Dreaming

ステイ・ウィズ・ミィ #6

金木から紹介されたのは西尾という男だった。
少し前から”あんていく”で働く姿を見かけた事はあったが話すのは初めてだ。


「どうも、です。」


引き合わせられて簡単な紹介を金木がする間ずっと気怠げな表情を崩さない西尾に、は笑って手を差し出した。


「あぁ・・・案内はしてやるが、面倒ごとは起こすなよ。」
「だって、アポロ。」
「おう、任せろ。」


西尾は己よりもだいぶ低い位置にあるアポロの顔を嫌そうに見下ろした。


「おい、もしかしてこのガキも連れてくつもりか?」
「あー、いや、連れてくっていうかなんていうか・・・授業は一緒に聞くけど、人には見えない所にちゃんと居させるから大丈夫。」


の言う意味が一体どういうことなのかよく分からず西尾は眉を寄せて2人を見比べる。


「に、西尾さん、ちゃんの言う通り、ほかの人には見えないように連れて行けるんで・・・」


具体的にどうやるかまでは言えない為、歯切れは悪いものの金木もフォローすると、深くは追求する気はないのか西尾は眉を寄せて見せたがため息をついて頷いた。


「まぁ良い。来週の火曜、12:50に南門前な。遅れたら放って行くぞ。」
「分かった。あ、念のため連絡先教えてもらって良い?」


それに西尾は少し嫌そうな顔をしたがしぶしぶ携帯を出した。
案内を頼む相手に何だが、随分と無愛想で態度の悪い男だ。


「じゃぁ俺は行くからな。」


連絡先を交換し終わるとすぐさま西尾は携帯をポケットにしまいながらそう言って背を向けた。
何か気に食わない事でもあったのか、と首を傾げて金木を見上げると苦笑している彼と目が合う。


「いつもあんな感じだから。でも、悪い人じゃ無いんだ。」


そういう彼は相変わらず人の良さそうな、それでいて弱々しい表情をしている。


「金木さんはさ、本当なら普通の人生を歩んでたんだろうね。」


どこにでもいるような風貌なのに不釣り合いな真っ黒なオーラがいびつに見える。
しみじみとそのギャップを眺めながらは呟いた。


「え?」
「ってことで、修行だな!」


アポロががしりと金木の手を掴んだ途端、金木の視界がぐにゃりと歪んだ。


























真っ白な空間に金木は横たわっていた。
その身体はまさに満身創痍。その横にはアポロがしゃがみこんでけらけらと笑いながら手当をしている。


「そろそろ制限時間だな。おい、最低限動けるようにはなっただろ?後はお前の自己治癒力で1日もあれば完治だ。」


傷口を縫い終わり、アポロが立ち上がってを見た。


「じゃぁ帰ろうか。」


が手を差し出す。


ちゃんって、見た目によらず力が強いんだね。」


先ほど蹴り飛ばされた時に折れた肋骨。大きな裂傷はアポロが縫ってくれたが骨折は勝手に治せと言われてしまった。とは言え、移植手術を受ける前であれば激痛できっと動くこともできなかった傷でも今では驚異的な治癒力でどんどん治っていくし、痛みにも鈍感になってきた気がする。


「あはは、喰人もそうでしょ。」
「・・・そうだね。」


返しながらの手を取って軽々と引き上げられると同時に、この空間に来た時と同様に視界が歪んだ。
瞬くと、すっかり日の落ちた公園。

不思議な力を使う自分よりも幼い少女は自分とは違って傷一つ負っていない。


「さて、と。傷は治したけど服までは治せ無いから、早い所帰ったほうが良いよ。」


そう言いながらは自分の影に手を突っ込むと大きめのパーカーを取り出して金木に渡した。


「これ羽織れば多少は目立た無いかな。」
「ありがとう。」


こんなに小さな女の子にボロ雑巾のようにされてしまったのかと思うと、自分の力の無さをまざまざと見せつけられた気分だ。


「・・・また、お願いして良いかな。」


そういうと、は笑って頷いたところでの携帯が鳴る。


「あ、什造くんだ。」
「確か今日は早めに帰ってくるっつってたな。」


ぽつりとアポロが付け加えると、は「そうだった」と頬をかいた。


「じゃぁ金木さん、またね。」


そう言っては金木の返事を待たずに踵を返して携帯の通話ボタンを押した。


『もー何回も電話したですよ?』
「ごめんね。すぐ帰るよ。」


まるで付き合ってるみたいだな、と隣をあるくアポロが茶化すように言った。

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2016.06.13