サクラは目の前のに憤っていた。
怖い、でもやらなければ自分もタズナも死ぬという状況で、敵を1人で相手にした姿には感謝よりも畏怖の方が大きかった。しかし、今はそれよりも、毒に侵されたナルトに対して自分から手を差し伸べなかったことに対する怒りが表に表れる。
「!あんた、何でそんなこと出来るんなら最初から治療しなかったのよ!カカシ先生が何も言わなきゃ放っておいたの!?」
治った、治った、と騒いでいたナルトは動きを止め、は面倒くさそうにサクラを見た。
「さぁ、どうかしら。」
「どうかしらって、あんたねぇ!」
掴みかかろうとするサクラの手を掴んだのはカカシだ。
「まぁまぁ、落ち着いて。」
「先生!でも・・・!」
まだ勢いは収まらず、サクラはを睨み付けた。
「・・・最初から、カードを全部見せる間抜けがどこにいるのよ。能力は極力出さない。何故か分かる?」
あざけるように笑うは続ける。
「自分の能力に関する情報は命取りになるからよ。貴方、これから忍として生きていくなら、覚えておいた方が良いわよ。」
「命取りって・・・私達同じ班でしょ!?仲間じゃない!」
「仲間だからって、教えて良いことにはならない。貴方、随分と甘い考えを持っているのね。」
その時、自分に向かってきた拳にはその場を飛びのいた。
「何の真似?」
「いんや、俺もサクラに賛成ってコト。俺達は仲間だ。勿論、お前の言うことに一理あるとしても、あの状況下であれば、お前は俺が何も言わなくても治療するべきだった。」
呆れた、と言うような顔をしてはカカシを見た。
彼は、今まで幾度と無く死と隣り合わせの状況を潜り抜けてきたように見える。だから、自分の言葉を理解すると思っていたのに。
「俺は、に賛成だな。」
今まで口を閉ざしていたサスケが少し大きな声で言うものだから、カカシはため息を付いた。
「そんなぁ、サスケくんまで・・・・」
眉を下げるサクラとは反対に、は面白そうにサスケを見た。
これが私の生きる道 #16
一番後ろをのんびり歩いていると、カカシが隣にやって来て小声で話しかけてきた。
「この調子だと、次は上忍クラスが来るだろう。ちゃんと手伝うんだぞ。」
「えぇ、喜んで。ちょっとは良い運動になれば良いけれど。」
彼女は、先ほどとは打って変わって穏やかに微笑む。
どうも、と話していると調子が狂うな、とカカシはがしがしと頭を掻いた。
「私に戦う許可をくれた代わりに、一つ良いこと教えてあげる。」
円は相変わらず周囲を覆っていて、はもう1人の存在に気付いていた。
「私、人の気配を探るのがすっごく上手いんだけれど、1人、強そうなのが上にいるわ。」
それに釣られて上をみるようなカカシではないが、その言葉にため息を付いた。
「ってことは、さっきも気付いてた訳ね。」
「えぇ。でも、ちゃぁんと働いたでしょう?さっき。」
「働いた、ねぇ・・・。」
確かに、彼女は4人の中では一番動いた。いわば、功労者とも言うべきか。
だが、その動機が不純だ。
タズナを守るという動機よりも、面白そうだから手を出したように見える。
「しかし、あんだけ躊躇無く殺せるっていうのは、お前、一体どういう教育を・・・」
カカシは言いかけた言葉を切った。相手が仕掛けてきたのだ。
「全員ふせろ!」
突然叫んだカカシに、は乱暴にタズナの身体を地面に叩き付けた。
それにタズナは文句を言うが、現れた再不斬に、口をつぐんだ。
「へー、こりゃこりゃ、霧隠れの抜け忍桃地再不斬君じゃないですか。」
は再不斬の姿ににっこりと笑顔を作った。
先ほどの2人とは違って中々手ごたえがありそうだ。
「邪魔だ。下がってろ、お前ら。」
飛び出そうとしたナルトを抑える言葉に、はため息をついた。
お前ら、の中にはも入っているということだ。
再不斬は水面に降り立ち、印を組むと、霧散するようにその体が掻き消える。
「タズナさんを守れ。良いな。」
その視線がに向く。
「残念。」
は肩を竦めてそう言うと、大人しくタズナの横についた。
忍術を駆使して人が戦うのを見るのは初めてだ。これを観戦するのも悪くは無いかもしれない。
再不斬の発する殺気が周りを包み込む中、はうずうずと動き出しそうになる身体を押さえつけた。
直後、タズナの目の前に現れた再不斬をが蹴り飛ばす。
再不斬は思っても見なかった一撃に目を見開き、そこにカカシがクナイを叩き込む。
「先生、後ろ!」
だが、その再不斬は水分身で、背後に現れた本体にナルトが叫んだ。
呆気なくカカシの身体は再不斬の刀に切られたように見えたが、それも水と化した。
「うーん、甘い。」
カカシは再不斬の背後からクナイを突きつけ、一同がほっと胸をなでおろし掛けた時にはそう言ってクナイを再不斬の頭目掛けて放った。
それを受けた再不斬は水となり、カカシははっとして背後を振り返って再不斬の刀を避けた。
「くっ」
しかし、避けられた再不斬は続けざまに足を入れると、カカシが吹っ飛んだ。
「先生!!」
ナルトとサクラが叫ぶ。は黙って立ち上がった。
(あの水、変なオーラが見える。厄介ね。)
流石のカカシも少し辛そうだ。
の読み通り、水の牢獄に捕まったカカシは身動きが取れないでいる。
「来るわよ。」
水の牢獄から本体は手が離せないのか、一体の水分身がゆらりと姿を現して、は刀を抜いた。
「足止めしてる間に、さっさと逃げて。」
はそう言って、駆け出した。
「さっきの餓鬼か。お前はちょっとはマシみたいだな。」
「あら、随分な言い様ね。」
笑いながらもは迫り来る再不斬の刀を刀を持つ手だけで受け止めると、左手を突き出した。
雷を纏ったそれに再不斬は刀を捨てて跳躍する。
「・・・・」
「偽者じゃ力不足よ。さっさと本体で来なさい。」
挑発するようにはカカシの隣に立つ再不斬を見て言うと、背後からもう一体の再不斬の水分身が襲い掛かってきた。
それはの首を刎ねようとまっすぐに彼女の首に向かうが、はそれを刀で受け止める。
「あの餓鬼、何者だ?」
「うちのエースだよ。再不斬君。」
彼女の言う通り、水分身だときつい。
再不斬の水分身は、から標的を後ろにいるナルトたちに移した。
「ったく、逃げなさいと言ったのに!」
は舌打ちをして、彼らの元へ向かおうとするが、目の前をもう一体の水分身が立ちはだかる。
「あいつらなら10秒ありゃ十分だからな。足止めさせて貰う。」
「・・・そう。」
視界には、ナルトの影分身達が目に入る。
あちらはあちらで、再不斬に向かう決意をした様で、迎え撃とうと構えている。。
「全く、さっさと逃げれば良いものを。手のかかる。」
は刀に雷を流し込んだ。
「これ、結構大変なのよね。悪いけどさっさと消えてもらうわよ。貴方も、あの術に水分身まで作ってちゃぁ、そう長くは持たないんじゃない?」
再不斬のチャクラを流し込まれた水だからか、雷の流れが良く無い。
ここ一帯の水を感電させて、一瞬再不斬の動きを止めようかとも考えたが、上手くいく保障が無い今はチャクラの無駄遣いだ。
水分身の再不斬と斬り合いながら、ナルトたちの様子を気にしていたせいか、背後への警戒が疎かになった瞬間を再不斬本体は見逃さなかった。
「っ!避けろ!!」
カカシが叫ぶものの、その前に再不斬が放ったクナイはの腹に刺さる。
「・・・!」
チャクラだけではなく、オーラも手と足に集中させていた為、クナイは軽々との腹を貫いた。
痛みが走るが、すぐにクナイを乱暴に抜いた。
「ククッ、お前も甘い奴だな。」
「・・・失礼な人。」
こみ上げてきた血に、はそれを吐き出しながらもぎり、と手に力を篭めた。
ここで念を使うつもりは毛頭無いし、彼に倒される気はもっと無い。
「すぐに、消してあげる。」
そして、もう遊ぶ気も無い。
の目つきが変わると同時に、再不斬の水分身は水に還った。
それに、本体を振り返ると、ナルトとサスケはぼろぼろになっているものの、水の牢獄が解けている。
2人は水遁での応酬に入るが、は腹の血を乱暴に抜いて毒を抜くと立ち上がった。
「カカシ!どいて!私がやるわ!」
オーラを傷口に集めて止血すると、は再不斬に目に留まらない速さで向かった。
は腹に傷があるのを感じさせない動きで再不斬と激しい攻防を繰り広げる。
「こーんな傷、私に負わせるだなんて・・・頭に来るわね。」
「!下がれ!」
毒抜きをしたせいで、服には自分の血がこびりついている。
明らかに、血を出しすぎているにカカシは叫んだが、彼女は聞く耳を持たない。
「ぐぁッ」
左腕の付け根から入った蹴りに、再不斬はガードしきれずに木に打ちつけられる。
すぐに体勢を整えようとするが、追って放たれた雷を纏ったクナイにそれを阻まれた。
「防戦一本じゃないの。流石にあれだけチャクラを消費してきついんでしょ。」
「この餓鬼・・・ッ!」
すらりとした刀身が再不斬の心臓に当てられる。
「大丈夫、痛くないように殺してあげるから。」
そうにっこりと笑って、心臓を一突気にしてやろうとしたとき、再不斬の首を針が貫通した。
はそれに目を見開くと同時に顔を歪める。
戦っている最中は、ほとんど円を使わない。
だからか、突然の乱入者の存在に気付かなかった。
「貴方、だれ?」
不機嫌そうには針が飛んできた先を見た。
じわじわと、周りを彼女の殺気が侵食し始める。
「死んでるな・・・」
カカシはその中、再不斬の死を確認して同じく上を見上げた。
「霧隠れの追い忍か。」
「はい。」
そういった面をつけた少年はを見た。
「そんなに怒らないで下さい。ボクはずっと再不斬を殺す機会を伺っていたんです。」
「怒るわよ。だって、見て、この傷。」
は手を腰にあてて、腹を指差した。
「こんなの食らって黙ってられる訳ないでしょう?私の手で、殺してやろうと思ってたのに、良い所取られちゃうんだもの。」
あーぁ、興が殺がれた。と呟いて、は刀を仕舞った。ついでに殺気も引っ込める。
そして冷静になって気付く、血が足りないと。
ナルトが少年に向かって叫びだしたのをぼんやりと聞きながらはその場に腰を下ろした。
増血剤は生憎と持ってきていない。
(傷を塞いで1日寝てれば治る・・かな)
そう思った直後には、もう意識は無かった。
襲撃
2013.5.18 執筆