は眉を寄せて空を見上げた。
空は曇っていて、一雨来そうだ。
「おい、どーかしたのかよ。」
「いえ、天気が悪いなぁって。そんなことより、日番谷くん。お茶でもどうですか?」
「・・・書類やったらな。」
「えぇっ、そんな・・・!!」
逃げて逃げてやっぱり日番谷に捕まって連行される昼下がり。
ぴくりと指が引きつったかと思うと、身体が引っ張られる感覚には目を瞑った。
瞬間、光に包まれるの身体。
「・・!!」
慌てて日番谷はの身体を掴もうとするが、その前に彼女の身体は光が弾けるようにして消え去った。
明日が見えない
ぐるぐると回る感覚には口許を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
真っ暗な空間に放り込まれた感覚の後突然やって来た光の世界に気分は最悪だ。
(部屋には3人・・・これは人間、よね・・)
『さん、大丈夫ですか?』
状況を確認しながら胸からこみ上げて来るものを押さえるようにうずくまっていると気遣うようなベルの声が聞こえて来た。
そして、もう一人の声。
「おやおや、稼働してしまいましたか・・・。」
困った様に誰かが言うと、銃声が二発、二人の人間が倒れるのを感じてはベルの柄を握ると、唇を噛み締めて立ち上がった。
この言いようの無い感覚が支配する五体。脂汗が額に滲む。
「貴方、誰?」
の視界の端には白衣を赤く染めて倒れている少し年配の男性が二人。
部屋は様々な計器がひしめいていて、自分はガラスで覆われた円柱状のカプセルのようなものの中にいることを認識する。
「あぁ、待っていて下さいね。今、出して差し上げますから。」
『・・・不気味な人間ですね。』
「・・・・そうね。」
ベルだけに聞こえる様に小声で返答すると、かしゃんと音がして円柱状のカプセルの一部が開き、そこからは促されるまま外へ出た。
目の前にはオッドアイの青年。
勿論、先ほどの余韻で気分は最悪だった。
「体調があまり良く無い様ですね・・歩けますか?」
「・・問題ないわ。それで、これはどういうことなんでしょうか。」
尋ねると、彼は困った様に笑った。
「それについては後ほど、説明しますよ。」
彼は手の埃を払うと手を差し出した。
「僕は六道骸です。宜しくお願いします。」
連れて来られた立派な建物に一体こいつは何なんだと思いながら先導する先ほどの六道骸という青年のあとをついていく。
彼はエレベーターで最上階まで行くと、大きな扉の前まで来てやっとを振り返った。
「今から色々説明しますが、心の準備はよろしいですか?」
「お気遣い、ありがとうございます。」
そんな気遣いいらないわよ、と心の中で言いながらにっこりと言うと、骸は「クフフ」と笑ってから扉を無遠慮に開けた。
『クフフ・・って、変な笑い方ですね。』
「本当だわ。」
うんうんと同意しては骸に習って中に足を踏み入れると、やたらとこちらを睨みつけて来る目つきの悪い青年と、笑顔が眩しい爽やか青年と、小さい子供と、優しげな青年が見えた。
何と統合性の無い集団なんだと、この中に骸を入れた図を思い浮かべて笑いがこみ上げて来るのを必死に我慢する。
「行ってきましたよ、ボンゴレ。」
「あぁ、ご苦労様、骸。で、彼女は?」
「少し遅かった様で、彼らの被験者第一号、という処でしょうか。」
そう言うと、ツナは「えぇ、困ったなぁ・・」と頭を抱えた。
『何が困ったですか。こっちの方が困ってるというのに・・・』
ツナの言葉にぶつくさ言っているベルの声が聞こえて来て、確かに、と中央の大きなテーブルにいる(おそらく此処のボス)青年を見た。
「とりあえず、座りましょう。」
「えぇ。」
骸に言われてソファに腰掛けると、隣のソファに座っていた青年と目が合った。
青年はにかっと笑うと手を差し出した。
「俺、山本武。よろしくな!」
「です。よろしく。」
そう名乗ると、向かい側に座っていた骸が不快げに眉を寄せた。
「・・・僕が名乗った時は名乗らなかったくせに、何で彼が名乗ったら名乗るんですか。」
「そうねぇ・・やっぱり、貴方って物凄く、それはそれは怪しかったんですもの。でも彼は邪気が無いっていうか、笑顔が眩しいっていうか。そこの違いよ。」
冷静に目の前の骸の引きつった笑顔と、隣の山本の笑顔を見比べて分析をすると、己の刀が同調する声と、数名の笑い声が聞こえて来た。
「お前、おもしれー奴だな。」
「まぁ、簡単に言えば彼女は異界人だからなぁ・・・。」
隣のリボーンの言葉にぽりぽりと頬を掻きながらツナは呟くと、を見た。
「僕の組織の中に、勝手に空間移動の研究をする輩がいてね。僕の代になった時にそれは廃止させた筈なんだけど、まだ残党がいたみたいで、迷惑をかけたね。」
『つまり、この男のせいってことですね。私たちがここに飛ばされたのは。』
「帰り方は勿論全力で探すし、衣食住も保証するよ。こちらの不手際でこんなことになってすまない。」
そう言って、彼はぺこりと頭を下げた。
隣に立っている目つきの悪い男はをぎらぎらと睨みつける。
「帰り方については別に良いですよ。きっとお迎えが来るだろうし。」
『そんなこと言っちゃって良いんですか?ここは異界ですよ?いくら日番谷くんでも・・。』
それを聞くと、は笑顔のまま刀を鞘ごとこしから引き抜くと、がしゃんと足下に投げ捨てた。
「いいえ、日番谷くんは優秀なんです。きっと来ます。全く、ベルったらそんなことも分からなくなっちゃったのかしら・・・。」
『ひ、ひどい・・さん・・!!』
げしげしと蹴られながらベルは涙ながらに呟いた。
『大体、異界に飛ばされるなんて異例中の異例ですよ。あっちも諦めてるかもしれませんし。』
「ごちゃごちゃ五月蝿いですよ。そんなにへし折られたいんですか?」
未だにげしげしと刀を足蹴にしているに一同はぽかん。
その中、リボーンは「おい、おめー一体何やってんだ」と声をかけた。
その中には呆れも含まれていて、ようやくは今の状況を理解する。
(あ、そうだった。人間にはベルの声って聞こえないんだったわ・・。)
「うふふ・・・あら、私ったら、やっぱり凄く疲れているみたい。こっちに移動させられた時、物凄く気持ち悪かったし、少し休ませて頂いても?」
「あ、じゃぁ一つ部屋を用意させてますから、そこで休んで下さい。山本、案内して貰っても良いかな。」
「あぁ。良いぜ。」
山本は頷くと立ち上がったのでは足下の刀、つまりベルをもう一度蹴るとそのままにすたすたと歩き出した。
「あれ、。この刀は良いんですか?」
しかし、いつの間にベルを手に取ったのか、ベルを手にした骸がが退出する前に声をかけた。
すると、はゆっくりと振り返って物凄い笑みで骸・・というかベルを見た。
「ベル、暫く絶交ですからね。」
『えぇっ、ちょっと、ちょっと待って下さいよ、さん!!』
「人に化けるのも禁止ですからね。暫く唯の刀として転がってて下さい。
骸さん、その刀、倉庫でも何でも良いんで、取りあえず埃臭い所にぐるぐる鎖でも巻いて放置しておいて下さい。」
『すみません、さん。先ほどの言葉撤回しますから、私も一緒に・・』
言うだけ言うと、はベルの言葉を最後まで聞く前にばたりと扉を閉めて行ってしまった。
残されたのはぽかんとした骸と、何が何だか分からないツナと、何だあの女と悪態をつく獄寺と、おもしれー奴と笑うリボーン。
「って言ってましたけど、どうしましょう。コレ。」
埃臭い場所と限定はされたものの、そんな場所は地下の倉庫くらいだ。
本当にそんなところに放置して良いものか、と立派な刀であるベルを眺める。
「僕が預かるよ、それ。」
何が何だか分からないが、取りあえず、とツナが手を差し出すと骸がベルを渡した。
「十代目、大丈夫スか。そんな怪しげな刀。その前に、あんな怪しい女此処に入れちゃって。」
『怪しげな刀って、失礼な方ですね。』
「ははは・・大丈夫だよ。それにやっぱり彼女がこんな処に飛ばされたのもボンゴレのせいだからね。」
『全くですよ。お陰で私はさんの機嫌を損ねてこんな処に放置されますし。』
「そもそも、あいつが本当に異界から来たっていうのも怪しいですよ。」
「ほぅ・・君は僕が見たというのに信用しないという訳ですか。」
「当たり前だろーが!!」
瞬間、不穏な空気がひやりと部屋を支配する。
ツナは溜め息をつくと、二人を仲裁するために仕方無く立ち上がった。
長い長い廊下を歩きながら山本はゆるゆると彼女を見た。
長い黒髪に青い瞳。着ているものは真っ黒な着物で、きっと彼女は日本から来たのだろうと思う。
「は前の世界じゃぁ、どんな処にいたんだ?もしかして日本とかいう国か?」
「そうね。日本だったわ。」
「やっぱそうなのか!そうだよなぁ・・・だってその服、着物だろ?俺も日本出身だからそうかなって思ったんだ。」
「あら、そうだったの。」
「おう。あ、そういえばあの刀、放置してきちまって良かったのか?」
そこで先ほどの失態(皆の前でベルにさんざん文句を言ったこと)を思い出して恥ずかしそうに笑った。
「あの刀。私にとって姑みたいな人から頂いたもので、あれを見てると、その姑みたいな人の言葉が何となく聞こえて来ちゃって、つい、あんなことしちゃったんですよ。」
「そうだったんだな。」
山本はその言葉を本当に信じたみたいで頷いた。
「・・・貴方、とっても良い人間ね。私の周りには居なかったタイプだわ。」
「そうか?」
照れくさそうに山本は頭をかいてへらりと笑った。
「あぁ、癒されるわ・・・昔はびゃっくん(朽木白哉)も今みたいに仏頂面じゃなくって、「お姉様」って後ろをくっついて歩いていて、それはもう可愛くってあんなに癒されていたのに、今や、あの無愛想な顔でしょう?」
「へ?」
「日番谷くんだって、最初副官に就任した時はあーんなに緊張してて可愛らしくって、「隊長、仕事して下さい!」って私を追いかけ回してくれて、とっても可愛くって。びゃっくんがあんなになった後だったから唯一の癒しだったのに今だと「仕事溜まってるって言ってるだろうが、馬鹿女!」なんて言うんですもの。酷いと思いません?」
「あ、あぁ、そうかもな?」
「ふふ・・・山本君はやはり良い方ね。あら、此処が私のお部屋かしら。」
「そうだぜ。」
の問いに笑顔で答える山本の頭の中には「こいつ頭おかしいんじゃねー」なんて考えがあるはずもなく、「っておもしれーなー」という思いがあるだけだ。流石天然山本。万歳。
「あ、起きたらここの回線つかって連絡くれよ。飯でも喰いに行こうぜ。」
「あら、嬉しいですね。じゃぁ、2時間後に連絡しますね。」
「おう。じゃぁ、また後でな。」
手を振りながら去って行く山本の後ろ姿を暫く見つめては宛てがわれた部屋に入った。
ぱたん、と扉を閉めて、近場の椅子に腰掛けた。
「どうやら、現世の様子と余り変わらないみたいだけど。」
ねぇ、ベル。と話しかけようとして己の相棒が居ないことに気づいて、は眉を寄せた。
あんなのでも居ないと寂しいもんだとは死覇装のままベッドにダイブした。
明日が見えない
拍手有り難うございます。
やる気の源です。
もし宜しければメッセージでも頂ければ張り切ります。
あ、あと拍手で書いて欲しいジャンルとか話とかあれば気軽に言って下さいね。
拍手のジャンルについては更新希望調査の結果を見て決めていますので。
では、これからも宜しくお願いします。
2008.8.2
久世 桂