修行の後、が目にしたのは彼女が夕食用に取っておいた食事を食べているデイダラだった。
それも、もう、食べ終わる頃だ。


「それ・・・・」


当然、昼以来何も食べていないは空腹で、夕食をちょっとばかり楽しみにしていたのだから、ぴきりと米神が引きつるのも無理は無い。
デイダラはその声に振り返ると、にかっと笑う。


「お、やっと戻ってきたのか。これ、うまいな!うん!」


そう言って最後の一口を口に運ぶデイダラに、ぐっとは手に力を篭めた。
そのやり取りで全てを察したサソリは呆れたようにデイダラを見る。


「それ、私の夕食なんだけれど・・・」


そうして瞬時にデイダラに近づくと、その丁髷を引っ張りあげる。


「いででででで!」
「吐き出して、土下座して、泣いて詫びてくれる?」


デイダラは反射的に怒鳴ろうとしたが、流石に少しは勝手に彼女の夕食を食べたのを悪いと思ったのか、ぐぅと口を噤んだ。


「ちょっと、サソリ。貴方、自分の子分くらいちゃんと躾けておいてよ!」
「俺は旦那の子分じゃねぇ!うん!」


正直、食事を取らなくても問題が無いサソリにとってはどうでも良い話しだ。


「生憎と俺はそいつのベビーシッターでも母親でもねぇもんでな。」


ため息と共にそう言い捨てて騒動に巻き込まれないうちに、とさっさと自室へと向かった。
後ろからはデイダラの悲鳴との叱咤する声が聞こえてくる。
デイダラでもあの馬鹿力と速さではただでは済まないだろう。


「旦那ァー!」


ドアを止める時、デイダラの助けを求める声が聞こえてきたが、サソリは我関せず、非情にもドアを閉めた。










これが私の生きる道 #10












案の定、サソリの傀儡に瞬殺された練習用の傀儡を見下ろして、はため息をついた。
分かってはいたが、こうもあっさり倒されると矢張り落ち込む。


「最初から、昨日の今日で傀儡で組み手が出来るなんて思っちゃいねぇよ。最初の一撃を避けれただけでも奇跡だろ。」


珍しく慰めるような言葉に、は頷いた。


「毎日、修行の最初に傀儡での組み手は続ける。せいぜい明日は10秒もつように足掻け。」


さて、次に行くぞ、と言ったサソリの手には練習用ではなく、本気で殺る用の傀儡が5体。
はそれに顔を青くした。


「安心しろ。痺れ薬しか仕込んでねぇ。1時間、耐えろよ。」


くつくつと面白そうに笑うサソリ。


「サソリのSはサドのS・・・。」


ぽつりと零した言葉にサソリは益々楽しそうに笑った。

昨日のサソリの宣言どおり、半殺し状態になること2回。
容赦ない修行の数々に悪態をつきながらもは必死にこなした。


午後は決まって殺される勢いでしごかれ、夕食後は医療忍術についての講義。
どうやら、任務が無いと相当暇らしい。(本人に言うと、真剣に殺されかけたので、後にも先にも1回しか言っていない)



居候4日目、今日もサソリの傀儡を相手にしていたところに、少し予定より遅れてイタチと鬼鮫が戻ってきた。
アジトの周りで争いあう気配に、二人は目を見合わせる。


「追い忍ですかねぇ・・・」
「・・・・・いや、と・・・・。」


言いかけてイタチは走り始めた。
鬼鮫はそれに首をかしげると、彼の後を追う。


「ちょっと、サソリ!今の本気で殺す気だったでしょ!」


間一髪、何とか堅で強化した腕で傀儡の迫り来る左手を弾く。幸いそこに毒は仕込まれていなかったのか、痺れは無いが、手のひらに横一線、赤い線が出来て血が滴り落ちた。


「あぁ?ちゃんと避けろっつってんだろーが」


程なくして見えてきた二人の姿、いや、と周りを取り囲む3体の傀儡に、少し離れた岩の上で眺めているサソリの姿に、イタチと鬼鮫は目を見開いた。
少し離れたところには大破した傀儡が2つ転がっている。


「どういうことだ、サソリ。」


現れたイタチと鬼鮫に気づいてはいたものの、には声をかける余裕が無い。


「げ、それ、反則!」


かぱりと開いた傀儡の口から、針が数え切れないほど飛び出してくる。
は堪らず、サソリの言いつけを破って念で瞬時に移動した。


「どうもこうも、修行つけてやってんだよ。」


そう短く答えると、サソリはに向かって叫ぶ。


「オイ!それは使うなっつっただろーが!!」
「じゃ無きゃ死んでたわよ!」


傀儡のすぐ横に移動したはすばやくその胴体を横一線する。


「あの年で、中々良い腕をしていますね・・・」


鬼鮫は感心したように呟いた。


「今すぐ止めろ。に話を聞く。」
「俺が話すのじゃ不服か?」


イタチの目がすっと色を変える。


「チッ、仕方ねぇな。」


サソリは傀儡を操る手を止めた。


「休憩だ。」


助かったとばかりにはその場に大の字で寝転がった。
流石に5体相手はきつい。昨日は半殺しにされたのだから、今回はこれくらいで済んで、胸をなでおろす。


「イタチ、おかえりなさい。」


見上げる先にはイタチが立っている。


「どういうことだ?」


イタチは寝転がっているの手を引き、立ち上がらせながら聞いた。


「サソリに弟子入りしたのよ。彼、容赦無いから、見てよ、コレ。」


深く傷が入っている四肢。オーラを傷口に集中させている為、出血は止まっているが、酷い状態だ。
イタチは困惑しながらもサソリを見た。


「そういう事だ。おら、傷を見せろ。」


すたすたと歩いてきたサソリはの治療を始める。
どうやら、彼女の言ったことは本当らしい。


「まさか、サソリさんが弟子を取るなんて、どういう風の吹き回しですか?」
「中々素質はあるからな。頭もそこそこ切れるし、暇つぶしには丁度良い。」


おや、と鬼鮫は面白そうに笑った。どうやら結構気に入っている様だ、と。


「・・・・俺は反対だ。修行なら俺が見る。」


ほぼ塞がってはいるが、他にも酷い怪我をした痕がある。
イタチはじろりとサソリを睨みつけた。


「妹を取られたみたいで、悔しいか?お前にも可愛いとこがあるじゃねぇか。」


からかうような言い方に自然とイタチの顔は厳しくなる。


「サソリ、挑発するようなこと言わないでよ。」


ため息をついて、は治療が終わった傷を確認した。


「・・・・1時間後、俺の部屋に来い。昨日貸した巻物も持って来いよ。」


そういい残してサソリはアジトへと向かった。
その後姿を見送ると、はイタチに向き直る。


「サソリにはちょっと教えて欲しいことがあって、修行をつけてもらってるのよ。心配いらないわ。」
「正直、サソリさんが、ちゃんと世話をするなんて驚きましたね・・・。」


ねぇ、イタチさん、と声をかけると、彼はサソリを見ていた視線をに落とした。


「無理は、するな。」


ぽんぽん、とその頭を撫でるとは苦笑した。
心配症なのは本当に変わらない。




















最終日、はサソリの部屋を訪れていた。
その手には、赤い石の小さなピアスがある。


「入るわよ。」


サソリは傀儡の修理をしているようだった。
一瞬だけに視線を向けるとすぐに、傀儡に戻して作業を続けている。


「その身体、ピアスホールは開いていないみたいだけれど、開けられるわよね。」


そう言いながらピアスをテーブルの上に置く。
ようやく手を止めたサソリは立ち上がると、テーブルの上のものを確認した。


「私の念が篭めてあるわ。20km以内であれば、このピアスのある所に移動できるから出来れば着けておいて欲しいんだけれど。」


サソリはピアスを手に取ると、それをじっくりと眺めた。


「便利な能力だな。」


着けてくれる、ということだろう。
それをポケットに入れながらサソリは修理していた傀儡を見た。


「練習用にいくつか傀儡を渡す。あと、これも目を通しておけ。」


そう言いながらいくつか巻物を渡す。
成るほど、宿題という訳か。


「サボるなよ。」


釘を刺す言葉に笑って返す。


「近くに来たら鳥を飛ばす。」
「分かったわ。」


さて、一応デイダラと鬼鮫にも挨拶をしていかなければいけない。
は最後に礼を言うと、部屋から出た。


「今日帰るんだってな、うん。」


サソリ以外はリビングに居て、中に入ると、真っ先にデイダラが声をかけてきた。


「次来る時は、飯、作り置きしてってくれよ。」
「自分で作りなさいよ・・・。」


呆れたように言うと、デイダラは舌打ちをした。


「サソリに余り迷惑かけないようにしなさいよ。」
「あぁ?俺がいつ迷惑かけたって?うん!」


それを静かに無視して、鬼鮫に声をかける。


「短い間だったけどお世話になったわね。またそのうち会うでしょうけど、前みたいに突然斬りかかって来ないでくれると嬉しいわね。」


イタチの元へ移動したときの事を根に持ってるらしい。
鬼鮫は肩を竦めた。


「善処しますよ。」
、そろそろ行くぞ。」


まだ文句を言いたい様子のを引っ張って、イタチは歩き始める。


「ちょっと、もう少し文句を・・・」
「木の葉に戻る時はアレを使わずに戻るんだろう。日が暮れる前に戻ったほうが良い。」


ぴしゃりと言われて、は溜息をついた。


「その通りね。」


外に出ると曇っていて、一雨くるかもしれない、と呟く。


「・・・個性的な仲間ね。」
「あぁ・・・その中でも、まさか、サソリに弟子入りするとは思わなかったがな。」


そしてサソリがしっかりと面倒を見ているのにも驚いた。


「鬼みたいだけどね。彼。」


この短い期間で何度殺されかけたか分からない。
全く、容赦が無い人だ。


途中まで他愛も無い話をし、分かれたは明日から始まるまた退屈な毎日に嫌気が差しながらも、走り続けた。
さて、イルカは上手いこと誤魔化してくれているだろうか、と。








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