どうやら、本当にイルカは適当な理由を言っておいてくれたらしい。
アカデミーを一週間丸まる欠席したことについても、不問のままで、は上機嫌で職員室へと向かった。


「・・・お、ようやく帰ってきたか。」


苦笑しながらイルカに頭を下げる。


「助かりました。まさか、本当にやってくれるとは思わなかったんだけれど。」
「・・・まぁ、シュウさんとカヤさんには昔世話になったからな。」


知っていたのか、とは首をかしげた。


「最初は気づかなかったんだが、苗字と、あと、昔見せられた写真のことを思い出してな。」


どうやら、あの2人はイルカにも自分の写真を見せていたようだ。
何とも苦い気持ちになる。


「墓参りはどうだった。」
「どうもこうも・・・そうねぇ、日本酒を一升かけて来たから、たぶん喜んでると思うわ。」


それを聞いてイルカは笑う。確かに、酒好きだった、と。


「俺も、今度墓参りに行くとするかな。酒を持って。」
「・・・きっと喜ぶわ。」


出来ることなら、もう少し自分が成長した時に2人とお酒でも飲みたかった。
そう考えながらは職員室を後にした。












これが私の生きる道 #11












実は、いのにはちゃんと顔を合わせていない。
顔を合わせると煩いと思ったため、いのがアカデミーにいる時間帯に家に戻り、いのの両親と話をした後、夜遅くまで出かけていたのだ。
そして今朝は誰よりも早く起きて、うちはの森の中で傀儡を動かしたりしてから先ほど、職員室へと向かったのだから。

ー!!」


あぁ、やっぱり来た。
そう思いながらは足を止める。


「もう!いきなり居なくなるからびっくりしたわよ!どこいってたのよ!!」
「あれ、聞いていないの?余りにも私の出来が良いから特別合宿に一週間参加してたのよ。」


いのは怪しそうにを暫く見つめたが、これ以上聞いても何も出てこないのは分かっているのか、息を吐き出した。


「・・・もう、ほら。イタチさんの話をした翌日に、、いなくなったでしょう?だから・・・。」
「オイ」


話しているところで、背後から鋭い声がかけられる。
あぁ、しまった、と後悔したときには遅い。


「サスケ君!え、何、どうかしたの!?」


舞い上がっているいのは、の斜め後ろに居るサスケに目が釘付け。
さっさと逃げるが吉といわんばかりには教室へと向かった。


「お前、なぜイタチの名前を知ってる。」
「え?何でって、イタチさんとってすっごく仲良くって・・・って、サスケ君!?」


サスケはを追って走り出した。
彼女の名前は知っていた。
何せ、自分を抜いての成績トップ、そして授業でも浮いている彼女の噂は嫌でも耳に入ってくる。


(あぁ、嫌だ嫌だ)


後ろから追いかけてくる足音。十中八九サスケだ。
はどうしようか、と一瞬考えた末に、窓を開け放った。


「え、さん!?」


近くにいた担当教員が驚きの余り声を上げる。


「先生。私、気分が悪いので早退します。」
「え、ええ!?」


彼の言い分は聞かずに、は窓から飛び出した。
すでにその姿は小さくなりつつある。


「相変わらずだなぁ・・・。成績はいいんだけどなぁ、素行がなぁ・・・。」


遅れること数秒。サスケも窓から飛び出していく。
うちはのマークが描かれた背中に、あぁ、あの天才児か、と思いながらも、溜息が漏れる。


「なんでこう、今年のアカデミー生は問題児が多いんだか。」


そろそろ授業が始まる。
サスケのクラスの教員にも、2人は鬼ごっこしていますと伝えに行こうか、と彼は歩き始めた。




















にとって、サスケを撒くなんて簡単なことだった。
足は自分のほうが速いし、気配を消すのだって得意中の得意だ。


「クソッ・・・!」


早々にを見失ったサスケは忌々しげに舌打ちをして、アカデミーへと戻った。
そして、休み時間になると急いでいのを探しに行く。

彼女のことは興味は無いが、覚えてはいる。
彼女のクラスの前を通るたびに、黄色い声援を彼女の友人とともに自分に送りかけてきているのだから。


「おい、お前。」


教室に入ってきたサスケに、いのは顔を真っ赤にして立ち上がった。


は何故イタチのことを知っている。」


惚れた弱みというのだろうか、いのはとイタチに関することを嬉々として話し始めた。
彼と一緒に修行をしていたり、彼からどんなものをプレゼントされていたか、そして、どれだけ彼女がイタチに心を許していたか。


それを聞いて、自然とサスケの顔は険しくなる。


「サ、サスケくん?」
「・・・・邪魔したな。」


え、もう終わり!?といのは引き止めようとするが、彼はさっさと教室から出て行ってしまった。


「・・・・・のこと聞かれて終わり、だなんて・・・・まさか!!!!!」


一気に落ち込む。


「確かには美人で成績も良いけど、そんな、あんまりよ・・・!」


帰ったら問い詰めてやらなきゃ。


そう意気込んで家に帰ると、は自分の部屋にいた。
部屋にいる時はたいてい彼女は本を読んでいる。
また、一人で本でも読んでいるのだろうと彼女の部屋に入ると、案の定、本を開いている彼女と目が合った。


「あら、おかえり。」
「ちょっとどういうことよ、!サスケくんとどういう関係なのよ!!」


はぁ?とは片方だけの眉を器用に持ち上げた。


「どうもこうも、無関係よ。」
「嘘おっしゃい!あの後サスケ君からのこと聞かれたんだから!」


自分が捕まらなかったから、いのの所へ聞きに行った訳か、と察したはようやく本を閉じた。


「彼はイタチの弟。私からすると、それ以上、それ以下でも無いわ。」


そう言うと、彼女は驚いたような顔をした。
どうやら、彼らが兄弟ということを知らなかったらしい。


「・・言われてみると、似てる・・・。」
「顔だけね。中身は全然違うみたいだけれど。」


長い時間本を読んでいたからか、身体が固まった。首をこきこき鳴らすと気持ちが良い。


「彼はイタチを憎んでるんでしょうね。だから、イタチという言葉に反応して、仲の良かった私に何かを聞きだそうとしている。」


うちはの事件なら、いのだって知っている。
そして、その直後里からいなくなってしまったイタチ。


「まさか・・・」
「うちはの人たちを殺したのはイタチよ。」


少し喋りすぎただろうか。そう思いながらは傀儡の入っている巻物を手に取った。


「・・・・ごめん。問い詰めるような真似して。」
「・・・・別に、良いわ。分かったら今後イタチの話を外でするのは止めて頂戴。面倒なことになる。」


そう言って、は部屋を出た。
悪いがこれ以上彼女と話をする気にはならない。


(明日からが思いやられる・・・)


サスケに付きまとわれるのは目に見えている。
しかし、彼には何も話すことは無い。先にも言ったように、彼はイタチの弟。ただそれだけなのだ。


「宿題、しなきゃ。」


目を瞑って、己の師となったサソリの言葉を思い出す。
近い将来、里を抜けるために、力をつけなければ。









イタチの弟



2013.4.22 執筆