「こんな所にいたのか、」
声をかけられて、のんびりと木陰で昼寝をしていたは薄く目を開けた。
そこには呆れたように自分を見下ろす兄の姿。
「・・・兄上こそ、こんなところに、どうしたの?」
時呉はそのままの横に腰を下ろす。
「まぁ、お前と同じようなもんだな。逃げてきた。」
「へぇ、珍しい。」
「俺だってたまにはサボる。」
お前の専売特許じゃねぇ。といいながら、くしゃりとの頭を少し乱暴に撫でる。
「今日は良い天気だから、屋敷にこもるのは身体に悪いよ。」
「おお、さぼり魔が、一丁前のこと言うじゃねぇか。」
頭を撫でる手はそのままだ。
「まぁ、お前はそれでいい。そのままでいろ。」
その言葉には眉を寄せた。
「・・・兄上、変なものでも食べた?拾い食いは駄目だってアレほど・・・いた!」
直後、時呉の拳骨がの頭に落ち、壮絶な兄妹喧嘩が始まったのは言うまでもない。
時を越えて #23
久しぶりに、穏やかな夢を見た。
目覚めはすっきりとしている。
『あ、さん、おはようございます。』
それを佐為は見て取ったのか、の顔を見るなり、にこにこと笑顔を浮かべた。
『憑き物が取れたような、とは、正にこのことですね。』
少し照れたように頬を掻く。
実際、こんなに寝起きが気持ちいいのはいつぶりだろうか。
「さて、と。学校行かなきゃ。」
今日は月曜日だ。
土日の内容が内容だっただけに、月曜はきついかと思えば、そんなことは無い。
足取り軽く、学校へと向かった。
「ん?」
震える携帯に、ポケットに手を伸ばす。
「アキラさんからだ。」
佐為は覗き込んでは不味いだろうか、と視線をそらした。
「・・・・え?」
『ど、どうしたんですか?』
メールを見たは驚きの声をあげるのに、とうとう我慢できなくなって、佐為は携帯を覗き込んだ。
そこには、彼には珍しく、1文のみ。
”放課後、校門に迎えに行きます”
「なんだろ。碁についてかな。」
『さぁ、この文のみでは何とも・・・』
とは言いつつも、ホテルで、が眠った後、近いうちに彼女に気持ちを打ち明けると告げたアキラの姿が蘇る。
まさか、こんなに早く行動に移すとは思わなかった。
(少し、様子を見て、もし碁の話じゃなかったら、私は先に家に帰ってましょうかねぇ)
佐為は少し楽しそうに扇子で口元を隠した。
放課後、は手早く荷物を纏めると、外に出た。
それにしても、彼は終わる時間が分かるのだろうか、と思ったがすぐに彼が数年前までここに通っていたことを思い出す。
「・・・・本当にいた。」
彼は、ここでは有名人だ。
目立たない筈は無い。
遠巻きにこそこそとアキラを見る人はいても、さすがに近寄りがたい空気からか、話しかけている人はいない。
ここで、自分が声をかけると確実に目立つ。
(さん、行かなくて良いんですか?)
(あぁ、うん・・・分かってるんだけどね・・・)
何で前もって気づかなかったのだろうか。
気づいていれば他の場所を指定したのに、と悔やんでいると、こちらに気づいたアキラが軽く笑顔とともに手を上げるので、完全に逃げ場は無くなった。
途端に自分に向けられる視線に、ため息をついた。
「本当にいるなんて思わなかった。」
「あぁ・・・流石に目立ちますね。」
苦笑しながらアキラは歩き出したので、その後を付いて行く。
「えぇっと、今佐為さんはいますか?」
「うん。左側にいる。」
佐為はアキラの表情にぴんと来た。自分の勘は外れていなかったようだ。
『さん、私は急用を思い出したので、これで失礼しますね。』
「え?」
びっくりして思わず声を上げると、アキラも驚いたようにを見た。
『あぁ、急がなければ!』
佐為はちらりとアキラに頑張れ、と視線を送る。勿論彼にはもう佐為は見えていないのだが、アキラと目があったような気がした。
「あ、ちょっと、佐為・・・」
そそくさと離れていく佐為に、は眉を寄せた。
何だと言うのだろうか。
「佐為さんがどうかしましたか?」
「・・・・なんか、急用がどうのこうのって行っちゃった。どうしたんだろ。」
あぁ、気を使ってくれたのだとアキラは心の中で佐為に感謝した。
姿は見えないとはいえ、告白する場に他の人が居るというのは落ち着かない。
程なくして、近くの公園に着くと、アキラは中に入っていくので、も入った。
「それで、どうかしたの?」
彼から呼び出されるとすれば碁の相談くらいしか思いつかない。
それも、佐為がいなければ意味が無いと思うのだが、という思いが表情に出ているのか、アキラは苦笑した。
「あ、そこに座ってて下さい。すぐ戻ります。」
指されたベンチに、首をかしげながら腰掛ける。
本当に程なくして戻ってきたアキラの手には缶コーヒーが二つ。
「はい、微糖がお好きでしたよね。」
「あ、あぁ、うん。ありがとう。」
受け取ったそれは冷たい。
少し汗ばむ今日の温度では丁度良く感じる。
「・・・・・実は、今日はさんに話しがあって、呼び出したんです。」
プルタブを開けると軽快な音が二つ公園に響く。
「えぇ、私?何だろう・・・」
こくりと一口飲んで、目で先を促す。
自分の思い違いで無ければ彼は少し緊張しているように見える。
今更、何を緊張しているのだろうかと、不思議に思うばかりだ。
「・・・・・さんは、いつも一人で抱えて、周りに何も相談しないで・・・」
は目を瞬かせた。
話しというのは、この前の説教の続きだったのか、と。
(まぁ、心配かけちゃったしな・・・)
渋い顔をしながらもう一口コーヒーを飲んだ。
「正直、もっと頼って欲しいんです。」
「え、十分頼ってると思う、けど・・」
佐為と強い棋士を対局させるため、アキラは力を貸してくれている。
それに、この前の鎌倉の時も随分とお世話になったものだ。
「違うんです。さんのは頼ってるとは、言わない。」
アキラは頭を振った。
「・・・・僕は、もっとさんに些細なことでも相談して欲しい。」
「・・・・・」
何と言っていいかわからない。
正にはそんな表情をした。
「単刀直入に言いますね。」
アキラが息を吸い込む音がした。
「僕と、付き合って貰えませんか。」
は目を見開いた。
告白