つまらない任務の繰り返し。
思わず欠伸が出てくる。
「あっ、!真面目にやれってばよ!!」
「はいはい。真面目にやってるわよ。これでも。」
馬鹿馬鹿しい。
迷子の猫を捕まえる、だなんて。
勿論、このレベルの任務に、嫌気が差しているのは皆同じだが、の場合、もう嫌だから里抜ける、なんて言い出しそうだからたちが悪い。
その日、は家に帰るなり、一筆書き始めた。
「あ、もう帰ってたんだ。何書いてるの?」
いのがの部屋に入ると、彼女が机に向かって何か書いているのでそれを覗き込む。
「いの。ノックをしないで部屋に入ってくるのはマナー違反よ。更に、人が書いている時に背後から覗き込むのも頂けないわね。」
「はいはい・・・えー、何々、”この度、私は、下忍を辞し”・・・って、何これ!」
冒頭の部分を読み上げたいのは、疑問の声を上げた。
「何って、辞表よ。あんな任務やってられないわ。」
「本気で言ってるの?」
書き終えたは、紙を畳んで、表にでかでかと、辞表と記す。
「あら、いの。私が冗談でこういうものを書くと思っているの?」
ようやく顔を上げたはにっこりと笑っていのを見上げた。
これが私の生きる道 #15
翌日、は予定通り、辞表をカカシに叩き付けた。
しかも、カカシの家に乗り込んで、だ。
「・・・・・あのね、ちゃん。どうやって此処を知ったかとか、入ってきたとかは置いておいて・・・」
「兎に角、受理して頂けましたね。」
さぁ、今日から自由の身!と言わんばかりに去ろうとするの肩をがしりとカカシは掴んだ。
「まぁまぁ、落ち着いて。」
「私、落ち着いてるわ。カカシさん。」
ぺし、と払いのけられた手は宙に浮き、カカシはどうしたものかと首を捻る。
「確かに、キミのレベルでこの任務は退屈だっていうのは分からなくも無いけどね。物事には順序ってものが・・・」
「えぇ、えぇ。存じ上げておりますとも。だから、私も全うな道筋で辞職させて頂こうと、辞表を上司である貴方にお渡ししたんだけれども、何か不都合でも?」
カカシはこれ見よがしにため息をついて見せた。
「はいそーですか。って辞めさせれる程、この世界甘くないんだよ。しかも、キミは既に下忍なんてレベルじゃない。そんな子をおいそれと野放しにする訳にもいかない。」
「まだアカデミーを卒業して1ヶ月の若造を随分と買ってるのね。」
肩を竦めて見せると、カカシはぽりぽりと頬を掻いた。
「分かった。少し面白そうな任務見繕ってあげるから。」
「辞職は認められないと?」
「そういうこと。」
今度はが盛大にため息を付いた。
タズナの護衛任務が来たのはそれから数日経った頃のことだった。
それらしい任務と言えば、それらしいが、は退屈そうに欠伸をする。
「出来れば、こう、もっと暴れるような物が良いんだけれど・・・。」
護衛任務と言われて出てきた依頼主をは無感情に眺めた。
護衛、だなんて自分の性にはあっていないのに、と。
「まぁ、今までのに比べればマシかしら。」
そう呟きながらもと依頼主であるタズナを盗み見た。
カカシは忍者対決なんてありはしない、と言っていたが、果たしてそうだろうか。
タズナは、お気楽な護衛任務とは消して言い難い顔をしている。
そして、普通にしていれば気付かない程度に殺された気配。
いくら気配を消したとしても、の円の中ではそれは無意味だ。
(2匹・・・そんなに強くは無さそう)
この程度ならば、他のメンバーで事足りるだろう。
「残念。」
「何だってばよ、急に。」
呟いたにナルトが反応する。
声は上げないが、カカシもサスケもをちらりと見た。
その時、飛び出してきた2人の忍にいち早く反応したのはやはりカカシとサスケだった。
敵の忍の武器でばらばらになってしまったカカシに、サクラの悲鳴が小さく聞こえる。
「ナルト!」
次に向かっていく先にはナルトが居て、サクラが叫んだ。
それと同時に、サスケがクナイで敵の武器を封じる。
「へぇ、やるじゃない。」
「こ、こんな時に、何言って・・・!来るわよ!こっち!!」
サクラは向かってくる敵に、クナイを構えた。
しかし、その前にが出る。
「こっちに来るなんて、命知らずね。ちゃんと楽しませてよ。」
笑いながら目にも留まらぬ速さで抜刀したは1人目が伸ばした仕掛けつきの腕を切り上げ、その勢いのまま首を刎ねると、2人目の心臓を振り向きざまに一突きした。
自分もタズナの元へ行こうとしていたサスケも、の後ろで見ていたサクラも、そして、少し離れた場所にいたナルトもそれに目を見開く。
「・・・呆気ない。」
刀の血を払い、は鞘に戻す。
「あーぁ、もう、派手に殺してくれちゃって・・・。」
生け捕りにしようとしていたカカシが音も無く現れて、二人の死体を見下ろした。
「あれくらい、受け止めてくれると思ったのよ。私は悪くないわ。」
にっこりと微笑んで言うの頬には血が少しだけついている。
アレだけ相手を切っておきながらこれだけの返り血というのは、異常だ。
カカシはじっとを見た。
「慣れてるな。」
「まぁね。」
そう答えながら、頬の血をぬぐう。
「で、この方々は、どちらの方?」
「霧隠だな。」
カカシは忍の額宛を確認して言うと、タズナを振り返った。
も同様に彼を見る。
「で、これがCランク?狙いはタズナだったわよ。」
「あぁ。これはBランクだ。タズナさん。これだと我々の任務外ってことになりますね。」
そして、ナルトの手の傷を確認し始めた。
「毒抜きが必要だな。」
カカシの視線は一瞬に向かうが、は我関せず。
一応医療忍術は使えるが、カカシがそれを知っているかは分からないからだ。
手持ちのカードをやすやすと見せる気は毛頭無い。
「そんな!里に帰って医者に見せないと!」
「そーだな・・・里に戻るか。この任務、荷が重いしな。」
それを聞いて、とサスケは不服そうな顔をした。
これを逃せば忍と戦う機会のあるBランク以上の任務は当分来ないだろう。
「一度引き受けた物は全うすべきではないの?」
「お前は忍と戦いたいだけでショ。ナルトの怪我は里に戻って治療すべきだ。」
呆れたようにカカシは言う。
「待てってばよ!」
自分は蚊帳の外だったが、ナルトは声を張り上げると、クナイを傷口に突き立てた。
「任務続行だ!」
そう、クナイを刺した手を高々と上げるのは良いものの、無駄に血を流しすぎだ。
カカシは、を見た。
「、医療忍術使えたな。」
「あら、よくご存知で。」
治療しろ、ということだろう。
「いりょーにんじゅつ?」
「高度なチャクラコントロールが求められる治療の為の忍術だ。アカデミーで話だけは聞いただろうが。」
は、と馬鹿にしたように鼻で笑うものの、サスケの顔は焦燥感が浮かぶ。
先ほどの戦闘でも感じたが、彼女は戦闘能力だけではなく、チャクラコントロールも優れているということだ。
同い年でここまで差があるとは思わなかった。
「ほら、手見せて。」
は、サスケに食って掛かろうとするナルトの手を強引に取ると、血を抜いて、手のひらにチャクラを集中させた。
淡い光がの手に集まり、傷が見る見るうちに塞がっていく。
「すげぇ・・・!」
九尾の力も手伝い、程なくして傷が塞がった手にナルトは手をぶんぶんと振る。
「治ったってばよ!」
「傷を塞いだだけよ。血まで補った訳じゃないから、余り振り回さない方が良いわよ。」
そっけなく言って、視線でカカシに、これで満足かと尋ねる。
(ここまでとは・・・)
彼女が医療忍術を使える事は、報告書から知っていたものの、目の前で見せられると驚きを隠せない。
かつて、この歳で医療忍術を扱える者が居ただろうか。
(さっきの戦い方といい、医療忍術といい・・・要注意だな。)
強すぎる力はそれだけで周りを惑わす。
現に、サスケは対抗意識を燃やし、サクラは先ほどの2人の忍の末路に少し怯えている。
サスケとナルトほどの力の差であれば、良い刺激になるが、ここまで来ると良い影響が出るか、それともその逆か。
答えは出ない。
焦燥
2013.5.16 執筆