ぱちりと目を開いて傍らの時計を見ると、己が2時間程眠っていたことが分かった。
あー、すっきりした。(日番谷くんに追いかけられる夢だったけど)と笑って、意識が途切れるまであった微妙な違和感が払拭されているのを確認。
肩を鳴らすと、立ち上がってカーテンを開けた。


「・・・どう考えても此処って日本じゃぁ、ないわよね・・。」


看板等から読み取れる文字は明らかに日本語ではなくって、ううむと首を傾げた。










リアルな夢と嘘みたいな現実










画面に取り付けられた小さな液晶画面とその隣にあるボタンの使い方はいまいち分からなかったが、取り説のようなものがテーブルの上にあったので、それで何とか山本に連絡をとると、すぐに彼はの部屋まで迎えに来た。
そのまま食事を取りに行ったのが一時間前。
そして、今は最初に連れて来られた部屋にいる。


さんっ、いい加減許して下さいよ!』


ツナと呼んでくれと言ったここの主と話しているものの、彼の傍らにある己の刀の声が五月蝿くてかなわない。
の笑顔が濃くなった。


「・・そういうことなので、この屋敷内は皆日本語を使えるので問題無いんですけど、外に行くにはやはりイタリア語を覚えるしかないので・・・」
「まぁ!折角仕事から解放された自由な世界に来たというのに、イタリア語とやらを勉強しろということ?」
「あ、はい。すみません。」


大袈裟に驚く彼女に、思わずツナはぺこりと頭を垂れた。
しかし、そこで黙っていないのが自称右腕の目つきの悪い煙草を吸っている青年だ。


「10代目、謝ることは無いですよ。おい、お前!ここまで10代目が寛大な処置をして下さっているというのに、何だその態度は!!」


ぎゃんぎゃん騒ぐ獄寺が喧しくて、は溜め息をつくとソファから立ち上がり、つかつかと獄寺の目の前まで行った。


「な、何だよ」


怯む獄寺に笑顔全開ですっと手を差し出すとは獄寺の口に人差し指を押し付けた。


「少し、黙っていて下さいね。」


そして指を離してソファに戻って腰掛ける。
一連の動作に文句を言おうと獄寺は口を開いたが、ぱくぱくと口が動くだけで声が出て来ない。


「ご、獄寺くん!?」
「すみません。あまりにも耳障りだったもので。あぁ、安心して下さい。話が終わればちゃんと声は元通りにしますので。」


<てめぇ!!>と獄寺の唇が動いて、を殴り掛かろうと身体を走らせる。


「縛道の六十一、六杖光牢。」


しかし、身体はの目の前で光の帯が胴を囲う様に縛り付け、止まってしまった。
それに一同は勿論、ぽかんと口を開ける。
そんな中、彼女のころころと笑う声だけが響いた。


「ふふふ・・・もう、いい加減にして下さい。私はお話をしに来ているというのに。」
「あ、あの、さん。これは一体・・・。」
「私の世界の力ですからお気になさらず。」
「おもしれー力だな。」


リボーンは机から獄寺の肩に飛び乗ると、「本当に動けねーのか?」と尋ねている。
山本は「すげー」と言いながらつんつんと獄寺をつつく。


「良い気味ですね。獄寺さん。」


んふふ、と彼女は至極楽しそうだ。
獄寺は顔を真っ赤にしてぶち切れ寸前というかぶち切れている。
いっそのことこのままにしてやろうかと笑いながら考えていると、いきなり慣れ親しんだ声が生身の声で聞こえて来た。


さん!人間に鬼道を使うなんて・・!!」


ゆるりとが視線を声のもとに向けると、そこには青年の姿。
その瞬間、リボーンは銃をいきなり現れた人物に向け、山本はツナの目の前に立ちはだかって刀に手をかけた。
ベルを見る眼差しは一体彼がどこから湧いて出たのか、何が目的なのかと疑惑に満ちていて、寸分の弛みも無い。

ぴんと張りつめた空気が部屋を満たした。


「この世界じゃ、死神も人間も変わりませんよ。そんなことよりベル。私、まだ貴方を許した訳じゃぁ無いんですけど?」
「もう、さんは・・・」


はぁ、と溜め息をつくと、ベルは獄寺の目の前に歩いて行く。
途中「おい、おめー、何するつもりだ」と鋭い視線と共にリボーンの声が投げかけられたが、ベルは「何もしませんよ」と軽く流すと獄寺の目の前まで移動すると「解」と唱える。
すると、なんということでしょう。
獄寺を縛っていたものは取れ、口まで利けるようになったではありませんか。


「あら、取っちゃったの?五月蝿いからやめておいたら良かったのに。」
「縛道をかけるくらいなら、こうしておけば良かったんですよ、全く。」


ベルは呆れたように言うと、獄寺が何か言う前に首に手刀を入れると、どさりのその場に転がした。
完全に彼は気を失っている。
ベルは気を失った彼をひょいっと持ち上げソファに横にした。


「大体、彼が親切にもイタ語の習得に力を貸してくれると言っているのに、その言い草は何ですか。」
「あー、五月蝿い斬魂刀ですこと。」
さん!」


は五月蝿い五月蝿いと呟きながら紅茶を口に流し込んだ。


「ベル。貴方、あっちの人たちが、もう私たちの事を諦めて探していないんじゃ無いかって言ってましたよね。見捨てられた、と。」
「い、いえ。そこまでは言ってないですけど・・・そんなことは言いましたね。だって、私たちは日番谷君の目の前で消え去ったんですよ?どこに行ったのかも分からないのに連れ戻すのは不可能だと考えるのが当然でしょう。」


一同は改めて己の組織のしでかした事の大きさに気づき、気まずそうに眉を寄せた。


「・・・そうでしょうね。本当に、あの方達が私達を見つけるのを諦めているとしたら・・・」


そう呟いては俯いてしまい、肩は小刻みに揺れている。
当然話を聞いていた一同はベルが悪いと、ベルを一斉に見た、というか睨みつけた。少ししか一緒にはいないが、それでも分かる気丈な彼女が肩を震わせているのだ。
しかし、ベルは溜め息をつくばかり。
山本はぐっと拳を握りしめた。


「おい、いくら何でもそれは言い過ぎじゃねーのか?の気持ちも考えて・・・」


そう、言おうとした山本だが、それはの盛大な笑い声に遮られる。


「うふふふふ・・あっははは!だったら傑作だわ!!ねぇ、そう思いません?だってだって、だとしたら、十番隊隊長は日番谷くんが就任して、晴れて私はお役御免。」


一同は再びぽかんと口を開いた。何だろう、彼女は色々と自分たちの常識を外れている気がする。


「お役御免だなんて、なんて素敵な響き!何百年も終わらない任務に書類にそろそろ飽き飽きしてきた所になーんて素敵な事故。決めたわ!」


うふふ、うふふと笑いが収まらないといった様子でころころと笑いながらはにっこりとツナを見た。


「帰る方法、100年後くらいに見つけて頂けません?100年くらい経てばほとぼりも冷めているでしょうし。あっちに帰ったら隠居生活だわ!」
「・・・・何年後に帰っても山本総隊長がいらっしゃる限りさんに隠居生活なんてものは無いと思いますけど・・。」
「・・・・余程水を差すのがお好きみたいですね。でも、確かにあの糞爺が居る限り、私に平穏な生活は無い気がするわ・・・あぁ、そうだわ。帰ったら真っ先にあの爺を暗殺しましょう。それが一番だわ。」


堂々と暗殺計画を立てているに、言いたくは無いのだが、隣にいるリボーンがさっきから「おい、アレどうにかしろよ」的な目でツナを見て肘で小突いて来る。

ツナは仕方が無い、と溜め息をついて口を開いた。


「ま、まぁ、二人とも、そこは落ち着いて・・・」
「ってことで、取りあえず100年経ったら帰る方法を見つけて下さいね。」
「100年経ったら、僕たち確実に死んでますって!!」


無茶言わないで下さい!と叫ぶ様にして言うと、は、はた、と止まった。


「あら、嫌だわ。そうよね。貴方達人間ですものね。」
さん、さん、喋り過ぎですよ。」
「良いじゃない。この人たちが死んだって、私たちみたいなのが魂葬する訳じゃ無いみたいだし。」
「そういえば、ここの世界に来てから死神の霊圧を感じませんね。」
「そうなのよねぇ・・・」


うーん、と唸ってはツナの肩に乗っかっているリボーンを見つめた。


「ねぇ。そこの僕。ここの人間って死んだらどうなるかご存知?」
「知る訳ねーだろ。さっきから聞いてれば・・・おめーら、本当に人間か?」


核心を突くその質問をは笑って躱す。


「うふふ・・・それはどうでしょう。あぁ、でも少なくともベルは人間じゃないですよ。あれは唯の刀です。」
「唯のって・・・」


明らかに蔑んだ言い方にベルは一人落ち込んだ。


「まぁ、色々と気になる所はお有りでしょうが、私たちはあなた方に危害を加えないということだけは確約しますよ。面倒ですから。」


それに相手になりませんし。とこれまた馬鹿にしたように言ってはくすくすと笑った。


「えぇっと・・・どうするよ、ツナ。」


山本は理解しきれない事を放棄したのか、己の上司に指示を仰いだ。
しかし、ツナもどうやら今だかつて無い程つかみ所の無い彼女に困惑しているのか、曖昧に微笑みながらリボーンを見た。
つまるところ、指示を仰がれたリボーンは溜め息をつく。


「ったく、厄介な奴を呼び出しちまったらしーな。」


その言葉には笑みを濃くし、ベルは申し訳無さそうに顔を下げた。


「事の発端はボンゴレ。俺らが面倒見るしかねーだろ。」


つまり、それは達を此処に置くということ。
ツナもそれについては明らかにボンゴレの責任だと認めているため、素直に頷き、山本も同意する。
異議を唱えそうな獄寺は寝ているため、それですんなり決定だ。


「しかし、いくつか質問には答えてもらう。良いか?」
「・・・仕方ありませんねぇ・・・。」
「あぁぁ、さんは黙ってて下さい。私が答えますから。」


これ以上に会話を任せるととんでも無いことになりそうだ、と慌ててベルが言うと、は少し考えたあと、こくりと頷いた。
恐らく面倒なのだろう。


「じゃぁ、私は此処を見てきます。山本君。道案内を頼んでも?」
「おう。」


山本は快く返事をして、ツナに行って来ると言ってと共に部屋を出て行った。
ツナは緩和した空気に椅子に腰掛け、ベルにもソファに腰掛ける様に促すとベルは礼を言って腰掛けた。


「・・・すみません。何しろ、さんは少し、性格がアレなもので。」
「みてぇだな。」
「リボーン。」


素直に頷くリボーンを咎めるようにツナは声をかけるが、ベルは良いんです、とかぶりをふる。


「そちらが聞きたいことは大体分かります。私たちの存在についてなんでしょうが・・・。」


ベルは素直に話て良いものかと考えたが、此処は全くの別世界。
問題は無いだろう、と言葉を続けた。


さんは前の世界では死神という存在でした。」


死神という単語にツナとリボーンは反応するが、ベルの話を遮る様子は無い。


「一般の方が抱くような、人間を死に追いやるような存在では無く、現世を荒らす悪霊を退治したり、霊を尸魂界・・所謂あの世に送るということをしています。さんはその中でも一つの死神の隊を纏める隊長をつとめていて、私はさんの、死神が持つ斬魂刀という刀でベルと申します。」
「死神、か・・・。」
「まさか本当にそんなもんが居るとは思わなかったな。」


信じられないのも無理は無いだろう。


「・・・なんと言うか・・・面倒を見て頂けるようで、お礼を申し上げます。」
「いや、そもそもはこちらの不手際が原因だし、気にしなくても・・。」
「いいえ、迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします。」


そう言って頭を下げるベルにリボーンは、持ち主とは随分と性格が違うみてーだな。とぽつりと漏らし、それをとがめながらも、ツナも内心頷く。


「何かあれば、お仕事の方も手伝わせて頂きますので。」
「それは良いな。おめーら、強ぇんだろ?こいつらを鍛えてやってくれ。」


ツナはそれを聞いて小さく悲鳴をあげた。


ボスになって数年。
ようやくリボーンの修行から抜け出せたと思ったら、人外を相手にしろなど、酷過ぎる、と。


「そんなことで良かったら喜んで。」


しかし、ベルはにこにことそう言ってツナに「宜しくお願いします」というものだから、引きつる顔に笑みを浮かべる事しか出来無い。


「それにしても・・・さんは大丈夫でしょうか。何か問題を起こしてなければ良いんですが・・・。」


頭によぎるのは己の主。


「山本もついてるし、大丈夫じゃないかな。」


そう、ツナが言った瞬間、建物がどすりと揺れた。


「「・・・・・」」


二人が笑顔を固まらせて無言の中、ぽつりと「大丈夫じゃねーみたいだな」とリボーンが呟いて、慌てて3人は部屋を出た。









リアルな夢と嘘みたいな現実











拍手ありがとうございます。皆さんから拍手を頂く度にほっとします。
これを糧に頑張って行きたいと思います。
それでは、これからも宜しくお願いします。

2008.9.23
久世 桂