私は
前世の記憶なんてものを、要りもしないのに、持ったまま、3度目の人生。
いい加減、神様もそろそろ私を正常に転生させてくれ、と思うものの、今更それが叶うはずも無い。


さん、そろそろ行きましょうか。」


そして、私には兄がいる。それも、2人も。


「お兄ちゃんも行くって言ってなかった?」
「・・・・・・」


私に声をかけた我が家の次男は、困ったように微笑んだ。


「あ、分かった。寝坊だ。」
「正確にはまだ寝ている、ですね。本当に困ったものです。何度起こしても起きないんですから・・・。」


長男は普通しっかり者、と聞くが、うちはそれに当てはまらない。
次男の方がどちらかと言うと長男に見える。


「仕方ないなー。先に行ってようか、佐為。」


そして、私は次男を兄とは呼ばない。
兄と思っていない訳ではない。昔から彼は兄のような存在。
それでも、前世の記憶とやらは厄介なもので、彼を兄と呼ばせてはくれないのだ。


「そうですね。時呉もじきに目覚めることでしょう。」


長男は3回連続であの人だ。
前の記憶は持っていないものの、彼はあと何回私の兄をやるつもりなのだろうか。









時を越えて 番外編











佐為は相変わらず碁にいそしんでいる。
予想通りというか、彼は、小学校で院生になってしまい、今は高校に行く傍らプロとして大活躍中だ。
タイトルを取るのは構わないが、そのチートさに何度苦言を呈したか分からない。


「今日も碁会所?」
「えぇ。時呉も一緒に行くんですよ。さんも行きますか?」


お兄ちゃんはてっきり将棋をまたやるのかと思いきや、小さい頃から佐為と打っているせいか、物心付く頃には碁にのめりこみ、彼もプロとしてご活躍中だ。
今のところ佐為の全勝。家でもしょっちゅう打っている。碁だけではなく、将棋も。

将棋は今のところお兄ちゃんの方が勝っているが、佐為ももともとの頭は悪くない。
最近は競るようになっていきている。


「・・・・私はいいや。」


結局、私は今も昔も、将棋や碁にあまり興味を持てないで居た。
何度か持ったことはあったが、悉く教えて貰っているうちに寝てしまうのだ。


「夕方から合気道の稽古もあるし。」


そう言って、そそくさと家を出て行く。危ない、捕まるところだった。




















次の日、学校に行くと、転校生とやらが来るという話で教室は持ちきりだった。
皆楽しそうで何よりだ。何でも良いからさっさと授業を始めてくれ、だなんて思う私は本当に可愛げがない。
けれども、仕方が無いと思う。
前とその前の歳をあわせれば私はもうxx歳だ。全く嫌になる。


「おい、みんな席につけー。転校生を紹介するから、ほら、さっさと座れって!」


中学2年生の初夏。
皆きゃいきゃいする年頃だ。


「神谷ヒカル、神奈川からの転校生だ。」


その聞き覚えのある名前に私はようやく前を向いた。いや、でも、ひかるって珍しくないから、っていうか男か女かも分かんないし、と思っていたら開きっぱなしのドアから入ってくる少年。


「神谷ヒカル。よろしくな!」


にか、と笑った顔。
流石に金髪だなんて奇抜な髪型はしていないが、私は、久しぶりに目を見開いた、というか、固まった。
笑った顔に、あの目、そっくりだ。

いやいや、でもまだ本人かどうかだなんて分かんないし、と気持ちを落ち着ける。


「趣味は碁。強い奴いれば相手してやるよ。」


ソレを聞いて、十中八九彼だと思った。


「碁かー。あ、そういえばの兄貴はプロ棋士だったな。」
「マジかよ!」


ヒカルは勢い良く食いつく。
これは、何か返してやらない訳にはいかない雰囲気だ。


「・・・・良ければ、今度紹介するよ。」
「おう、頼むぜ。」


私はため息を付いて頬杖を付いた。
ここまで来ると運命としか思えない。ということは、アキラ君にも、また、会えるのだろうか、とわずかばかりの希望が頭をもたげた。

とりあえず、家に着いたら一番に佐為に教えてあげよう。
彼は、どんな反応をするのだろうか。





















私は家につくと、佐為の帰りを今か今かと待った。
中学生と高校生じゃ終わる時間が違う。
今までそれを不便とは思わなかったが、こういう時は何とももどかしいものだ。


「ただいま帰りました。」


玄関から佐為の声が聞こえてきて私は立ち上がった。


「佐為!ビッグニュース!!」


走り出てきた私に佐為は驚いた顔をしたがすぐに微笑む。


「私も、びっぐにゅーす、ですよ!さん!!」


いやいや、私のビッグニュースには勝てるまい、と私は急いで口を開く。


「なんと!ヒカル君を見つけました!」
「アキラ君を見つけたんですよ!」


同時に言った私たちは、暫し固まる。
骨振動で入ってくる自分の声が大きくて、理解するのに数秒かかってしまったが、佐為は、今、アキラ君と言わなかっただろうか。


すぅ、と息を吸い込む音が重なる。


「「えええ!」」


そして、私たちは同時に叫んだ。


「・・・うるせー!外まで聞こえてんだよ!」


間髪入れず開いた玄関にはお兄ちゃんがいて、私と佐為はびくりと肩を揺らした。


「ちょ、ちょっと、佐為、お兄ちゃんいると邪魔だから外いこ。」
「え、えぇ。」


その言葉に、靴を脱ぎかけていたお兄ちゃんはぴたりと動きを止めて、私たち2人を見た。


「お前ら、俺に隠し事か?」
「え、ま、まさか!ねぇ、佐為!」
「え、え、えぇ!!誤解ですよ、時呉!」


色々とあったせいか、誤魔化すのは得意だと思っていたのに、余りにもショックが大きくて上手くいかない。
疑わしげな目でじろりと見られたかと思うと頭をもみくちゃにされた。


「うわ、ちょ、ちょっと!」
「ばればれだっつーの。何隠してんだ、ほら、吐け。」


結局、佐為に話したい事も、聞きたいことも盛りだくさんだったというのに、お兄ちゃんのお陰で夜遅くまで私は佐為と話すことができなかった。







運命



2013.5.7 執筆