それはもう凄かったんだよ!
ぴかっと光ったと思ったら知らない男女が数人いてさぁ、で、その中の1人のオールバックの男がいきなりを見ると目を見開いて。
「!」
って叫ぶと、に向かって両手を広げて走りだしたんだ。
当の本人もこれでもかって位目を見開いて、突進してきたオールバックの男の熱い抱擁を受け入れるもんだから、隣に座ってたリヴァイが持つペンが音を立てて折れて。
白昼堂々人類最強に喧嘩売るヤツがいるなんて、どこのどいつで、とどういう関係かって興味津々だったんだけど、全てが呟いた言葉で解決した。
「お、お兄ちゃん・・!」
急速にしぼむ隣の不機嫌さにほっと胸をなでおろしつつ、あれが噂ののお兄さんとその仲間かとしげしげと眺めてみた。
1人は眉が無いいかつい顔をしたジャージの男と、2人が見慣れない服を身にまとった男女、そして金髪のむきむきの男。最後がを抱きしめているお兄さん。
うん、凄く個性的な集団だ。調査兵団の個性豊かさと張るかもしれない。
「で、こいつらは何だ。」
誰もが何も言えずにいると、感動の再会を終えたお兄さんが顔を上げて周囲を見回した。
怪しむようにじろじろと見るお兄さんに慌ててが説明をした。とても簡潔な説明を。
「あーっと、お世話になってる人たち。」
「そうか。世話になったな。じゃぁ帰るぞ。」
そう言っての手を握りしめたままのお兄さんに、は思い切り踏ん張ると、彼の手を振り払った。
「待って待って!」
振り払われたのお兄さんは驚いたようにを見下ろしている。
「急に帰るとか・・私、まだここでやる事あるし。」
「・・・やる事?」
驚いた顔を少し面白そうに歪めて、お兄さんは”言ってみろ”と促した。
ひとまず私は、この世界についてと、小太郎、エルヴィンについて紹介をした。
ここまでは、まぁ、何とかスムーズに行ったんだけど、リヴァイの紹介をした時、空気ががらりと変わってしまった。
「で、この人がリヴァイ。・・・・私の恋人、みたいな。」
その瞬間、お兄ちゃんがゆらりと立ち上がった。
「・・・恋人だと?」
やばい。なんか怒ってる。
一応私がお世話になってる人たちとは言ってるからいきなりばっさり殺しちゃったりはしないだろうけど、不穏な空気に、私はノブナガに助けを求めた。
シャルに求めても良いけど、あの人、すぐ面白がって火に油を注ぐから。
「へー、に初めての彼氏か。めでたいね。」
ほら!頼んでもないのに勝手に口を開いたあの似非好青年は!!
「こんな面白い事中々無いよ。名前、何だったっけ?」
「シャル・・何が面白いのよ!」
「そうだ。決して面白くはない。不愉快だ。」
私がシャルに文句を言うと、お兄ちゃんも続いてくれる。あ、いや、くれるっていうのは、この場合は違うか。
「赤ん坊からずっと大事に手塩にかけて、この俺がこの世で生きていく術を一から教えこむほどの愛情を注ぎ込んだ妹が、数年前に突然消えて、虱潰しに疑わしい奴らをぶっ潰して探して、やっと探し当てたと思ったら、どこぞの馬の骨とも知らないこんなチビが彼氏だなんて言い出すんだぞ。見てみろ、フェイタンと良い勝負の身長だ。」
あぁ、あぁ、もう、お兄ちゃん達だけでも手一杯なのに、そんなリヴァイの地雷を踏み抜いちゃって・・!
恐る恐る横を見ると、それはもうリヴァイが凄い目をしていて、私はハンジに助けを求めようとしたのに、彼女は思い切り顔をそむけて笑っている。
ほんと、私の周りに常識人ってなんで居ないんだろう!!
「アタシはが良いんならそれで良いと思うけどね。」
「マチィイイイ!!」
突然養護してくれたのはマチだった。やっぱりこういう時に頼りになるのはマチだ。
「まァ、俺も、が決めたんなら、なぁ?」
「ノブナガ!!」
続いてノブナガまでも、マチの言葉に頷いてくれて、本当に今回現れたメンバーの中にこの2人がいてくれて良かったと本気で思った。
「お前ら・・・裏切るのか。」
「裏切るも何も、アタシはの意思を尊重するって言ってるだけだよ。」
前からお兄ちゃんの過保護っぷりに困って相談する相手だったマチは、自然と私の横に歩いてきてくれて、私の肩に腕を回した。
「クロロ。あんたもいい加減妹離れするべきだよ。」
きっぱりと言ったマチ。そして、表情には出さないけどイラッとするお兄ちゃん。
この人達が喧嘩(マジ喧嘩は蜘蛛の法律で禁じられてるから喧嘩の一歩手前だけど)し始めると周りへの影響が半端ないから、手は出さないで欲しい。
そう願ってみても、マチは「そんなんだからに煙たがれるんだよ」ってけしかけるしお兄ちゃんは「いつからそんな口を効くようになった。頭が高いぞ。」(あれ、何か漫画違う?)って威嚇するし。
「まぁまぁ。今回を連れて帰るのは無理なんだから取り敢えず落ち着いて。」
そんな若干緊迫した空気を割ってみせたのは、意外にもシャルだった。シャルはお兄ちゃんの肩をとんとんと叩いてへらりと笑う。
いやしかし、今回私を連れて帰れないってどういうことだろう。そもそもどうやって帰るつもりなんだろうか。
「・・・どういうこと?」
「今回、此処に来た念能力では、移動先の有機物は持ち帰れない制約が付いているんだよ。だから、は連れて帰れないってことさ。」
良かったね、と付け加えて説明してくれたマチに自然と笑顔になる。
マチとノブナガがついてくれたとしても、お兄ちゃんとシャルを相手にするのは厳しい。
これは朗報だ。
妹の私が言うのも何だが、お兄ちゃんほど強引で、そしてそれを押し通してしまう人を私は見たことがない。
もし、私をすぐにでも元の世界に連れ帰れるのだとしたら、いつ連れて行かれるかびくびくしなきゃいけないけど、それが出来ないんなら心配することは何も無い・・とは言えないけど、あんまり無い。
壁の上を歩きながら呑気に壁外の巨人を指さしてけらけら笑ったり興味深そうに身を乗り出して眺めているのは、昨日いきなりぴかっと現れたのお兄さん達だ。
ちなみに、ノブナガとフィンクスは昨日飲み過ぎたとかでまだ眠っている。
「へぇ・・・人間に似てるのに全然似てない。もう何年も研究しているのにアポロもも何も分かってないって本当?あれ、そんなに頭弱かったっけ?」
ナチュラルに神経を逆撫でする天才だとが言っていたけど、その通りみたいで、とアポロが舌打ちする音が聞こえてくる。
「・・・興味深いな。」
その数歩先を歩いているのお兄さんはそうぽつりと呟いて壁を飛び降りたもんだから私は慌てて声をかけようとしたがに止められる。
「大丈夫。お兄ちゃんは殺しても死なないから。」
「襲われて痛い目見るくらいがちょうど良いんじゃないかい?」
悪意を持って言っているのかそうではないのか、まだこのマチという子の事を知っている訳ではないけど、それを聞き流しながらお兄さんを目で追う。
「そうだ。アンテナ刺してみよう。」
シャルナークがそう言ってどこからとも無く大きめの針のようなものを取り出すとそれを壁をがじがじ引っ掻いている巨人に向けて放った。
「お、それ楽しそうじゃねぇか!」
興味があるのか、先ほどから声だけで参加していたアポロが影からぬるりと出てきて壁の下を覗きこむ。
私もそれを見ていて、目を見開いた。
ぴたりと動きを止めた巨人は、お兄さんの方を向くと、どすどすと走りだす。
ついでに近くの巨人をなぎ倒しながら。
「へぇ、問題なく使えるみたいだね。」
シャルナークの手元には小さい長方形の機械。
それをかちかちと操作しながら操っているであろう巨人をちらちら見ている。
って、呑気に状況を説明してる場合じゃ無いんだよ!
「すっっっっっっっっげぇーー!!!」
私はシャルナークの肩をがしりと掴んだ。
「何それ、どういうこと!あの巨人を操ってるってことかい!?何をやらせられるの!?喋らせることは出来る?ねぇねぇ教えてよ!!」
がよく分からない力を使うのはとっくの昔に知ってたけど、彼の力も興味深い。
だって、巨人を操るって、ありえなくね?
「んー、百聞は一見にしかず。」
問い詰めると、シャルナークはにっこり笑ってもう一つ先ほどの大きめの針を取り出した。
見間違いでなければ、それを私に向けている。
「って、人間にも使えるって事!?すっげぇー!!!」
なに、の世界の人は全員こんな不思議な事ができちゃうわけ?
「いや、ハンジ。もっと身の危険を感じたほうが良いって。」
は呆れたように言って、シャルナークの手にあった針を取り上げるとぽいっと壁外に投げ捨てた。
あぁっ捨てる位なら調べさせて欲しいかったのに・・!!
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