は最早隠す必要は無いと言わんばかりに手早く本を選んで行く。
「本の材質が植物だから選び易いのか。こいつらも言葉を話すのか?」
その後ろをついて回るクロロはが選んだ本を受け取りながら尋ねた。
はその言葉に、思わずきょろきょろと周りを見回した。
「何だ?」
「どこで誰が聞いているのか分からないんだから、もっと声を小さく・・。」
どうやら店内には2人しか居ない様だった。ここの店主も1階にいるだけで声は届かない。
「あぁ、悪かったな。それでどうなんだ?」
全く悪びれずに軽く流す彼には眉を寄せたがすぐに彼に背を向けて本を手に取る。
「声は聞こえない。でも、どういうものを見て来たのか、どういう歴史を経て来たのかは何となく分かる。」
「おもしろいな。」
「これ、クロロさん好きそうだよ。」
彼の更なる追求を遮るように、本を手渡した。
Diva #6
クロロが運転する車の中、早速本を読み出したにクロロは舌打ちした。
どこまでも自由な女だ。
と思っていたら、ぱたりと本を閉じて今度は目を瞑ったにおや、と眉を動かす。
心無しか、少し顔色が悪い様にも見える。
「・・・どうした。」
もしかして、と思いながら、笑いを堪えながら尋ねた。
「・・・酔った。」
それに押さえきれずに小さく笑うと、恨めしそうな未夜と目が合った。
「俺が運転している横で悠々と本を読むからだ。」
鼻で笑いながら、クロロはコーヒーを口に運んだ。
はそんなクロロを恨めしそうに見るが、すぐに目を閉じた。
「明日には帰るが、他に見て回る場所は無いな。」
尋ねるようで断定している言葉には頷いた。
「でも、私は戻らない。少し、大人しくしていないと。」
「何故だ?」
「見つかると色んな人に利用されるから、隠れていなきゃいけない。」
それは至極全うな意見だった。
彼女の能力は希少価値がある。欲しがる人間は少なくは無いだろう。
「だから、クロロさんには申し訳ないけど、本を店長の所に届けて欲しいんだけど・・・。」
だが、其れ以外に何かを恐れている様な彼女の様子にクロロは違和感を覚えた。
「あ、でも嫌だったら郵送でも良いけど。」
「郵送にしろ。」
もう少し、こいつに付き合ってみるのも面白そうだ、とクロロはを見た。
翌朝、クロロは近くのコーヒーショップに立ち寄っていた。
桜並木に面したコーヒーショップは朝早い時間だというのに人が多く、誰もがガラス張りの壁から見える桜を眺めているようだった。
(・・妙な奴が多いな。)
自分も視線で外を眺めながら、数名の念能力者が桜を調べているのに目を止めた。
あの怪奇現象に興味を持ったのかどうなのか。
「ラテとブレンド、お待たせしました。」
「あぁ。」
コーヒーが二つ入った紙袋を手渡され、コーヒーショップを出る。
紙袋にここに来る前買ったサンドウィッチを入れながら、男たちの会話に耳を澄ませた。
「どうだ、何か分かったか?」
「いや、何の痕跡も無い。」
男は桜の木を見上げた。
「もうここには居ないかもしれないな。」
クロロはそのまま道を横切ってホテルへと向かった。
新聞と朝食と、小さな観葉植物を持って部屋に入ると、は既に起きていて、テレビを見ている様だった。
そこにはレポーターが昨日と同様、興奮した様子であの桜並木をレポートしている。
「食べるか?」
声をかけると、彼女はやはり元気の無い顔で振り向いた。
そして、彼女は目を見開く。
その視線が己の額に向いていて、クロロは額にある痣を撫でた。
そういえば、彼女の前で額を晒したのは初めてかもしれない。
前髪は下ろしているのではっきりとは見えないだろうが、彼女の驚きように違和感を覚えた。
「この痣がどうかしたか?」
「それ・・・いつから・・」
問われて、クロロは昔の記憶を引っ張り出した。
良く覚えていない、というのが正直な所だ。
気づいたら出来ていた。
「10代の頃だったか・・・よく覚えていないな。知っているのか?」
一応自分の身に起きた事だ。
一時期は気になって調べてみたものの、有益な情報もなく、そのまま放置していた。
「もう、ほんとに、何なの・・・」
はぁ、とは突っ伏す。
しかし、混乱していても彼は矢張りおかまい無しだ。
「おい、何なんだ。」
の向かいのソファに腰掛けて荷物をテーブルに置いた。
その荷物を視界に入れながら、はゆっくりと顔を上げた。
視線の先にはクロロの興味をそそられている目がある。
「・・・私の一族は、額に痣が出来るの。」
そう言いながらはべり、と己の念で額に貼付けていた人工皮膚をはぎ取った。
そこに出て来たのは菱形をかたどるようにできている4つの点。
「形は人それぞれ。生き残りは私だけだと思ってたけど、違うみたいだね。」
嘘と本当を混ぜながら取りあえずこの場を切り抜ける為に情報を渡すが、頭の中はパニックだった。
完全にキャパシティオーバーだ。
「俺には植物の声は聞こえないが?」
思いがけずこの不可解な痣の正体が分かりはしたが、別段特別な感情を抱くことは無かった。
クロロは痣を撫でながら尋ねる。
「植物の声が聞こえるのは、この印を持つ人たちだけ。クロロさんみたいな印を持つ人は、その代わり強いオーラを持ってる。」
これは本当。自信を持って言える。
の様子から、その真偽の程を判断していたクロロは呆れた様にを見た。
「・・・お前は・・・さっさと観念して全て真実を話せば良いだろうに。」
クロロは嘆息して、袋の中から小さな観葉植物を取り出した。
それに、は首を傾げる。
「歌で植物を成長させることが出来ると言ったな。」
こくん、と頷く。
しかし、可愛い観葉植物だ。癒される。
「歌え。」
自然と緩んでいた頬がぴきりと固まった。
失態
2012/5/7 執筆