行洋との一戦以来、週に1回、多い時は2回塔矢宅での対局が続いた。
幸運にもアキラの地方対局が無かったお陰で定期的に佐為の望む相手との対局が実現出来ていることに満足はしているが、まだ目標はある。


(進藤ヒカル・・・)


アキラとヒカルは親しいのだから、ヒカルと再会するつてはあるのに、再会が実現出来そうになった途端、ぱったりとヒカルの話しをしなくなった佐為。
まさか、佐為がヒカルと会いたく無いなんて思っているとは思わない。


(・・・近い位置に居過ぎたからこそ、今更どういう顔して会えば良いか分からないってところかな)


横では相変わらず3人が碁盤を囲んで良く分からない言葉を交わしている。
は佐為の楽しそうな横顔をちらりと見て、また本に視線を落とした。

最近は慣れて来たのか、佐為を実体化させていても余り疲れる事が無い。
まぁ、相変わらずの一部に触れていなければならないのだが。


(佐為が散歩に行ってる時にでも、アキラさんに相談してみよう)















時を超えて #14












例によって夕食に誘われてたので、はちらりと佐為を見た。
いつも部屋の本棚に並べられていた棋譜に後ろ髪を引かれながら部屋を後にしていた佐為だが、持ち主の2人(アキラと行洋)に佐為の存在がバレている今遠慮することはない。
がぺらぺらと触った棋譜を喜々として読みふけっている佐為を残して3人は居間へと向かった。


「最近、ちゃんが一緒にご飯を食べてくれるから華やかで良いわ。」


そう言いながら用意される料理は美味しそうに湯気が立っている。


「いっそのこと、アキラさんのお嫁さんにならないかしら。」


お茶を飲んでいた三人は一様に咽せ込んだ。
1人、明子だけがあら、と頬に手を当てる。


「か、母さん!急に何てことを!」


いち早く立ち直ったアキラが顔を赤くして叫ぶ様に言う。
その傍でと行洋は、げほげほと言いながら己の胸をとんとんと叩いた。


「だってアキラさん、家に連れて来た女の子はちゃんが初めてだし、行洋さんとも気が合うみたいだし、これ以上の逸材って居ないんじゃないかしら。ねぇ、行洋さん。」


話しを振られた行洋はようやく立ち直って、佇まいを直した。


「・・・私達が口出しすることでは無いよ。」
「そう?」


明子は口を尖らせて配膳を済ませてしまうが、揃った食事にいただきますと食事を始める。


「まぁ、母さんの話しは置いておいて・・・」


出し巻き卵を口に運んだ所に、アキラがに向かって口を開いた。


「今度進藤を呼ぼうかと思っているんだ。」


その名前にはどきりとした。
ちょうど彼についてあれこれ考えていたところに、この話題。
タイミングが良過ぎる。


「あぁ、そういえば最近いらしてないわね。進藤君。」
「進藤は遠征続きでしたから・・・。」


そうしてアキラと行洋から何気なく視線を送られて、はごくりと口の中のものを飲み込んだ。


「どうでしょうか。」


尋ねられた言葉に、は考える前に頷いた。


「是非。」


少し身を乗り出してしまったが仕方が無いだろう。丁度アキラに相談しようと思っていたところなのだから。























ヒカルと引き合わせるのは2週間後。
それについて、は何となく佐為に言い出せずに居た。


ー、あっついー!」


項垂れる少女には同調する様に頷いた。


「けど、私に言ってもどうにもならないと思うんだけど。」
「なるよ!頭良いがさぁ、『先生、暑くて全く勉強が出来なくて、次の模試、失敗しちゃいそうです』って言えば、きっとクーラーつけてくれるよ!」


は彼女を呆れた様に見た。


「暑くて頭やられちゃった?」


すると、案の定、彼女は口を尖らせる。
つくづく思うが、自分の周りにはこういう可愛らしい人が集まる様だ。


「なんではそんなに涼しそうなのよー!」


問われては首を傾げた。
言われてみれば確かに言う程暑くは感じない。
今に始まった事ではないのだが。


「うらやましぃー。」
「いや、一応暑いには暑いんだけど・・・。」


そうは言っても、じっとりと恨めしそうな目で見られるだけなので口を噤んだ。
これ以上は言っても無駄だ。


「その代わり、は寒いの苦手じゃない。」
「あー!たしかに!」


嬉しそうに言う彼女を尻目に、隣に立っているもう一人のクラスメートを見上げた。


「良くご存知で。」


確かに寒いのは嫌いだ。


「そりゃ、アンタが冬はよーく遅刻するもんだから、分かるに決まってるじゃない。」
「そうそう!学校だけじゃなくて、遊びに行くときも!」


痛い所をつかれた、とは苦笑した。
寒いとどうも起きるのが億劫で、待ち合わせが朝早い時間だとどうしても遅れてしまうのだ。
それで怒られたのは片手では足りない。


「まぁまぁ、そこら辺にして。お昼食べに行こうよ。」


これは分が悪い。は仕切り直すようにそう言って立ち上がる。
2人もそのつもりでの所にやって来たのだろう。特に異論は無いようで、3人は連れ立って教室を後にした。


「あ、そういえば、あの人どうなったの。佐伯くん!」


言われて、ははてと首を傾げた。
が、すぐに、あぁ、と合点する。


「縁が無かったかな。」
「あ、そうなの。最近付き合い悪いからてっきり付き合ったんだと思ってた。」


はそれに苦笑いした。


「ってことはぁ、さては別の良いひと見つけちゃったの!?」
「んー、残念ながらそういう浮いた話しは無いんだよねぇー。」
「なんだぁ。」


途端、落胆を隠さずに呟くのを尻目に、は的が外れたような表情をしているもう一人の友人を見た。


「なに?」
「あぁ・・アタシもに彼氏でも出来たんだと思ってたから・・・あんまり外れないんだけどね、アタシの勘って。」
「それって外れてないんじゃない?ほら、ってそういう方面鈍いからさぁ、気づいてないだけかも!」


嬉しそうに失礼なことをいう彼女には溜め息をついた。
いつの時代も女性というのはコイバナがお好きな様だ。











恋のお話