午後一で、昨日森に連れてこられた場所へクロロと共に向かった。
静かな場所だ。
「あの木が入り口だと思う。」
は2本の大きな木の前まで歩いていくと、そっとその木に手を当てた。
『キチェスか』
『久しいの』
2本の木が囁く。
「ここの奥に行きたい。どうしたら開けてくれるの?」
尋ねると、木が揺らめいた。
『どうしたらも何も』
『お主がキチェスであれば、自ずと開く』
その言葉通り、木はその絡み合った幹をゆっくりと開いた。
ぽっかりと開く穴。
「・・・凄いな。」
ぽつりとクロロが呟いて、の背を押した。
Diva #13
木で出来た家がいくつもあるが、どれも苔が生えていて、随分と長い年月放置されていた事が分かる。
おかえり、という言葉が幾重にも重なって木霊する。
「当時の最長老の家は何処か分かる?」
草木が嬉しそうに答える。
『あかい、しるしがある、いえ』
『おくのほうに、あるよ』
『おおきい木が、となりにあるから、すぐわかるよ、きっと』
クロロには草木の声は聞こえない。
はたから見るとの行動は面白い。
「ありがとう」
そう言って、歩みを進めるの後ろをゆっくりと歩く。
「分かったのか?」
「奥の、赤い模様のある家だって。大きい木が横にあるからすぐに分かるって言ってたから・・・・」
奥を見やると、確かに家の屋根よりも高い大きな木が鎮座しているのが分かる。
「便利なものだな。植物と話せるというのは。」
「・・・そうだね。」
でも、これが原因で村を滅ぼされたのだから、何とも言えない。
それでも、肯定の意を示したのは、植物達がかけがえの無い友達だからだ。
「入らないのか?」
目的の家の前で、は家に入ろうとはせずに、隣にたたずむ大きな木をじっと見つめていた。
「先に行ってて。」
そうしては木の前まで歩いて腰を下ろした。
クロロはこれからこの木と話すのだろうと思い、どうするか少し迷ったが、の言葉通り先に家へと入った。
『ここに人が来るのは何百年ぶりだろうか』
しわがれた声。彼は、この村が出来た時からいるのだろう。
「こんにちは。私は、。貴方はこの村が出来た時から此処に?」
『そうだ。・・・・しかし、キチェスは2人の生き残りを残して絶滅した、と風の声で聞いたが、君がその生き残りかね?』
は頷いた。
「・・・聞きたい事が、あって。貴方に。」
『知っていることであれば話そう。』
「アカシックレコードについて、知っている?」
大木は、声を止めた。
しん、と少しの間静寂が落ちるが、すぐに彼は言葉をつむぐ。
『あぁ、聞いたことはある。あれは、物ではない、知識の塊、とだけ、最長老は仰っていた。』
謎かけめいた言葉には眉を寄せた。
「つまり、実際に見たことは無いってことだよね。」
『そうなる。あれは、力のある最長老しか見ることが出来なかった。』
大した手がかりになりそうにも無い話しに、ため息を付いて立ち上がった。
「そっか。ありがとう。」
『ここには、キチェスとその守人しか出入りができないようになっている。ゆっくりして行くが良い。』
どうやら、昔のキチェス達の方が強い力を持っていたらしい。
の村はそのような仕掛けなんて無かった。と、同時に、ここに住めば良かったのにと思うが、今更思ったとしても仕方の無いことだ。
「うん。」
が家に入ると、そこには本を積み重ねているクロロの姿があった。
「・・・・どうしたの、それ。」
「この家にあるものを集めている。結構な量だ。」
家の中は埃っぽい。
も家のあちらこちらにある本棚に向かった。
内容を確認するには相当時間がかかる。
「誰か荷物持ちに連れてくれば良かったな。」
「ここは、キチェスと守人以外は入れないって、さっきの木が言ってた。」
2人で運ぶには時間がかかりそうだ。
「・・・・入り口までは来れるだろう?」
「うん。」
頷くと、クロロは携帯を取り出した。
「急に呼び出したかと思えば、こういうことかよ。」
不満気にフィンクスは呟いて、2つの大木の前に積み上げられた本を手に取った。
「でも、こんな大量の本、どこから運び出してきたの?」
シャルは森の中に大量に積み上げられた本に首を傾げた。
確かに、突然本があるのだから驚くだろう。
「話は後だ。」
本を運びに来たフィンクス・シャル・ウヴォーキンは顔を見合わせて、せっせと本を運び出した。
「・・・・本、いらないものは、此処に戻したいんだけど。」
その3人の背を見つめながらはクロロに言う。
「俺が読んだらな。」
「手伝ってくれるってこと?」
クロロはあの膨大な量を思い、ため息をつく。
面倒だとでも思っているんだろう。
「あいつらが居るうちに読み終わればな。」
そう言って、残りの本を抱え、クロロは歩き出す。
は急いでその後をついていった。
戻ると、勿論3人から説明を求められて、クロロはキチェスの里のこと、里にはと守人である自分しか入れないことを説明した。
本を読み終わったら戻すのを手伝うことを条件に。
「キチェスと守人しか入れないって、どういう仕組みだろうね。」
「それよりも、団長が守人ってどういうことだよ。はっきり言って、あいつ、使えねぇだろ。」
シャルは里について興味を持ち、フィンクスはクロロが守人という事実に納得いかないようだ。
「使えなくは、無いな。昨日の夜、お前ら気が付いたら寝ていただろう。あれはの能力だ。」
「あぁ?」
フィンクスはウヴォーキンと遊んでいるを見た。
彼女は窓の外で、花を咲かせてウヴォーキンを喜ばせている。
の能力を聞いたウヴォーキンが是非見てみたいとせがんだのだ。
「の能力は使えなくは無い。まぁ、仕事には基本出させないが。」
「まさか、団長、本気であの子の守人ってやつになる気?」
意外だ、といわんばかりのシャルの表情にクロロは苦笑した。
「前、もう一人のキチェスの守人に出会ったが、これは一種の呪いらしいからな。」
ハルは呪いとは口にしなかった。話を聞いて呪いだと言ったのは自分だが。
「呪いなら解くことも出来るだろーが。」
「いいんじゃない?あの子の力はレアだし。それに、たった2人の生き残りのうちの1人だよ。」
俺も今度何か歌って貰おう、と呟いて、もう一度シャルはを見た。
キチェスの森
2013.5.5 執筆