は、真実、生まれた瞬間から酷く可愛げの無い少女だった。
全く泣きもせずにこの世に生まれでた瞬間から、周りの子供と遊ぶことなせずに、「年収劇的アップ!時間投資学 パート2」なんて本を、隣の従姉妹の話を聞き流しながら読んでいる今、この瞬間まで、一寸たりとも、彼女は純粋な子供の愛らしさというものを発揮した事が無い。
あぁ、ただし、彼女が自分の目的を達成する際は別だが。
「あ、、見てよ!サスケくん!」
は肩を揺らされて、億劫そうに本から顔を上げた。
「あぁ、そう。相変わらず色恋沙汰に急がしそうね、いの。」
「なんですってー!」
一昨日入学式があったばかりなのに、彼女はもう意中の人なんてものを見つけている。
怒り出すいのを軽くあしらっては本を再び読み始めた。
(なんて馬鹿げてるのかしら。)
二度目の生を受けたは、忍者なんていう、昔だったら鼻で笑って哀れみの目を向けたであろう職業の両親を持った。
5歳の頃、両親は任務でその生涯を終え、親を失ったは叔父の元で育てられることとなり。
そして今年、は従姉妹と共にアカデミーに入学した。
これが私の生きる道 #1
彼女は他のアカデミー生とは一線を画していた。
授業までの時間、は決まって本を読んでいる。
騒がしい従姉妹は他のクラスだからゆっくり過ごせると思いきや、やっぱり、自分の時間を邪魔する輩はいる。
女子は恋の話に花を咲かせ、男子は追いかけっこやら喧嘩やら、とりあえず騒がしくてかなわないのだ。
(どこの世界でも、この年頃の男は猿ね)
それをちらりと目で確認して溜め息をつく。
正面にある時計がかちりとその長針を12に合わせた時、鐘が鳴った。
それと同時に入って来る教師。
ようやく静かな時間が訪れると思いきや、余り強く言わない教師が悪いのか、それともこのクラスの男子が手をつけられない程の猿人類なのかは知らないが、一向に収まる気配はない。
教師は仕方無いなぁと苦笑いして叱ろうと息を吸い込んだ時、がん、と何かを蹴る音が聞こえたと同時に自分の横を何かが勢い良く通り過ぎるのを感じた。
さっきまで五月蝿かった教室は水を打ったように静かになる。
そんな中、彼女の声は大きく無い筈なのに、誰もがその声をはっきりと耳にした。
「ねぇ、五月蝿いんだけど。お願いだから、黙ってくれるかしら。」
教師は椅子に座ったまま、にっこりと笑った少女を見た後、恐る恐る横を見た。
「・・・!!」
そこには、なんと黒板に陥没している机が一つ。
「ほら、先生。授業をどうぞ開始なさって。」
そう言って悠々と椅子に腰掛けて本を開くに誰も何も言えなかった。
職員室にて、は教師の前に立っていた。
勿論、彼女は好んでこの場にいる訳ではない。
先ほどの彼女の暴挙に教師が声をかけたのだ。
「さん」
「何でしょう、先生。」
どうぞ、と言われて、どうも、と椅子に腰掛ける。
「そうだな・・・さっきの授業が始まる直前の事だけど、あれはいくらなんでもやり過ぎじゃぁ・・・」
「あら、先生。心外だわ。私、先生がてっきり鐘が鳴ると同時に教室で騒ぐあの猿人類どもを静かに躾けて、私に静かな時間を提供してくれるものだとばかり思って、期待の眼差しで見ていたのに、先生ったら見事にそれを裏切ってくれたんですもの。だから少しだけ苛々したとしても、誰も咎められないと思うのよ。だって、私の貴重な静かな時間を邪魔してくれちゃったんですもの。ねぇ、先生。」
アカデミーに入って未だ2日。
年齢に似合わない言い方でころころと笑うに教師は彼女を驚いた眼差しで見つめた。
随分と細い手足だが、侮る事なかれ。先ほどのあの蹴りで黒板にめり込んだ机は易々と忘れられるものではない。
「あー、うん。分かった。分かったよ。」
「何が分かったのか、主語が無いわ、先生。円滑な意思疎通の為には、的確な主語と述語が必要って教育学か何かの授業で教わらなかったの?」
こうまで付け入る隙も与えずに口早に言われてはぐぅと唸るしか無い。
教師の斜め前の席、つまり、の斜め前の位置に腰掛けていたイルカは面白そうにを見た。
その視線がばっちり合ったはと言うと、にこりと笑みを浮かべたまま更に口を開く。
「先生。あの年頃の男なんて、本当に猿同然。言っても聞きやしないんだからちょっとくらい強引に言い聞かせた方が良いと思うわ。」
本当に一体何なんだろうか、この少女は。
「あぁ、先生は先生になってまだ2ヶ月だけど、本当にそう思うよ。」
がっくりと項垂れる教師のつむじに向かっては声をかけた。
「私、ただあの五月蝿い餓鬼共をショッキングな方法で黙らせたかっただけだから、もうあんな器物破損に及ぶ行為はしないわ。だから帰って良いかしら。」
そう言っては立ち上がった。
「え?」
は既に背を向けて歩き出している。
「あ、ちょっと!」
「じゃぁ先生。また明日。」
そして、彼女はがらりと窓を開けると、そこから外に身を投げた。
そう、身を投げたのだ。
「!!」
自分の知る忍ならば問題は無い。
しかし、彼女はアカデミーに入りたての子供。
「彼女、何者だ?」
教師よりも早く、窓から外を眺めたイルカは、外にいるであろうを目で追っていた。
自分が去年から見ているあの金髪の子供とは大違いだ。
「・・・よく、分かりません・・・。」
本当に、その言葉に尽きた。
アカデミーでの実技の授業は、体力の向上を目的としたものばかりだった。
腹筋、ランニング、腕立て、ランニングの繰り返しに嫌気が指すのは無理も無い。
「ー!お前、何見てんだ!やるきあんのかァ!」
「一応。」
本片手に軽々と腕立て伏せをこなしていたは器用に体勢はそのまま教師を見上げた。
「体力向上?結構結構。でも、このルーチンワークをこなすのは私の性格を鑑みるととっても難しくて。あぁ、その前に、ちゃんとカリキュラム自体はこなしてるんだから問題無いかと。」
確かに、腕立てをカウントしている機械は、ノルマの100を示していて、教師は叫んだ。
「あーもう!さっさと走ってこーい!!」
「はいはい。」
渋々と立ち上がったは1人ランニングに移った。
「ったら・・・」
凄いけど問題児だ。とそれを呟くいのの周りでは、くのいち達が頷く。
一応実技では、体力の差から男女わかれて授業を行っているが、ならば男子の中で授業を行っても遜色無いのは明らかだ。
(そのお陰で、同じクラスの一部の男子にライバル視されているのだが)
「ほら、さっさとお前らも終わらさんか!」
戻って来た教師の視線にくのいち達は慌てて腕立て伏せを再開させた。
異端児