塔矢宅に戻ると、門の前で困った様に立ち尽くす男性が2人(言うまでも無く、アキラさんと進藤ヒカル)。
興奮した様子の進藤ヒカルは私が戻って来るのを見つけると、走って来てがっしりと肩を掴んで前後に揺らして「おい、お前、佐為って言ったよな!」と問いつめて来た。
それを、アキラさんが「落ち着け、進藤!」と引き離してくれて、それを見て佐為はくすくすと笑っていた。
さっきまであんなにじめじめ腐ってたくせに、本当に調子の良い奴だと思う。まぁ、良いんだけどね。
総括すると、進藤ヒカルは予想外に失礼な人物だったけれど、どうやら自分で実感したことは信じるタイプのようで、実は佐為に憑かれてるんです。と話したら彼は呆気なく信用した様だった。
そして、取りあえずこんなとこで立ち話も何なので、再び部屋に戻って、此処最近恒例になって来ているご対面。
ていうか、最初から佐為を見せておけば良かったんじゃないのかって思うんだけど、・・・まぁ、良いか。
「佐為・・・本当に、お前・・・!」
『ヒカルーーー!!』
感涙する佐為に、純粋に驚いている進藤ヒカルを目の前にこの部屋から出た方が良いんじゃないかと思うものの、悲しいかな、佐為は私の一部に触れていないと実体化することが出来無い。
「お前、いなくなるなら、いなくなるって言えよな!俺がどんだけ・・・!」
照れ隠しなのか、そんなことを口走る進藤ヒカルに私とアキラさんは苦笑して顔を見合わせた。
時を超えて #16
どうして碁をする人はこんなに小難しい話しを長時間続けていられるのだろう、というくらい長い話しを聞き流しながら、は何時も通り小説に目を通していた。
「・・・そういえば、行洋先生は佐為のこと・・・」
「あぁ、この前会って、たまに打ってるぞ。」
ふと、思い立ったのだろう。ヒカルが疑問を口にすると、石を打ちながらアキラが何でも無いように答えた。
「はぁ?」
そうして、ヒカルは佐為を見たあと、恨めしそうにを見る。
「何か?」
視線を感じたは本を閉じて、ヒカルに目を向けた。
「普通逆じゃねぇ?っていうか、最初が塔矢だったのも気に食わねぇ!何で俺が最後なんだよ!!」
『まぁまぁ、ヒカル。落ち着いて・・・。』
呆れた奴だとは溜め息をついて首を横に振った。
どうやらとヒカルは余り相性が良く無いらしい。
「いいじゃない。最終的にこうして会えてるんだから。」
「そういう問題じゃねぇ。何で生前(?)繋がりの濃かった俺が最初じゃ無くて、塔矢が先に会ってるんだよー!しかもその次が行洋先生で最後が俺だろ?」
「・・・・餓鬼か」
ぼそっと呟いた言葉はしっかりと耳に届いていたようで、ヒカルは憤慨したように目を釣り上げた。
『さん!確かにヒカルは相変わらず子供っぽいところもありますけど、前に比べれば随分大人になったんですからね!』
「はいはい。」
佐為のフォローに、ヒカルはフォローになっていないとぶつぶつ文句を言って石を置いた。
それに、佐為は困った様におろおろと右往左往しながらも、堪えきれなくなった様に笑みを零す。
『・・・さん。』
傍に寄って来た佐為に、は本から視線を上げる。
『本当に、ありがとうございます。』
は言われた言葉が一瞬理解出来ずにぱちぱちと目を瞬かせた後、笑って頷いた。
「・・・うん。」
前々から予想していたことだったが、その日はとっぷりと日が暮れるまで話しは止まることが無かった。
2冊目の本が中盤に差し掛かった頃、音を立てた携帯には断って出る。
ディスプレイに出ているのは兄の名前で、もうそんな時間かとようやく時計を確認した。
『おい、こんな時間まで何やってんだよ。』
「あぁ、うん。ごめん。」
『また塔矢のとこか?ちょっとかわれ。』
此処最近ちょくちょく塔矢宅に出入りしていることをしっている鉄男は、文句でも言いそうな勢いでそう言うものだからは溜め息をついた。
「もー、あと30分で帰るから。じゃ。」
そう言って問答無用に電話を切ると、3人の視線がこちらに向いていることに気づいた。
『加賀からですか?』
「うん。」
頷くと、その名字に聞き覚えがある、とヒカルは首を傾げた。
『あぁ、ヒカル。彼ですよ。将棋部の。』
そういえば、言っていなかった。と、佐為が言うと、ヒカルは間を置いて、大きく頷いた。
「あぁ!加賀かー!!・・・ん?でも、何で・・・」
『のお兄さんだったんですよ!』
一瞬、ヒカルは時が止まったように動きを止めた後、勢い良く息を吸い込んだ。
「ええぇぇーー!!!!」
その声の大きさに、迷惑そうなとアキラの視線が突き刺さる。
しかし、そんなことはおかまい無しに、ヒカルは言葉を続けた。
「マジかよ!案外世間って狭ぇんだな!!そっか、加賀かぁー!」
1人、妙にうんうんと頷くヒカルに、最早何も言う気も無く、は荷物を纏め始めた。
此処最近、ちょくちょく塔矢宅で夕食をご馳走になって遅くなる事が多い。
残念だが、今日はさっさと帰るが吉だ。
「そういうことだから、私そろそろ帰るね。佐為に何か用があれば、私まで・・・あ、アキラさん、私の連絡先、彼に教えて貰って良い?」
「はい。」
アキラが了承するのを見届けて、は荷物を手に立ち上がった。
「じゃ、また今度。」
「あ、送りますよ。もう暗いですし。」
その申し出に、ヒカルもいるしと最初断ったものの、ヒカルも一緒に帰るというので(しかも、なんとヒカルの家は同じ方面だと言うし)、結局送ってもらう事に。
メンツがメンツだけに、さっきの部屋での会話と変わらず、囲碁の話しばかりで、話しについていけない、と空を見上げた。
(そろそろ、囲碁の勉強ちゃんとした方が良いのかなぁ・・・やる気しないけど。)
その心の中での呟きが聞こえたのか、佐為が隣でぼそぼそと呟く。
『これだけ打ってて、覚えないというのも中々の才能だと思いますが・・・』
「佐為、聞こえてるから。」
憤慨した様に言うと、目の前を歩いている2人がちらりと振り返った。
「・・・お前、それ止めた方がいいんじゃねぇ?完璧変な奴だぜ。」
その片割れがからかうような表情で言って来るものだから、ははいはいと軽くあしらう。
やっぱり彼との相性は余り良くは無いらしい。
「進藤・・・。」
窘めるような、呆れたようなアキラがヒカルを呼ぶ声も今日何回聞いたか分からない。
『さん、ヒカルもまだ子供ですから・・・。』
そして佐為の宥める声も然り。
邂逅