クロロを目の前に、はあの森から伝え聞いたことを全て伝えて良いのか迷っていた。
守人とはいっても、彼との間に信頼関係は余り成り立っていない。


「・・・・あの二人が来て、森が危険だと判断したみたいで、気がついたらあそこに。」
「あぁ、俺も前もって団員に伝えておくべきだった。悪かったな。」


まさか、そんな言葉が出てくるとは思わなかったので、はぱちぱちと目を瞬かせた。


「何だ?」
「あ、いや、クロロさんってそんな簡単に謝るような人に見えなかったから。びっくりしてる。」


クロロはむっと眉を寄せるとため息をついた。


「お前は、人を何だと思ってるんだ・・・。」








Diva #11









あの森の奥に、早く行ってみたかった。
古くに使われていたキチェスの二番目の里。
もしかしたら、自分の望むものがあるかもしれない。


しかし、彼らに気づかれずにここを離れるのは無理だ。
ましてや、もしここを移動するなんて話になってしまったら、再び訪れるのはいつになることやら。


(仮にも、守人なんだから・・って甘いかな)


クロロの真意がどうであれ、自分の守人と一緒にいる今は一番安全と言える。
守人は、対象のキチェスといる時にこそ、その力がもっとも強まる。おまけに、キサナド(聖歌)には、己の守人の力を高めるものもある。

外に、調べに出るのは、彼と共に行くのが無難だ。


そう判断したは自分を落ち着かせるように息を吐き出すと立ち上がった。
ドアを開けて、隣がクロロの部屋。
しかし、先客がいたようだ。

がクロロの部屋のドアを見ると、金髪の青年・シャルが入っていくところだった。


「あれ、もクロロに用事?」


気配には聡い彼は、出てきたに、ドアを開けかけたまま声をかけた。


「う、うん。でも大した事じゃ無いから。」


またの機会にするかとドアを閉めようとしたら、シャルは笑顔のまま「じゃぁ俺の話が終わったら声をかけるよ」と言って入っていってしまった。







「てことで、キチェスについて調べてきたよ。」


ドアが完全に閉まるのを待って、シャルはそう切り出した。
クロロは目を通していた本を静かに閉じる。


「とは言っても、あんまり多くのことは分からなかったんだけどね。」


そう苦笑しながら、近くの椅子を引き寄せて腰掛けた。


「団長ももう知ってるとは思うけど、キチェスはその額にひし形を象るような4つの点が集まったマークを持つ。その能力は歌で植物を成長させたり、幻覚を見せたり、傷を癒したり出来るらしい。」


ぱらぱらと持っていた、プリントアウトした紙をめくりながらシャルは続ける。


「人と交流を持って、医者のような仕事をしていたみたいだけど、書籍上は200年前に滅んだとされてるみたいだね。でも、実際は人との交流を絶って、森の奥でひっそりと暮らしてたらしい。9年前、集落が襲撃された時まで。」


襲撃したのは誰だと問う前にシャルは続きを話し始めた。


「襲撃したのはMSCという組織。表向きは神ではなく、人間が世界を平和に導く思想の元派生した秘密結社で、慈善団体への資金援助とか学校設立とかをしているけど、実際は特殊な民族を弾圧したりしている。人間至上主義と見せかけた、宗教団体だね。全ての権力は神・ヴリトラに集約すべきで、人間はその奴隷でしかないっていう思想の元動いてる。」


MSCという名は聞いたことがあった。
確か、各国の首相も何人か所属していた筈だ。


「Mankind Supream Clanか。」
「ご名答。よく知ってたね。」


なるほど。キチェスに照準を絞って狙っている組織があるのであれば、あの、桜を開花させた事件の後が外に出たがらなかったのも説明がつく。


「とまぁ、今のところ調べられたのはこれくらいで、キチェスの実態については余り情報が無いんだよね。」


肩をすくめたシャルに、クロロはそうか、とだけ答えた。


「実際、謎の多い民族だよ。人と交流していた時は、その高い技術力を持って、助言を与えたりしてたみたいだし。」


もうプリントアウトした紙に用は無いのか、シャルはそれをテーブルの上に置いた。


「で、彼女はキチェスでしょ?よく見つけてきたね。」


シャルは知らない。
キチェスの守人という存在を。ということは、本当にキチェスに関する情報はこの世に余り無いらしい。


「偶然な」


本当にそれを偶然と呼んで良いのか。
らしくもなく、そんなことを考えながら言うと、シャルは椅子から立ち上がった。


「あぁ、そういえば彼女、団長に話があるみたいだったよ。」
「そうか。」
「俺の話が終わったら声かけるって言ってきたから、後で来ると思う。」


じゃぁね、と返事を待たずにシャルは部屋から出て行った。

そして、その数分後、シャルの言葉通り彼女がやってきた。










2013.4.20 執筆