アカシックレコード。
それは、この星に降り立ったキチェスの集団の長である最長老が持っていたとされる、キチェスの知識すべてをつぎ込んだ英知の塊。それには、今後の未来についても描かれているという。
の過去の記憶では、確かにそれは最長老が持っていた。
どのような形でか等分からない。
唯、持っていたのだ。
は、閉じていた目を開いた。
クロロにつれてこられた場所は、がらんとした廃墟。
しかし、必要最低限のものは揃っていて、生活には不自由はなさそうな所だった。
目に入る天井はむき出しのコンクリート。
まだ、辺りは薄暗い。
しかし、ここが森の中だという事実は、にとってわずかばかりの安心感を齎す。
くあ、と小さく欠伸をして、は立ち上がった。
Diva #10
の部屋は二階の一室。隣はクロロの部屋だ。
ベッドと本棚だけが置かれている場所。無駄に、本の数だけは多い。
のどが渇いたは一階へと降りて冷蔵庫を開いた。
数日前に一通りのものは買い揃えて貰ったので、今、冷蔵庫の中は溢れんばかりの食材がある。
ソーダを取り出して一口飲んだところで耳慣れた声がささやいた。
『あぶないものが、くる』
『にげて』
それに眉を寄せる。
そうは言われても、クロロの傍を離れるわけにはいかないのだ。
あぁ、そうだ、クロロに知らせに行かなければ、そう思い立つのと、二つの影が飛び込んできたのは同時だった。
ざわざわと森が波打つ。
『あぶない』
は目を見開いた。
このようなことは初めてだ。木々が勝手にその枝を伸ばし始める。
「なんだ、こいつ」
「さぁ。見たところ、普通の女の子みたいだけど。」
二人の話す声。
ざわめく木々の声。
「うわっ」
二人は背後から迫り来る何かに飛びのいた。
そして、それはそのまま伸び続け、ものすごい勢いでを取り囲む。
『まもらなければ』
は目を瞬かせた。
歌なんて歌っていない。それなのに、これはどういうことだろうか。
木は何十にもその枝をぐるりとに絡ませると、ものすごい速さで外へと連れ出した。
まるで、波が引くように。
「お、おい、何だありゃぁ!追うか?」
問いかけにシャルは一瞬考えて、合点がいったように、あぁ、とつぶやいた。
あの能力は丁度昨日まで調べていた民族が持つ力だ。
そして、それについて調べるように命じたのはクロロ。
「クロロに相談するのが先みたいだね」
はただただ、動揺していた。
自分の意思に反してこんな行動を取る植物なんて出会ったことが無い。
「木に、誘拐される日がくるなんて思わなかった。」
ぽつりと零した言葉に木がささやく。
『こっち、こっち』
枝に覆われた身体が開放されたのは少したってから。
鬱蒼とした森の中だ。
木がささやく方を見ると、大きな大木が連なるように生えていた。
半径2メートルはあるであろう大木が2本、寄り添うように佇む。最早地面に面している部分はどこからどこまでが1本の木なのか分からない。
『はやく、ひらいて』
『にばんめの、キチェスの、もり』
開く、とは言ってもどうしたものか。
だが、直感的にには分かった。
何をすべきか。
ここは、大昔、キチェスが住処としていた森だ。
純粋に、森と共に生きた彼女たちの二番目の住処。
自分の求めるもののの手がかりが十分にある可能性がある。
少し迷った後、足を踏み出した時、再び森がざわざわと声をあげる。
『あぁ、きてしまった』
『あいつが、きた』
『いまは、だめ』
それきり、しん、と静まり返った森に、は後ろを振り返った。
そこには矢張り、黒ずくめのクロロが立っていた。
動き出した世界