目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。
血を流しすぎて気を失ったことを思い出して、舌打ちをする。
今までサソリとの修行の時は、あれくらいの傷は気にせずに戦っていたが、今は治療してくれる人はいない。
こんなことなら、医療忍術を自分自身に使えるレベルまで極めておくんだった、と後悔するものの、後の祭り。
「カカシ達は隣の部屋、か。」
起き上がると、じくじくと腹が痛む。
纏をして、息を吐き出した。
「・・・ちょっと、散歩に行って来よう。」
窓から外に出ると、着地した瞬間傷に振動が響いた。
それでも、運動できない程ではない。
「サソリがいれば良いのに。」
ため息をついて、は歩き始めた。
これが私の生きる道 #17
数十分程散歩し、窓から部屋に入ると、そこにはカカシが居た。
「ったく、あんな怪我しておいて、何処行ってたの。」
「散歩。貴方こそ、起き上がって大丈夫なの?」
「まぁ、家の中くらいはね。」
そう言いながらカカシは椅子に腰掛けた。
「伝えておきたいことがある。」
真剣な顔をして言う、カカシに、は椅子に座りながら先を促した。
「再不斬は恐らく生きている。」
「へぇ・・。」
は驚いた顔をしたものの、すぐに緩く口に弧を描いた。
「俺は動けない。あいつと戦う為にはお前の力が要る。」
「ふぅん・・・でも、あの再不斬を引き取った彼も一緒だとすると、少し面倒ね。私は怪我人だし、傀儡も今回は持ってきて無いし。」
「と思って、3人には修行を課してある。その間、お前は腹の傷を治す事に集中すること!」
言われて、は嫌そうに顔をゆがめた。
「つまり、大人しくしてろ、と?」
大人しくする事程退屈なことは無い。
「そういうこと。」
「・・・善処するわ。それで、あの子達の修行内容は?」
「ん?木登り。」
その言葉に、は今度こそため息をついた。
「まぁ、確かにアレはチャクラのコントロールを良くするには良い修行だと思うけど、あれくらいでどうにかなる相手?」
「なるさ。じゃ、大人しくしてるんだぞ。」
最後に釘を刺して、カカシは部屋を出て行った。
は彼が隣の部屋に入っていくのを確認して、クナイを取り出すと、指先に切り目を入れる。
滴る血で印を組むと、の影から一匹の白い虎が躍り出た。
「神威、私の傀儡を取ってきて。」
「・・・いいけど、お前、結構重症じゃね?」
神威は鼻を動かしながら、の腹をじろじろ見た。
「まぁね。だから必要なのよ。早く行って。」
「仕方ねぇなー。何でもいいけど死ぬなよ。お前を死なせるとあいつが煩い。」
あいつ、とはサソリの事だ。
一応神威はサソリと契約していたが、性格が合わないという理由でが受け継ぐこととなった。
が思うに、これは同属嫌悪というやつではないだろうか、と少し思ったものの、それを言ってしまうと両者から殺されかける為言ったことは無いのだが。
「あ、ついでに、サソリから増血剤も貰ってきといて。」
「あぁ?面倒くせーなー。」
そう言いながらも、神威は再びの影に潜り込んで、行ってしまった。
「・・・そう言いながらちゃんとやってくれる所も似てるのよね。」
とりあえず今日1日は大人しくしておくか、とはベッドに横になった。
サソリは仕事終わり、己の影が揺らめいたのを認めて足を止めた。
「ん?旦那。どうしたんだ?うん。」
「先行ってろ。」
デイダラは首を傾げたが、もう少しで波の国にあるアジトに着く為、遠慮なく先に行くことにする。
彼の後姿が見えなくなった頃合、するりとサソリの影から神威が姿を現した。
「久しぶりだな。何しに来た。」
「が増血剤を貰って来いって言うから来たんだ。」
珍しいからの注文に、サソリはへぇ、と返す。
「任務中に腹を刺されたみてーで、必要なんだと。」
「今は持ってねぇな。アジトまでついて来い。」
そう言うと、神威は嫌そうにそっぽを向いた。
「あの煩い餓鬼は嫌いだ。」
文句は言いながらも、走り始めたサソリの後ろをついていく。
「しかし、あいつが腹を刺されるたぁ、何があった。」
「詳しくは知らねーけど、傀儡も持って来るように言われたから、まだ任務中なんだろうよ。」
「・・・下忍の任務中に怪我するようじゃまだまだだな。修行が足りねぇ。」
次はどうやってしごいてやろうかと考えているとすぐにアジトに着き、まっすぐにサソリの部屋に向かう。
薬品棚を漁ると、すぐに目的の物は見つかって、神威はさっさと寄越せという視線を向けるがサソリはそれをポケットに入れた。
「そういや、は何処に居るって?」
「・・・・波の国だ。」
サソリはにやりと笑った。
「俺も行く。任務は終わったしな。」
そう言うと、サソリは神威に跨った。
「お前は足の速さを見込んで口寄せにしたんだ。しっかり走れよ?」
「・・・・お前、本気か?」
「うるせぇ。さっさと行け。」
神威は舌打ちをして、窓から飛び出した。
サソリが神威と口寄せの契約を結んだのは10年程前だ。
あの頃はまだデイダラと組んでいなかった為、移動手段として契約を結んだものの、命令に口ごたえするその気性の強さに苦心したのを覚えている。
だが、その足の良さと機転が意外と利くという点で、サソリはそれなりに彼を重宝していた。
「の傷は。」
「一日もすれば、それなりに動けるようになるんじゃねぇか?まぁ、血を出しすぎて顔色は最悪だったけどな。」
それで増血剤か。とサソリはポケットの中の薬を弄びながら前を向いた。
そろそろ着くという辺りで、一応サソリは変化の術で姿を少しだけ変えた。
サソリの容姿は知られていない為、髪を黒くし、体を20代後半に変化させる程度のものだ。
「あそこだ」
そう言って、神威は足に少し力を篭めると飛び上がって窓から中に入った。
中に居たはと言うと、近づいてくる気配に気付いていたのか、クナイを手に待ち構えていた。
入ってきた途端、放たれるクナイをサソリは難なく弾き返すと、にやりと口角を上げた。
「随分な挨拶じゃねぇの、えぇ?」
は目を見開く。
見た目は少し違うが、声は聞き覚えがある。
おまけに彼が乗っているのは神威だ。彼が大人しく乗せるような人物は自分以外にサソリしかいない。
「・・・何してるのよ。」
神威は身を震わせてさっさとサソリに降りるように促すと、するりとの影に溶け込んだ。
懸命な判断だろう。このまま居たとしても口論になるのが落ちだ。
「何って、お前が増血剤が必要なくらい大怪我をしたっつーから俺が直々に治しに来たんだろうが。おら、傷をさっさと見せろ。」
「まさか、此処で治療する気?」
「だからわざわざ変化して来たんじゃねぇか。」
鼻を鳴らして言うと、サソリは乱暴にの服に手をかけた。
「ちょ、ちょっと何するのよ!」
はその手を払い、間合いを取ると、刀を取った。
「何って治療だ。」
「けろっと治っちゃ怪しまれるじゃない!私が自分の治癒が出来ないことは知られてるんだから!」
「ったく、ごちゃごちゃうるせぇ!丁度良い薬が出来たんだ。折角だから試させて貰うぜ。」
最初からそのつもりだったな、とは舌打ちをした。
よく考えてみれば、彼が善意だけで動くような人間では無いのだ。
残念ながら彼の相方であるデイダラはそうそう怪我するような人ではないし、敵を生け捕りにして薬を試すような面倒な真似はしたくない。よって丁度怪我をしたらしいを実験台にしようという魂胆なのだろう。
「あのねぇ!人を実験台にしないでって何度言ったら・・・!」
サソリの指が動いたのを見て、は咄嗟に凝をした。
彼の指から出ているチャクラの糸がに向かう。
「もう!」
は伸びてくる無数のチャクラの糸を刀で切り刻み後ろに飛びのいた。
しかし、サソリはそれを読んでいたのか、すぐにに肉薄する。
「仕方ねぇ、ちょっと動けなくするか。」
そんな物騒な言葉が聞こえた瞬間、背中から衝撃が伝わり、息が詰まる。
飛ばされる先には窓があり、窓枠に捕まると、は屋根に飛び上がり、森に向かって身を投げた。
しかし、それは軽率だった。
森には、修行している3人がいるのだから。
「あ、お腹の傷、ぜったい開いた。サソリのせいよ。」
鈍い痛みと、服からにじむ血。
は眉を寄せると、オーラを集めて止血する。
「てめぇがさっさと実験台にならねぇからだろうが。」
追ってくるサソリは怪我人相手に容赦が無い。
傀儡を出していないだけマシだが、飛んでくるクナイは足と手を寸分互い無く狙ってくる。
「貴方、私の治療に来たんでしょ!?」
金属音が響き、の刀がサソリの放つクナイを弾いた。
「だから痺れ薬を仕込んだクナイにしてやってるだろうが。」
「そういう問題じゃ、なッ」
やはり動きが鈍い。
サソリは情けない弟子だ、と悪態をつきながら、彼女の刀ごと、力任せに吹っ飛ばした。
否、そこまで吹っ飛ぶとは思っていなかったというのが正しい。
普段であれば、少し受け止めた際に足が後ろへぶれる程度のものだが、今は腹の傷が開いていて上手く踏ん張れない。
結果、彼女は予想以上に飛ばされる羽目になったのだ。
「ーーーーッ!!」
着地点は運悪く、3人が修行している場所だった。
3人は一様に、突然現れたが木に叩きつけられた所に居合わせ、目を見開いた。
「え?!?」
サクラが慌てて駆け寄るものの、は彼女を引き剥がして放り投げた。
まさか、彼女がそんな行動に出るとは思わなかったサクラは驚きつつも空中で身体を整えて着地しようとするが、すぐに彼女の真意を悟る。
サソリがの居る場所に突っ込んできたのだ。
「ったく、これくらいでへばってんなよ。」
「だから、腹に穴空いてるのよ!」
は身体をずらしてサソリの一撃を逃れるが、標的を失った彼の攻撃は背後の木に当たり、それを折るほどの威力。
「オイッ!お前、何者だ!」
ぽかん、と口をあけているナルトの横でサスケがクナイを手に叫んだ。
「あぁ?何だこいつら。」
「同じ班なの、よ!」
サソリの意識が3人に行った隙に、彼の首目掛けて手刀を繰り出すが、それを受けてやる程サソリも甘くは無い。捕まれた手に、鳩尾に入る拳に、は堪らず、血を吐き出した。
「!」
ずるりと崩れ落ちるをサソリは抱えた。
「おいおい、俺は敵じゃねぇぜ。こいつの師匠だ。」
緊張した面持ちで自分を見つめる3人に笑いながら言うと、サスケはぴくりと表情を動かした。
彼女に師がいるとは知らなかった。だが、そういわれると納得できる。
独力であれほどの力を身につけるのは難しい。
「師匠・・・?って、何でそんな奴がに殴りかかるんだってばよ!」
「こいつの治療の為だ。こうでもしねぇと、こいつ、大人しく治療受けねぇからな。」
「新薬の実験だなんて言わなければ大人しく治療されたわよ!」
サソリの腕の中で口元の血をぬぐいながら言うと、は襲ってくる頭痛に目を細めた。
「クク・・・随分と酷い傷じゃねぇの。」
「ここまで酷くしたのは貴方よ。あー、もう。分かったから新薬でも何でも使ってさっさと治して。」
ふい、と顔を背けると、サソリは笑いながら彼女の部屋へ向かう。
3人はどうするか、と視線で会話した後、その後に続いた。
師匠登場
2013.5.22 執筆