サソリは自慢の新薬をの口に放り込むと、傷口を確認し始めた。
最初は全員出て行けと言われたものの、どのような治療をするのか気になったサクラだけは、女性ということで残っている。
「うわ・・・」
の怪我は予想以上だった。
腹は随分酷い傷だろうと予想はしていたものの、先ほど動いたせいで開いた傷口は見るも耐えられないような惨事になっていたのだ。
「内臓は?」
「んー、多分問題なし。外からよりも中から治した方が早いわ。」
それを聞きながら、予想以上に大きな傷口に、サソリは息を少し吐いた。
「アレを解け。」
「結構血が出るわよ。」
「さっさとやれ。」
有無を言わせないその言いように、は肩を竦めて、腹に集めていたオーラを解いた。
途端に、血が湧き水のように噴出す。
「チャクラの糸で縫合した後、皮膚を再生させる。おい、お前、見るならこっちに来い。」
サクラに一瞥もくれずに言うと、彼女はおずおずと足を進めた。
「増血剤飲んどけよ。」
そう言いながら手のひらに乗せられた錠剤にサクラは視線を動かした。
「はいはい。サクラ、水取ってもらっても良い?」
「あ、うん。」
慌ててテーブルの上の水を取るとに渡す。
「あ、あの、麻酔ってしないんですか?」
チャクラの糸で縫合を始めたサソリに問いかけると、彼は口をつぐんだ。
同様に、も微妙な表情をしている。
「・・・そんなもんも、あったな。」
「そういえば、一度も治療して貰うとき麻酔してもらった記憶が無いわね。」
そう会話している間も血は流れ続ける。
「・・・忘れてたんでしょ。」
「生憎と、俺は痛みに鈍感なもんでな。」
そりゃそうだ。彼は傀儡なのだから。
サソリは縫合が終わると、手にチャクラを集めながら薬品を傷口に垂らした。
「それは?」
「・・細菌の繁殖を抑える薬だ。今から皮膚の再生を始める。、再生が始まったら血を止めろ。」
「了解。」
手を翳すと、傷口の際が蠢き、盛り上がり始めた。
それに、サクラは目を見開く。
「そろそろ良いぜ。」
そう言うと、の血が止まり始める。
「やっぱり、人のチャクラの糸が刺さってると、コントロールしにくいわね・・・。」
忌々しげに呟きながらも、は傷口にオーラを集中させ、止血していく。
彼女だからこそ出来る治療方法だ。
「凄い・・・。」
傷口は赤黒く変色しているのには変わりないが、新しい皮膚が覆い隠したそこからは、最早血は流れていなかった。
これが私の生きる道 #18
処置の終わったの身体に服を着せたサクラは慎重に彼女をベッドに移した。
「一応経過を見るために明日まで俺もここに留まる。何せ、ありゃぁ新作だからな。」
「・・・まさか、前作りかけてたヤツじゃないでしょうね。」
その新作の薬とやらに、心当たりがあるのか、がそう尋ねると、サソリは笑いながら頷いた。
「吐血、嘔吐の副作用が出るわよ。多分。」
「一応中和剤も調合してある。多分大丈夫だろ。」
多分大丈夫、だなんて随分と無責任な言葉だ。
「あの、もし良かったら、カカシ先生も診てもらえませんか?」
にらみ合う2人に果敢にも声をかけたのはサクラだ。
それに2人は同時にサクラに視線を向けた。
「・・・カカシ先生?」
「私達の担当上忍よ。でも、どうかしら。彼、瞳術の使いすぎでしょ?」
それに、サソリは興味を示したようで、を見下ろした。
「写輪眼。」
「そいつは面白ぇ。診てやろうじゃねぇか。」
本気か、とはぎょっとしてサソリを見るが、彼は乗り気のようだ。
「良かった!じゃぁ、案内しますね。」
「私も行くわ。」
今度はサクラがぎょっとする番だ。しかし、サソリも其のほうが都合が良いと判断したのか、を抱えあげたものだから、口を閉ざす。
サクラが先導してドアを開けると、そこにはナルトとサスケの姿があった。
どうやら、2人も心配していたようだ。
「なぁなぁ、調子はどうなんだってばよ。」
「問題ないわ。傷は塞いでもらったから明日には動けると思う。副作用が無ければ、ね。」
「ハッ、副作用があろうが、明日には動けるだろ。ただ、たまに血を吐くくらいだ。」
なんてこと無いように言うサソリには眉を寄せた。
「血を吐く人間は普通動けないに分類されるのよ。常識をどこに置いて来たの。」
「随分な口利くじゃねぇの。」
サスケは胡散臭そうにサソリを見た後、踵を返した。
其の背中をサクラは寂しそうに見つめるが、すぐにナルトが騒ぎ出す。
「すっげー!傷、もう塞がったのかよ!」
「・・・貴方、聞いてた?副作用があるかもしれないって話してたんだけど。」
「でも塞がったんだろ?」
話にならない、とはため息を付くと、サクラに先に行くよう促した。
「で、どこに行くんだってばよ。」
「カカシ先生のとこ。診て貰えるって言うから。」
そう言いながら、ノックをすると、中から間延びしたカカシの返事が返ってきて、4人は部屋に入った。
来訪者の存在はやはり気付いていたようで、真っ先に彼はサソリを見た。
「この人の師匠なんですって。さっきの治療が終わったから、今度はカカシ先生を見てくれるって。」
「へぇ・・・こりゃどうも、はたけカカシです。」
名乗る流れに、サソリは一瞬考えたがすぐに口を開いた。
「ヒルコだ。先に傷を治療するぞ。」
はサソリから下ろされると、よろつきながらも壁に手をついた。
一気に再生され始めている傷のため、上手く体が動かないのだ。
「チッ。世話の焼ける弟子だな。おい、椅子を持って来い。」
それを見かねて身体を支えてやると、すぐにサクラが椅子を持ってきたので、それに腰掛けさせる。
「あんな無茶な治療するからでしょ。」
「口の減らねぇ餓鬼だ。」
「貴方に餓鬼とは言われたくないわね。」
サソリは鼻を鳴らすと、ようやくカカシに向き直った。
傷自体は大したことが無いのか、薬も必要なく医療忍術で傷を塞いでいく。
「すっげーってばよ!」
「五月蝿い!ヒルコさんの気が散るでしょ!」
ごつん、と重い音がしてナルトに拳骨が落ちる。
「左目が写輪眼よ。どうする気?」
「どうもこうも、一度診てみねぇとな。額宛、外すぞ。」
サソリは返事を待たずにカカシの左目を隠している額宛を外すと、その眼を確認した。
「・・・なるほど。こいつを無理やり使ったからチャクラの流れがおかしくなったんだろうよ。、チャクラの流れを確認しろ。」
言われては凝をしてカカシの身体を確認した。
「左目は勿論だけど、頭と心臓のチャクラの流れが乱れてるわね。でも、これ、多分チャクラの流れを治しても良くならないわよ。」
「治りは早くなる筈だ。おい、頭痛はあるか?」
「あぁ・・全身の倦怠感と頭痛、あと耳鳴りも酷い。」
それを聞くと、サソリはを振り返った。
「お前はどう思う。」
試すような問いに、はため息を付いて口を開いた。
「・・・彼のチャクラは微量にしか流れてないわ。チャクラの流れを修正することで、回復は早くなるでしょうね。出来ることといえば、身体症状の改善。倦怠感はしょうがないとして、頭痛と耳鳴りは薬で抑えても良いけど、副作用によるデメリットの方が大きいんじゃないかしら。あとは、兵糧丸でチャクラの回復を促すのも、ちょっと怖いわね。」
「兵糧丸での回復が怖い理由は?」
「彼に、自分以外のチャクラを流し込むのは今は危険だから、よ。唯でさえ人のものを使って慣れないことしているのに、さらに異物を使わせるのはきついでしょうから。」
そこまで聞いて、サソリは満足そうに彼女を見下ろした。
「悪くはねぇな。だが、頭痛と耳鳴りは薬で抑えた方が良い。痛みのせいで変に力が入って唯でさえ乱れてるチャクラが安定しねぇ恐れがあるからな。」
サソリはの影をとんとんと叩いた。
「神威、出て来い。仕事だ。」
『あぁ?人使いが荒い2人だな・・・ったく。』
ぬるり、と影から神威が顔を出した。
「な、ななな、生首!!」
「チッ、うるせぇ餓鬼だ。黙ってろ!」
ぎろりと睨むと、ナルトは「ぎゃっ」と悲鳴をあげてサクラの後ろに隠れた。
「このラベルがはってある薬を持って来い。」
さらさらと髪にいくつか文字を書くと、それを神威の目の前に出した。
『仕方ねぇなァ・・・』
それを眼で追った後、神威はの影に引っ込んだ。
用なしになった紙は瞬時に火が着き、一瞬で燃えると灰がぽとりと床に落ちる。
「で、そこの2人は部屋から出ろ。」
「わ、分かったってばよ!」
びくり、と反応したナルトは元気良く返事をすると、サクラを連れて部屋から出て行ってしまった。
よほど先ほど怒鳴られたのが効いたらしい。
「さて、と。少し話を聞く。」
近くにある椅子を引き寄せて、サソリも腰掛けた。
カカシはまだ、サソリを信用しきれてないのだろう、その眼には警戒の色が伺える。
「その眼は移植したもんだな?はっきり言うと、お前のチャクラとその目は反発し合う。」
「知っている。」
頷きながら、カカシは上半身を起こした。
「使うな、とは言わねぇ。唯、チャクラの乱れを治す方法は知ってた方が便利だと思うぜ。どうしても人のモンを使うということはチャクラが乱れる。術に変換する際に、その目の持ち主に似たチャクラに変換されてる訳だが、それは必要以上のチャクラを使う上に、本来のチャクラの流れを荒らすからな。」
「カカシのチャクラをそのまま写輪眼に使えるようにはできないの?それが一番シンプルじゃない。」
「無理だ。それ以前に、こいつが写輪眼を使えてんのが奇跡だ。」
今まで考えたことの無かった話に、カカシはじっとサソリを見た。
「・・・治療とアドバイスには感謝するが、どこの忍だ?木の葉じゃないな。」
「俺は里には属していない。まァ、抜け忍ってヤツだ。」
適当な答えを返すかと思いきや、サソリの答えに、はどういうつもりなのか真意を探ろうとサソリを見た。
「とはどこで?」
「こいつの両親が古い知り合いだったからな。」
それを嘘かどうか見抜こうとサソリとに視線を走らせるが、生憎とサソリは勿論も嘘をつきなれていて、簡単に分かるような相手ではない。
「そんな警戒すんなよ。少なくとも、今は敵じゃねぇ。ま、味方でもねェがな。」
サソリは立ち上がると、を抱えあげた。
「こいつの経過を確認する為に、明日の午前中までは隣の部屋にいる。其れまでだったら面倒見てやる。」
「・・・・ねぇ、さっきから、どうしたのよ。何か変なものでも・・・っつ!」
本気で心配したというのに、サソリはの頭を殴った。
手加減は一応してくれているらしいが、怪我人のには結構重い一撃で、は頭を抱えて痛みをやり過ごした。
「瞳術の治療には興味があるからな。こいつで実験できりゃぁ文句はねぇ。」
(実験って・・・弟子も弟子なら師匠も師匠。全く癖の強い師弟だなぁ。)
カカシは心の中で呟きながら額宛を付け直した。
奇妙な師弟
2013.5.27 執筆