※こちらは、完全管理人の自己満足です。H×Hのキャラは一切登場しません。名前も固定です。


シン=ラキ=セイ=テ=ヤ=ナギ。
この長い名前が私の名前。


「姉さま、おはよう。」


まだ眠そうに目をこする少女。2つ下の彼女はシン=ラキ=セイ=テ=モク=レン。
私の、妹だ。


「おはよう。顔を洗っておいで。」


はぁい、と返事をしてぱたぱたと洗面台に向かう彼女を見送る。
妹は、額の4つの葉のあざを持って生まれた、キチェスだ。
3歳の時、”楽園”に連れて行かれ、少し前に父が連れ戻してきた。こっそりと。


「・・・・お母様、お父様の調子は?」


レーンがいなくなったのを確認して、母に尋ねると、彼女は暗い顔で頭を横に振った。


「・・・そう・・・。」


私は予知夢を見ることが出来る。
父は、もうすぐこの世を去るはずだ。そして母も、その後を追うかのようにいなくなる。


(サージャリムなんて、大嫌い)












Diva 過去編 #1













私の予知夢は外れなかった。
レーンは楽園に戻り、母は父の後を追い、私は1人家に佇む。


鏡の前でそっと、前髪を上げた。
生まれた時には無かった4つの葉の痣は、母が息を引き取る時、突然私の額に現れた。

キチェスは先天的なもの。後天的にそれになるなど聞いた事が無かった。


(これを見せれば、私も、レーンと同じ楽園に行ける)


それでも、私はそうしなかった。
レーンは可愛い妹だ。それは、間違えない。
それでも、彼女は父と母を奪っていったように感じられてならなかったのだ。


(・・・・逃げなきゃ)


私は、額に包帯を巻き、父母が残したお金を手にふらふらと彷徨い始めた。
私のサーチェスは強い。戦火の中でも生き残れる程に。


「・・・・サージャリムは、何故、キチェスを遣わせたのかしら。」


ぽつり、と零した言葉。
私の目の前には戦火に焼けた土地が広がる。此処は、衛星・テス。
大母星を巡る戦火はもう10年程続いている。

神の御使いであれば、この戦争に終止符を打つために尽力するのが道理では無いのだろうか。

植物達の悲鳴が聞こえてくる。


「此処は危ないですよ。早く親元に・・・」


その時、後ろから声を掛けられた。
振り向くと修道女が数人立っていた。


「・・・・親は両方ともこの世にはいない。」


そう告げて、私は視線を元に戻した。いくつか衛星を回ったが、此処は一番酷いところだ。


「まぁ・・・!」


修道女は悲しげな声を上げて、こちらに近寄ってきたかと思うと、私を抱きしめた。


「・・・辛かったでしょう。」
「・・・辛くなんて、ない。」


今のご時勢、戦災孤児なんて珍しくない。
私の場合は、戦災孤児では無いけれども。


「ついていらっしゃい。」


修道女は私の手を引く。
これから何処に連れて行かれるのだろうか。
ただ一つ、言える事は、楽園でなければ何処でもよい、だった。




















シ=オンが孤児院に入った少し後、同じ歳くらいの少女が入ってきた。
名をヤ=ナギ、という。
シ=オンは自分以外にサーチェスの恩恵を受けた者を見たことが無かった。
彼女は彼と同様、瞬間移動も物を浮かせることも出来るらしい。


「お前も、サーチェスを使えるんだってな。」


声を掛けてきたシ=オンに、ナギは顔を上げた。


「あなたは?」
「シ=オン。」


小さく、口の中で彼の名前を呟いて、ナギは立ち上がった。


「私はヤ=ナギ。ナギと呼んで。」


彼女の白い包帯が目に付く。


「お前、怪我してるのか?」


問われて、ナギは気まずそうに包帯の上から額をさすった。


「う・・ん。ちょっと治りが遅くて。」
「・・・早く、治ると良いな。」


ナギはびっくりしたようにシ=オンを見た。
その視線にシ=オンは気まずそうに目をそらす。


「なんだよ。」
「・・・いや、ありがとう。」


そう言って微笑んだナギは、彼女の名前を呼ぶ小さな声に振り返った。
そこには子どもが3名、立っている。


「ナギねーちゃん!あそんで!」


シ=オンは自分よりも年下の彼らを目にするとすぐにその場から消えた。
ああいう、子どもは苦手らしい。自分も子どもの癖に、変なことを言うようだが。


「・・・・・」


ナギは消えたシ=オンが立っていた場所をじっと見つめた。
どうやら彼もサーチェスが使えるらしい。


「ナギねーちゃん?」
「あ、うん。外に行こうか。」


小さい子どもの相手は自分の妹のことで慣れている。
予知夢を見続けていたせいか、ナギは同い年の子どもよりも少し大人びて見えた。


外に出ると、青空が広がっている。
鬼ごっこをはじめた子ども達を眺めながら、ナギは木の近くに腰を下ろした。


『ナギ、うたを、うたって。』
「・・・歌なんて、知らないよ」


そう言うと、植物は悲しそうな声をあげる。
それ以前に歌うなんて出来るはずがなかった。キチェスの歌は植物を異常繁殖させる。
自分の存在を露呈させるような愚行をするはずがない。


「・・・・サージャリムなんて、きらい。」


仮にも、リアンがいるこの場所で神を冒涜するのも如何なものかと思ったが、知らず知らずのうちに呟いてしまうのだから仕方が無い。


「おれも・・そう思う。」


誰も拾うはずがなかった呟きに返ってきた同意。
ナギは驚いて声の主を探した。


「シ=オン・・・」
「サージャリムなんて幻想だ。いるはずが、ない。」


彼は戦災孤児。そう思うのも無理が無い気がした。


「・・・・・何故、神は何でキチェスを遣わしたと思う?」
「・・・さぁ。」


ナギは自嘲するようにわらった。


「私も、分からない。どうせ遣わせるなら、戦争を止めさせるために遣わせてくれれば良いのにね。」
「・・・・」


シ=オンは何と答えて良いのか分からなかった。
確かにそうだと思う。キチェスはその痣があるだけで、様々な恩恵を受けられる。
何のためにキチェスが存在するのか、等と考えたことが無かった。


彼女を最初見た時、自分に似ていると思った。
両親を亡くし、サーチェスを持つ、少女。

彼女に興味を持つのはすぐだった。








似ている少女



2013.5.6 執筆

決して紫苑が抱いているのは恋ではありません。仲間意識のようなものです。