ここはどこだろうか。とは首を傾げた。
手元の刀、ベルは、だから止めたのに、と溜め息をついている。
「仕方無いじゃない。一人で外を出歩いてみたかったんですもの。」
勝手に外に出るなんて!と止めるベルを黙らせて、ビルを飛び移りながらここまでやってきたのは。
人が1時間走り続けたとて移動距離はたかが知れているが、彼女の場合、その移動速度は尋常じゃない。
しかも、あれは何だろうか、と思った瞬間にはそこに飛び移って移動を重ねていたため、ここが何処なのかさっぱりだ。
取りあえず飛び上がってタワーのてっぺんまで上ったは良いが、どれがボンゴレのビルかさっぱり分からない。
「見つけてもらうために派手にこのタワー壊してみるのはどう?」
『だめに決まってるじゃないですか!』
まったくさんは、もう、とぶつくさ言うベルの言葉を無視しては不満そうな声をあげる。
「銃声・・・?」
かすかに聞こえる銃声には路地裏の方を見た。
随分と遠いし市街地から離れた場所。
「面白そう。行ってみましょうか。」
うふふ、と笑いながらは支柱を蹴った。
反動で少し曲がるが、そんなこと、彼女にとってはどうでも良いことだ。
『厄介事に首突っ込まないで下さいよ!あくまでも私達はお世話になってる身なんですから!!』
「あー、あー、うるさいですね。私はいつだってやりたいようにやるだけですよ。」
『はぁ・・・すみません、綱吉さん・・・。』
自分は結局彼女を止めることは出来無いのだ、とベルは最近胃の調子が悪いと零していた青年に謝った。
無法地帯からこんにちはシリーズ 第5弾
護衛もつけずに一人でのんびり散歩をしていたのがまずかったのか、とディーノは舌打ちした。
多勢に無勢。しかも部下は一人もいないので、彼の戦闘能力は大分低い。
「お困りですか?」
うふふ、と笑う声と共に自分の隣に突然現れた女性にディーノは肩をおおきく震わせた。
思わず敵の攻撃を避ける為に隠れていた壁から出てしまいそうになる程。
「実は、私、迷子なんです。」
「はぁ?」
唐突に話し始めた目の前の女性にディーノは思わずそう言ってしまった。
女性は、あら、日本語分かるのね。と嬉しそうに笑う。
Tシャツにジーンズというラフな恰好の女性の手にある長い刀はどうにも不釣り合いで、自然と視線はそちらへ向く。
「貴方を助けてあげますから、私を家まで送り届けて下さる?」
「ちょっと待ってくれ。助けるって・・・」
「逃げるのと貴方を狙っている不届き者をぶちのめすの、どちらが宜しいかしら。」
おいおいおい、逃げるって言ったって、逃げれたら最初から逃げてるっつーの。
という気持ちが顔に表れていたのか、彼女は、こくりと頷いた。
「ではぶちのめして差し上げましょう。」
そう言ってはディーノを押しやると刀を抜いた。
「ほぅら、碌に戦えもしない役立たずは下がっていて頂戴。」
「何!?んなことより、お前、一人でやるつもりか!?」
だったら俺が行った方がマシだ。と怒鳴りつけるが彼女はにこりと笑うと人差し指をディーノに突き出した。
「縛道の一『塞』」
ぴたりと動かしていた手足が動かなくなった事実にディーノは目を見開いた。
「では、良い子で待っていて下さいね。」
ぱちりとウィンク一つしては飛び出した。
ようやく手足が動く様になってが出て行った方に飛び出すと、そこには倒れている十数名の男を無遠慮に踏みつけながらこちらへと向かうの姿。
「あぁ、もう、ガタイだけは良いんですから足の踏み場が無くて困るわ。」
困ったように言いながらもはヒールであるのにも関わらず、むぎゅ、と遠慮なく男達の背中やら手足を踏みつける。
「驚いたな。」
自分が拘束されていたのは数分の出来事。いや、そう感じているだけで実際はもっと短いだろう。
「まー、何だ、助けて貰ったことだし礼を言うぜ。ありがとな。」
「お礼なんて結構。とりあえずお茶が飲みたいわ。」
正に着の身着のままで出て来たは金銭を一切持っていない、いわば一文無し。
「じゃぁ俺の家に来いよ。飯もご馳走するぜ。」
にかっと笑った顔は随分と幼く見える。
「ではお言葉に甘えて・・・貴方のお家はどちら?」
「ん?ちょっと歩くぜ。あっちだ。」
「そうですか。」
と頷くとはディーノを小脇に抱えた。
急に視界が変わったディーノは一瞬何が起こったのか分からずに硬直するがすぐに顔を真っ赤にして暴れ出す。
「おい!」
「貴方の足に合わせていたらどれだけ時間がかかることやら。」
そう言っては路地裏のビルの壁を駆け上がった。
急に訪れたGにディーノはひゅっと息を飲む。
「ほら、早く道案内して下さい。指を指すだけで良いですから。」
「あっちだけどよ、お前何もの・・ぐぇっ」
指差した先を確認するとはディーノが何か言いかけていたのを無視して隣のビルへと飛び移った。
「舌噛まない様に気をつけて下さいね。」
「遅い!」
「あぁ、手遅れですか?それは残念。まぁ、どうでも良いんですけれど。」
本当にどうでも良さそうに言ってはひょいひょいと軽々と移動する。
は良いかもしれないが、これにディーノは目を回すしかない。
ようやく自分の屋敷を見つけて、あぁ、やっと開放されると安堵しながら指をさしたのは大きな間違いだ。
彼は見誤っていたのだ。
こんな高いビルから、まさか、まさか、飛び降りるはずは無い、と。
「行きますよ。お口はしっかり閉じました?あぁ、大丈夫ですね。」
勝手に自己完結させては一気にビルの屋上から飛び降りた。
まさか!と突然訪れた浮遊間にディーノは顔を青くする。
「こ、ここ50階だぞ!!」
「はいはい。お口は閉じましょうねー」
「ぎゃあぁぁぁあ!!」
「うるさいですよ。」
もう、とはディーノの口を押さえ付けながら見事着地した。
着地の直前、くるりと一回転した時にディーノの首から変な音がしたが、まぁ、どうでも良いだろう。
「つきましたよ。って・・・」
さぁ、どうぞ!と降ろそうとして目に入ったのは白目を剥いて気絶しているディーノの姿。
何故?とは首を傾げた。
『当たり前ですよ。人間を一人抱えてこんなことして・・・』
「だって、早くお茶したかったんですもの。かれこれ数時間飲まず食わず。もう、喉がカラカラよ。」
そう言いながらはインターフォンを押した。
「すみません。死にかけてた男性を一人助けたところ、お宅に連れて行けと言われたから連れて来て差し上げたんですが。」
はインターフォン横のカメラにディーノの気絶している顔をずずいっと持って行くと、スピーカーの向こうから慌てる声とがたんと何かが倒れる音がして、ばたばたと足音が遠ざかった。
「それにしても豪邸ね。お坊ちゃんか何か?」
『彼の歳でお坊ちゃんは無いと思いますよ。』
ばたん!と壊れんばかりに玄関の大きな扉が開いて数名のスーツの男性が飛び出して来た。
「ボス!!」
ボスって・・・
「これのこと?」
襟をもってひょいっとディーノを持ち上げる。
恐らく気絶しているディーノの首が締まっているだろうに彼女は全く意に介さない。
門がすぐに開き、はディーノを抱え直すとこちらに走ってやって来る男性のもとへと向かう。
「そう心配しなくても外傷はありませんよ。ちょっと色々あって気絶しちゃっただけですから。」
「貴方は・・」
警戒するような視線にはむっと眉を寄せた。
折角珍しく人助けをしてあげたのに何故こんな視線を向けられるのか、と。
「路地裏でどんぱちやってるから見に行ってみれば、こちらの方が大勢の方に襲われていたので手助けしただけよ。全く、折角助けてみたのに、その態度はなぁに?」
は周りの男性を見回す。
一人は懐に手をやって、きっと拳銃を手にしているのだろう。
そしてもう二人はに抱えられているディーノを心配そうに見ながらもへの警戒を怠る様子は無い。
「お礼の一つも言えないなんて、あぁ、嘆かわしい。私はただ、お茶とご飯をごちそうしてくれるって言うからお邪魔しようとしただけなのに。」
仕方無く、目の前の男性、ロマーリオにディーノを渡しながら言うとロマーリオは周りの男性に目配せすると頭を下げた。
「悪かった。ボスを送り届けてくれたことには礼を言う。」
「最初からそう言えば良いのよ。」
ここでが帰ってくれれば彼らとしては有り難いのだが、迷子のは引き下がらない。
「それで、貴方達のボスと約束があるから彼が起きるまで待たせて頂いても?」
ロマーリオは少し考えるように視線を落としたが、が笑みを濃くして睨みつけるように彼を見るとすぐにこくこくと頷いた。
目を覚ましたディーノは見慣れた天井に慌てて飛び起きた。
確かに自分は外に居た筈だ。それなのにベッドにいるということは・・
「夢か?」
確かに非常識なことのオンパレードだったが、いや、と鈍い首の痛みに否定する。
「ボス。目が覚めましたか。」
「あぁ。ロマーリオ。俺は何故・・・」
ロマーリオは問われてが此処へ気絶したディーノを連れて来たことと、今は応接室にいるという旨を伝えるとディーノは起き上がって応接室へと向かった。
応接室に入ると優雅に紅茶を飲んでいるがいて、その正面のソファに腰掛けた。
「何ていうか、世話になったみたいだな。」
「えぇ。本当に。あれくらいで気絶するなんて思っても見なかったわ。」
「あれくらいって・・普通あそこで飛び降りるとは思わねぇだろ。それ以前に抱えられてビルを飛び移るなんて、映画の中の話だぜ。」
ま、貴重な体験はさせてもらったみてぇだけどな。と苦笑しながらディーノはを見た。
「そういや自己紹介もまだだったな。俺はディーノだ。」
「私はよ。ねぇ、ディーノさん。私、昼食から何も食べてないの。」
つまり飯を食わせろということなのだろう。
「分かった。今用意させるが、その前に聞きたいことがある。」
「どうぞ?」
は平然と出されていたクッキーを摘んだ。
「お前、何者だ?」
「何者ってさっき自己紹介したじゃない。」
もう一回やり直し?と、くすくすと笑えばディーノは真剣な顔でを見つめている。
「難しい質問ね。貴方の常識の範疇外の生き物だもの。私。貴方、信じるかしら。」
「とりあえず、聞かせてくれ。」
ふう、と溜め息をついてはクッキーでぱさついた喉を紅茶で潤した。
「私は死神よ。まぁ、ここの世界の、じゃ無いけれど。」
「死神・・?」
「そう。死んだ人の魂が暴走しないように浄化させたり、暴走して怪物になった虚というものから人間を守ったり。そんなことをしていたわ。」
「何故、ここにいるんだ?」
尋ねるとは笑みを濃くした。
「それはどっかの馬鹿が変な研究をして、それが成功しちゃってこっちに来ちゃったのよ。もう、それは、こちらの意思なんてこれっぽっちも関係なく。」
あぁ、腹立たしいわ。とは呟いた。
「その研究をしていたのがボンゴレとかいう組織の一部で、私はそこに保護された訳なんだけど、中々一人で外に出して貰えなくて。一人で出歩いてみようと思って外に出てみた訳よ。そしたら周りは訳分からない言葉話してるでしょう?しかも何処だか分からない場所に出ちゃって迷子になってたし、貴方を助けてとりあえずどうにかして頂こう、と。」
これで宜しい?と首を傾げてみて来る彼女を目の前に、ディーノは携帯を取り出すとすぐにかけた。
はどうとも思っていないのか、再び紅茶を口にしている。
『あ、ディーノさん。お久しぶりです。』
短いコール音の後に聞こえて来た声は弟分の声。
「あぁ、久しぶりだな。ちょっと一つ確認したいんだが・・」
電話の向こうの彼は少し疲れているようで声に元気が無い。
「お前んとこで今、っていう子を保護してるか?」
『何で知ってるんですか?まさか・・・』
「あぁ、まぁ、ちょっと助けて貰ってな。今、目の前にいる。」
『代わって下さい!』
突然慌て始めた声にディーノは携帯をに手渡した。
「ツナだ。」
首を傾げている彼女に電話先の人物の名を教えると、は嫌そうに顔を歪めたがしぶしぶと携帯を耳に当てた。
「あら、ツナくん。御機嫌よう。」
『ご機嫌よう、じゃないですよ!急にいなくなって、ベルさんもいないし、どう探せば良いかほんっとうに困ってたんですからね!!聞いてるんですか!?』
「聞いてるわよ。もう、そんなに怒鳴っちゃって。元気なのは分かりましたか、もう少し声のトーンを落としません?」
『とにかく!すぐに迎えを寄越しますからちゃんと帰って来て下さいね!!』
その言葉を最後に携帯は、つーつー、と無機質な音をたてた。
「切れちゃったわ。」
「みたいだな。」
はい、と差し出された携帯を受け取りつつ苦笑する。
彼女とツナとのやりとりを聞いていて、何となく理解できた。彼女の性格が。
「確かに勝手に出て来ちゃったのは悪いとは思うけれど、ちょっと出歩くくらい別に良いと思いません?」
「・・ここからボンゴレ本部ってことはちょっと出歩く距離に入らねぇと思うけどな。」
「まぁ!貴方達の様な凡人と一緒にしないで頂けるかしら。」
もう、失礼しちゃうわ。と彼女は言おうとして止まった。
とてつもなく不快な存在が近付いているのだ。
「・・どうかしたのか?」
「・・・どうもこうも・・あぁ、嫌だわ。もしかして迎えってアレ?」
こうも嫌そうに言われる相手が少し気になったところで応接室の扉が勢い良く開いた。
扉を開けて飛び込んで来た人物にディーノは見覚えがあった。
一癖も二癖もある守護者(だいたいの守護者は癖が強いのだが)、六道骸だ。
「さん!」
は両手を広げて向かって来た骸の顔を遠慮なく足で蹴飛ばした。
どごん、と骸は壁にめり込み、数名が慌てて駆け込んでくる。
「ボス!無事ですか!?」
「あ、あぁ・・」
いや、無事かって俺より六道に言った方が良いんじゃねぇ?と骸を見ると、彼は、くふふ、と嬉しそうに笑っている。
「今日はヒールですか・・・良いですね。あぁ、倦怠期になるのを気遣ってくれたんですか?大丈夫です!僕の愛は永久不滅で倦怠期のけの字も感じさせない程の愛を貴方に・・・!」
「きゃー!!きもいきもいきしょい!!何で貴方がここにいるのよ!!!」
鳥肌が立っちゃったじゃないですか!とは其の身を抱きしめるようにして気味悪そうに骸を見た。
「それは、僕が此処に一番近い所にいたからですよ!あぁ、もしかして僕と二人っきりになるために此処へ?全く、いじらしいですね★」
きゃは★と照れながら言う骸にぞくりと悪寒が走ったのはだけではない。
ディーノやロマーリオも同じだ。
「・・・ねぇ、此処で殺しても良い?良いわよね?ねぇ?」
「い、いや、一応ボンゴレの守護者だしマズいんじゃねーか?」
ディーノは骸のその熱烈な言葉に大分引きながら言うが、実際はこんなヤツいなくても良いんじゃないか、と思っているのはここだけの話だ。
ボンゴレに帰ろうという気はあるが、あんな変態パイナポーと一緒に帰るのは嫌だ。
どうやって帰ろうか、とが骸の愛の手を避けつつ考えていると、全面窓ガラスががらがらと崩れ去り、救世主が現れた。
ディーノもよく知る、教え子の恭弥だ。
「恭弥くん!なんて良い所に!!」
あぁ、もう、本当に良い人!と飛び跳ねながらは喜ぶのと反対に骸は顔を歪めて臨戦態勢に入る。
「仕方無いから迎えに来てあげたよ。」
「これで変態パイナポーと帰らずに済むのね・・!!」
は涙ぐみながら恭弥に駆け寄った。
「雲雀恭弥・・・また君ですか・・・」
「いい加減付きまとうの止めたら。随分と嫌がられてるみたいだけど。」
あー、よしよし、恐かったねー。との頭を撫でる恭弥とそれを甘んじて受けるに骸は「むきー!」と切れた。
「は恥ずかしがりやさんなだけなんです!シャイガールなんですよ!!」
「・・・ガールって歳じゃ無いと思うけど。」
ぼそりと言った言葉にはしっかりと恭弥の足を踏みつけることで抗議した。
「あぁ!さん!!僕ならSにでもMにでもなれますから、絶対にSMプレイは僕の方が楽しめますし、ご希望ならばコスプレでも何でも・・・へぶしっ!」
訳のわからないことを口走り始めた時点では刀を鞘から抜かずに骸をボールのごとく打った。もちろん、刀はバット代わりだ。
ふぅ、と少しすっきりした顔では振り返った。
其処にはこの事態に困惑している黒スーツの男性数名と、大きな穴が開いてしまった部屋を苦笑しながら見回すディーノと、早く行くぞと言わんばかりの表情の恭弥。
「では、ディーノさん。修理費はあの変態に請求しておいて下さいね。」
「あぁ、そうさせて貰うさ。」
二人とも気をつけて帰れよ、というディーノの言葉を背に二人は大破した窓から外へ出ると、恭弥のバイクに跨がった。
「帰ったら説教だね。」
『逃げたら駄目ですからね。』
ようやく口をひらいたベルは強く言うがは飄々としている。
勿論、全く悪びれた感じも無く帰って来たにツナは胃を痛めながらも説教。
ベルも交えてその説教は数時間にも及んだという。
胃がきりきりするのは
誰のせい?
「ツナくん。この胃薬効くらしいですよって。ベルから。」
「・・・あぁ、ありがとうございます。」
「胃薬なんて、何か悪いものでも食べたんですか?駄目でしょう?拾い食いなんかしちゃぁ。」
(さんのせいなんですけどね!!)
そうは思っても彼は小心者だから言える筈が無い。