4月5日
夢を見た。狼に歌を聞かせる夢。
あの狼は人の言葉を喋っていたけれど、この星ではそんな動物が沢山いるのかしら。
でも、彼と出会って、私はようやく、自分の価値を見出せそうな気がする。
早く会えないかしら。
4月10日
村の外を出歩いてたら、花畑を見つけた。とても綺麗。
この季節は一番すき。みんな、生き生きしている。
4月13日
今日は満月。あの狼に会えるかと思って、夜、村の外を出歩いてたら本当にいた。
あんまり話せなかったけど、私の夢は間違ってなかった。
酷く傷ついてた。何があったんだろう。
傷を癒せる力があれば良いのに。私は、相変わらず願うだけで、この手で何も助けられない。
4月30日
森の奥で修行している人を見つけた。
不思議な力を使う人。ネンというものらしい。
あんな力を持つ人がいるだなんて、この星はどういう星なんだろう。
最長老に、この星の人が住む村を訪れてみたいと言ってみたけど、聞いてもらえるかしら。
5月12日
今日は満月。また、あの狼に会いに行った。
彼は相変わらず傷だらけだったけど、歌を歌うと、少し楽みたい。
何だか嬉しい。
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○月×日
私は、キチェスとしてしてはならないことをしてしまった。
でも、額のキチェは無くなってない。
何故?
村を抜けるつもりだったのに。
○月×日
村に数名の男達が押し入った。
狼達のお陰で何とかなったけれど、身を隠す方法を考えなければ。
○月×日
最長老に話した。狼人間の事を。
私達だけでここで生活するには無理がある。
彼らの力が必要だわ。
○月×日
キチェスの里を作る。ネンと私達の力と狼達の力を使えば、きっと大丈夫。
最長老を何とか説得しないと。
Diva #24
遅くまで日記を読んでいたからか、少しまだ眠い。
眠い目を擦りながら部屋を出ると、丁度隣の部屋からクロロさんが出てきた。
「出かけるぞ。」
「え?」
クロロさんは私に30分後には出る、とだけ言って自分の部屋に引っ込んでしまった。
良く分からないけど、とりあえず部屋に戻って支度をすると、私はヨーグルトとシルで簡単に朝食を済ませた。
「出かけるのか?」
入って来たのはノブナガさんで、私は彼の分のヨーグルトとシルを用意しようと立ち上がった。
「うん。どこに行くかは聞いてないんだけど・・。」
はい、と朝食を差し出すと彼は礼を言ってスプーンを手に取った。
そういえば、クロロさんは朝食はいらないのだろうか。
「そういや、この前、夜歌ってたろ。」
其の言葉にぎくり、と私は肩を揺らした。
「・・・・う、うん。」
彼に聞かれていたということは、クロロさんにも聞こえていたのかもしれない。
怒られなくてよかった。
「・・・その、良い歌だったぜ。」
まさか、ノブナガさんに褒められるとは思わなかったから、私は一瞬止まった。
すると、彼は少し不機嫌そうに「何か言えよ」とぼやくものだから、少し笑う。
「いや、ありがとう。」
「ウヴォーの野郎、嬢ちゃんの歌がすげぇ良いって言ってたけどよ、実際、あいつが歌の良し悪しなんて分からねぇと思ってたが・・・中々やるじゃねぇか。」
そう言って伸ばされた手に私の頭はもみくちゃにされて苦笑した。
ウヴォーさんも、前歌を聞かせた時、こうやって褒めてくれた。
「そろそろ行くぞ。」
広間に響く声に私は顔をそちらに向ける。
「おー、団長。どこに行くんだ?」
私が聞きたかったことを先に聞かれてしまったので私はクロロさんの返事を待つ。
「この国にある森だ。何か手がかりがあるかもしれんからな。」
其の言葉に、私は少し前、クロロさんがキチェスの里を探す手伝いをしてくれると言った事を思い出した。
ということは、これから向かうのは、ほぼ手付かずの森に違いない。
楽しみだ。
「へぇ、面白そうじゃねぇか。俺も行くぜ。」
ノブナガさんは、そう言ってシルを口の中にかき込むと立ち上がった。
一瞬のうちにあの量のシルはきっと口の中に入らない。飲み込んだのだろうか。
「おい、ぼさっとしてんな。行くぜ。」
ノブナガさんの口を凝視していると、その彼に頭を小突かれて、私も立ち上がった。
仮宿を出た時には晴れていたのに、森につくころにはぱらぱらと雨が降り始めていた。
幸い、木々のお陰で余り雨には濡れずにすみそうだが、足元が悪い。
「ここまで来れば確認出来るか?」
「うん。」
私は頷いて木々の声に耳を澄ました。そしてすぐに分かる。ここに、目的の物は無い、と。
首を横に振ると、クロロさんは地図を取り出した。
「近くにもう一つ同様の森がある。そこに行くか。」
そう呟いて地図を仕舞うと歩き出したクロロさんの後ろをついていく。
ノブナガさんは暇そうに辺りを見回した。
「団長、俺が行く。」
小さい声で、私の隣を歩いていたノブナガさんが囁いた。其れと同時に森が騒ぎ出す。
『にげて』
『あぶない』
「あぁ。」
クロロさんが頷くと、ノブナガさんはにやりと笑って足を止めた。
いつの間にか私はクロロさんに手を引かれていて、足を止めようにも止められない。
「まさかこうも早く見つかるとはな。」
「ノブナガさん、1人で大丈夫なの?」
クロロさんは全く振り返らない。
「・・この前の仕事が退屈だったからな。憂さ晴らしがしたいんだろう。」
何てことは無いように言う。
雨が強くなった。
私の心配は他所に、ノブナガさんは遅れること数分、私達に追いついた。
彼の身体を確認すると、傷はおろか、汚れすら見つからない。
今更ながら凄い集団の中に身を置いているものだと認識した。
「今日はこのまま仮宿に戻るか。」
クロロさんはそう言いながら車のキーを回したが、私はその言葉に首を横に振った。
「戻らないほうが、良い。」
少し前に見た夢。私の夢は、近い未来を見せることが多い。
イルミ、という青年が私を狙ってやってくるのは、そう遠く無い筈だ。
「あの夢か」
考えるようにクロロさんが瞳を伏せると、後ろの席からノブナガさんが身を乗り出した。
「何だ、夢ってよ。」
「・・・こいつは、稀に予知夢を見るんだが、それによると近々狩宿に侵入者が現れるらしい。」
じ、とノブナガさんの視線がクロロさんから私に移るのを感じたが、それはすぐにクロロさんへと向けられた。
「んなもん、返り討ちにすりゃぁいいじゃねぇかよォ。団長。」
「相手はゾルディックだ。」
間髪入れずに返された言葉に、ノブナガさんは押し黙った。
私でもゾルディックの名前は知っている。というか、彼はゾルディックだったのか。
厄介な人物に依頼をするものだ。
「・・・・パクを連れてくるべきだったな。あの男から何か聞き出せたかもしれねぇ。」
「どうだろうな。どこまで情報を渡されているか、そもそもMSC側がどれだけの情報を持っているか。だが、確かにいつがキチェスだとばれたか位は聞いておくべきだったかもな。」
私は窓を開けると草木に話しかけた。
いつ、彼らが私達を追い始めたのか、と。
明確な答えはきっと無いだろう。彼らは多くを語れない。
『森にいた』
『きのうから』
『きをつけて』
車のスピードが上がる。
「ありがとう」
私は窓を閉めて、こちらに視線をちらりと向けたクロロさんを見た。
「昨日から彼らは森にいたって。」
「・・・そうか。」
昨日から森に居た彼らは、何をしていたのだろうか。
待ち構えていた?それとも、森を調べていた?
「しっかし、便利な力だな。」
ノブナガさんの言葉に思考が打ち切られる。
雨が、車にぶつかる音が響く。雨足がさらに強くなった気がした。
「一旦、隣の国にある俺のマンションに行く。ノブナガ、お前も少し付き合え。」
「ん?あぁ、まぁ構わねぇぜ。」
エヴァとハルは大丈夫だろうか。それだけが気がかりだった。
蠢く影
2013.6.5 執筆