き上がると、言われた通り、刀にチャクラを流し込もうとした。


「そんな一朝一夕で出来るようなもんじゃないでしょうに。厳しすぎじゃない?」
「お前がそんな怪我をしたような奴らと戦うんだろうが。こいつら死ぬぞ。」


それに、3人は固い顔をした。


「これくらいで動揺してんじゃねぇよ。チャクラは身体エネルギーと精神エネルギーが源。精神エネルギーを安定して練り上げる為には相応の精神力が必要に・・・」


其のとき、空から粘土で作られた鳥が降りてきて、サソリは言葉を止めた。


(デイダラの・・・・・戻れってことかしら)


の予想通り、それは戻って来いという内容のものらしく、サソリは舌打ちをすると、その鳥をクナイで突き刺した。
当たり前だが、普通の鳥をデイダラが寄越すわけもなく、それは爆発し、3人は目を丸くする。


、俺は戻る。一応増血剤と中和薬を渡しておくが、一日2錠までだ。飲みすぎんなよ。」


中和薬、とはサソリ自慢の新薬に含まれている毒を中和するものだろう。
それを大人しく受け取ってはサソリを見上げた。

何だかんだ言って、自分の真実を知っている人が傍から居なくなるというのは寂しいものだ。


「神威。」
『あぁ?またかよ・・・自分で勝手に帰れって・・・。』


悪態をつきながらもぬるりと神威は姿を現す。


「あぁ、。お前神威に傀儡を持ってくるように言ったらしいが、今回は傀儡なしでやれ。修行の一環だ。」


最後にそれだけ言って、サソリはの返事も聞かずに神威に合図をすると、走り出した。
彼の言葉に、今更ながら神威から傀儡を受け取っていなかったことに気付く。


「・・・はぁ?」


その背中に嫌味を篭めて問い返すものの、見る見る彼の姿は小さくなって、消えた。


「神威・・・帰ってきたらお仕置きしてあげなきゃ。」


くすくすと笑いながらは歩き出した。
完全なる八つ当たりである。








修行



2013.5.30 執筆