Dreaming

時を超えて #7

また見合いか、とはうんざりした様子で目の前の相手を見た。
彼の利発そうな顔に、さぞかし母上はお喜びだろう、と苦笑して立ち上がる。

父と母が驚いたようにこちらを見る中、は奇麗に微笑んで見合い相手を見た。


「庭を案内しましょう。今、丁度桔梗の花が奇麗ですので気に入って頂けるかと。」


そう言うと、誰も疑わない。
上手く二人きりになったところで、勝負を持ちかける。
近くに稽古場があるので手合わせしましょう、と。

最初はその思いがけない申し出にぎょっとする相手だが、武術の腕が優れていると聞く、やら、是非その勇ましい様を見てみたい、と言うと事はすんなりと行くもので。


後は稽古場で、相手を完膚なきまでに叩き潰し。
「自分より弱い相手に興味はない」と告げるだけ。




























佐為はいつものように親友の屋敷を訪れていた。
週に1、2回の頻度で訪れる佐為を女房は心得たもので、何も聞かずに招き入れる。
もはや案内人もつかない中、一人で屋敷の奥へと進んでいると、前方からぱたぱたと走る足音に足を止める。


「佐為・・!匿って!!」


追って来る足音と声に、佐為は苦笑して自分の背後の障子を開けて中にを入れた。


「ありがと!」


そう言って、息をひそめるを背に、追って来るであろう時呉を待っていると、少しして走って来る時呉と目が合った。


「おう、佐為!丁度良いところに!を見なかったか?」
さんでしたら慌ててあちらへ。」


指す方に、時呉は視線を向けた。


「悪いな。俺の部屋に行っててくれ。すぐ行く。」
「また兄妹喧嘩ですか?」
「そんなもんだ。」


苦笑して走って行く時呉の姿が見えなくなるのを確認して、佐為は障子を開けた。
そこには正座して聞き耳を立てているの姿があって、その姿に微笑みながらも佐為も部屋の中に入る。


「それで、今度は何をしたんですか?」
「私が何かしたこと前提なの?」


ふん、と顔を背けたに、佐為は苦笑しながら昨日、朝廷で耳にしたうわさ話を口にした。


「・・・噂で、今度は菅原幸久殿を蹴散らしたとか。」


は知っていたのか、とばつが悪そうに佐為を見上げた。


「知ってたのね。」
「余り私はうわさ話に興味はありませんが、さんの名前が聞こえたものですから。」


知ってたなら仕方がない、とはため息をついた。


「だって、最近見合い見合い五月蝿くて、ちょっとね、見せしめでも、って。そしたら、それを聞いた兄上が・・・。」
「・・時呉も心配しているんですよ。」


そうかしら、と首を傾げるに佐為は小さく笑った。


「ついでに言うと、私も心配しています。さんに良い伴侶が見つかるのか、と。」
「えぇ?」
「きっと、時呉は、さんが頭から合わないと決めつけているのが気に入らないんですよ。もしかしたら、さんに凄く合う人かもしれませんよ?」


そうかなぁ、とは口を尖らせた。


「お見合いの間くらい、相手と話して自分に合うかどうか、考えてみたらどうでしょう。駄目だったら後から断れば良いんです。」


でも、あいつらしつこいんだもん、とはちいさく零した。
確かに、は魅力的な女性に育ちつつある。ついでに家柄も、母方の祖父に前天皇、父方の祖父に安倍晴明を持つものだから、相当なお家柄でもある。
見合いの話は後を絶たないだろう。


「分かりました。もし、断っても相手がしつこいようだったら私と時呉が黙ってません。ね?」
「うーん・・・まぁ、そうだね。うん。」


頷いたに、佐為も頷いたそのとき、障子がすぱーんと音を立てて開いて、二人は飛び上がった。
そこには時呉の姿があり、を睨みつけた後、佐為を睨みつける。
おそらく今の会話を聞いていたのだろう。


、てめぇ、俺の言うことは聞かねぇで佐為の言う事は聞くたぁ、良い性格してるじゃねぇか、あぁ?」
「ま、まぁまぁ、時呉。落ち着いて下さい。」


と、佐為が止めたら止めたで、その矛先は佐為に向かう。


「佐為、お前も、兄貴面しやがって!」
「なっ!仕方ないじゃないですか!さんのことは小さい時から知っていますし・・・。」
「だぁー!うるせぇ!」


佐為は困ったと眉尻を下げた。
若干、かんしゃく持ちの時呉はこうなると少し長いし、面倒だ。


「佐為、頑張ってね。」


はさっさとこの場を立ち去ろうと立ち上がった。
が、時呉に襟首を掴まれて逃亡は叶わない。


結局、1時間程、時呉の話を聞く事となったのだった。

















『あの時は本当にびっくりしました。まさか、さんがあのような暴挙に出るとは、と。』
「だって、仕方ないじゃん。この見合いの流れを絶つにはアレしか無いと思ったのよ。当時の私は。」


の部屋にて、夕食を食べ終えたは棋符の本を読む佐為の横で小説を読んでいる。
ヒカルの時は、床に広げたり捲ってもらったりしなければいけないが、今はが触ればOK。
ただし、本は一ページ一ページが触っていなければいけないので、最初に労力がかかるが、たかが知れている。


『でも、時呉も複雑だったと思いますよ。勿論、私もですが。』
「え?」


何何、とは小説から顔を上げて佐為を見た。


『妹をどこぞやの輩に渡さなければいけないんですからね。事実、見合いの相手について私も時呉も結構口出ししてましたしね。』


その中でも、菅原幸久殿は、器量良し、性格も良し、あぁ、ちょっと武芸についてはさんに及ばなかったようですが、逸材だったんですよ。と言うものだから、はおおきくため息をつくしか無かった。


「つまり、私は兄上と佐為がお膳立てしてくれた見合いを見事ぶち壊した訳ね。」
『・・・まぁ、そうなりますね。』


ぱらり、と佐為は棋符集をめくった。


『今世、さんにお似合いの相手を見つけてあげれないのが残念です。』
「・・・自分で見つけるわよ。」


余計なお世話だ、とは再び小説に視線を落とした。