は予想していなかった彼の告白に息を止めた。
何と、言って良いかわからない。考える時間が欲しい。
「・・・返事は、待ちます。」
そう言って、アキラは立ち上がった。
「僕も、その、こういう事を言うのは初めてなので、他に何を言って良いのか分からないんですが」
はようやく息を吐き出した。
「好きです、さん。」
ストレートすぎる言葉に、は目を瞑った。
時を越えて #24
暫くベンチから立ち上がる事が出来なかった。
知らなかったが、ここまで予想外のことが起こると、人間フリーズしてしまうらしい。
『さん、・・・さん!』
声をかけられて、は、と目を瞬かせる。
いつの間にかアキラは居らず目の前には佐為が立っていた。
「佐為・・・」
『中々帰ってこないものですから、心配しましたよ。』
そう言いながらも、彼女の状態から、何が起こったのかは容易く予想できて、ふわりと笑みを浮かべる。
『気が動転してるんでしょう。大丈夫ですか?』
「・・・・大丈夫じゃない・・・。佐為は知ってたの?」
佐為は困ったように微笑んだ。
『さんは、自分のこととなると鈍感ですからね。少し前から気づいていましたよ。』
そう、と小さく相槌を打ってすっかり冷たくなってしまったコーヒーを口に運ぶ。
『難しく考えずに、もう少し肩の力を抜いて、お返事は考えたら良いと思いますよ。』
さぁ、帰りましょう、と促す佐為に、はぐい、とコーヒーを飲み干していつぞやの様に缶をゴミ箱に放り投げた。
とがめる声が横からするかと思えば、彼は何も言わなかった。
付き合うとか付き合わないとか、今の自分にはまだ不要だと思っていたのだから、今回の出来事は正に青天の霹靂だった。
(・・・・恋か・・・)
学校に行けばちょくちょく出てくるその単語。
まさか、自分がそういう事で悩まされる日が来るとは思わなかった。
「・・・・そうだね、ちょっと、考えてみる。」
自分に言い聞かせるように呟かれたその言葉に、佐為は笑顔で頷いた。
翌日、授業を受けていても上の空で、珍しい、と彼女の友人はを盗み見た。
出会った時からどこか大人びていた彼女は他の友人達の面倒を見たり、時には自分と一緒になって、友人を諌めたり。しっかりしているという一言に尽きる。
「、授業終わったわよ。」
声をかけると、彼女は弾かれたように自分を見上げた。
「呆れた。アンタが上の空だなんて、珍しいね。どうかした?」
首をかしげて聞いてみると、彼女は言いづらそうに口を噤んだ。
自慢ではないが、自分の勘は余り外れない。珍しく彼女は色恋で悩んでいる、と直感が告げる。
「ふぅん、ようやくにも遅い春が来たって所かしら。そういえば、金曜日、あの塔矢アキラと一緒に居たって噂もあるし。」
「・・・・相変わらず鋭いね。」
苦笑してはノートと教科書を片付けた。
時計を見ると、次の授業まであと数分。
(たまにはサボるのも良いわよね)
今まで勤勉に励んでいる。素行には全く問題なし。
一回くらいサボったって罰は当たらないだろう。
「屋上に行くわよ。」
ぐい、との手を引っ張ると、は目を見開いた。
「たまには良いでしょ。ほら、早く。」
「あ、あぁ、うん。」
「が体調悪いから、保健室に連れていくって言っといて。」
の隣に座っていた生徒にそう言うと、二人は教室を出て行ってしまった。
「あっちゃんは、相変わらず強引だね。」
「アンタはちょっと強引に聞かないと誰にも相談しないでしょ。」
今日は晴天。
さぞかし屋上は気持ち良いだろう。
仮にも進学校。サボっている生徒は屋上には一人もいなかった。
「さぁ、吐け。今すぐ。」
乱暴な言葉遣いには苦笑する。
本当に、彼女は勘が良い。
「・・・実は、告白されて、返事をどうしようかと、考えてるのよね。」
「珍しい。告白されてその返事を迷うだなんて、初めてじゃない?」
こくり、と頷く。
「迷うってことは、少しはその人、に近い人なんでしょうね。アンタにとってどういう存在なのよ。」
彼女の言葉はいつも直球だ。
そして、考えさせられる言葉が多い。
「どういう存在って・・・」
上手く言葉に出来なくて、口を噤む。
"あっちゃん"は、その様子を黙って見ているだけだ。
「・・・・・・最初は、私の友人が、夢、を実現する手助けをしてくれる人だった。」
アキラとの出会いは、佐為に碁を打たせるところから始まった。
「彼は、その友人のライバルみたいな存在で、私が橋渡しをしていたの。ていうか、私はその橋渡しをするだけの存在に徹するはずだったのに。」
先週末の事が頭を過ぎる。
「・・・今は、私の事情も全部知って、真剣に心配して、助けになろうと、してくれている存在、なのかな・・・。」
歯切れが悪いながらも、ようやく出てきた言葉は、すんなりと自身の中に落ち着いた。
「って、自分のこと話さないじゃない。必要以上に人を中に入れないっていうか、何ていうか。そんなアンタが、そこまで自分のことを話している人なんだったら、その人を憎からず思ってる筈。」
彼女は少しさびしそうに笑った。
「助けようとする、ってさ。相手が全然助けを求めてなければ、出来ないものよ。」
言われてみると、そうかもしれない。
アキラには、別に言わなくて良い情報もぽろりと零していたし、佐為に碁だけ打たせるのであれば、彼と実際に会わなくても、ネットで打てば良かったのだ。
まぁ、佐為が実際に話したいだろうと思いを汲んだのもあるが、連絡も直接佐為が携帯を使ってメールすることも可能だったのに、必ずワンクッションが間に入っていた。
「・・・・あっちゃん、ありがとう。」
まさか、こんなに早く考えが纏まるとは思わなかった。
「あーあ、これでも彼氏持ちねぇ・・・唯でさえ最近付き合い悪いのに。」
「あー、言われてみると。・・・ごめん。」
いいのいいの、と返すと、彼女はに背を向けた。
「喉渇いちゃった。売店行こ。」
「奢るよ。お礼とお詫びに。」
「じゃぁあと1人分必要だね。あの子も心配してたわよ、アンタのこと。」
の交友関係は広くない。
この性格からか、いつまでも一緒にいてくれたのは、彼女を含めた2人だけだった。
「ちゃんが全然カラオケ行ってくれなーい!って騒いでたし。」
「・・・・今度久しぶりに行こうかな。」
そう言って笑うと、彼女も笑って返した。
友達
2013.4.21 執筆