此処に拉致られた時持ってたバッグ。
それだけを手に取って私は立ち上がった。
「いつまでも大人しく捕まってる私と思わないでよね!」
お金はクロロが置いて行った財布から頂戴して、大金持ち。
これなら家に帰れる!
クロロは一昨日から仕事で空けてていないし。
鬼の居ぬ間になんとやら。
私は喜々として部屋を飛び出した。
ユートピアへの錆び付いた扉
「しっかし、団長も過保護だよな。」
クロロのマンションの目の前にあるカフェテラスに二人はいた。
いつものちょんまげを下ろしてお茶を飲んでいる(勿論、無理を言って店員に出させた)のはノブナガ。
その目の前に腰掛けて頬杖をついているのはマチだ。
「全く、暇つぶしも何もないし。さっさと仕事終わらせてくれないかね。」
ここら付近に留まって2日。
『俺のいない間、に余計な虫が着かないように見張っておけ。』
という団長命令に渋々ながらも従ったのはクロロが熱をあげている相手が気になったから。
「まぁ、あの嬢ちゃんは一般人だし心配するのも無理は無いけどよ。」
もうちょっと他にやりかたあるだろう。
と、ノブナガは欠伸を噛み殺しながら言った。
「・・・出て来たよ。」
しかし、目の前のマチの言葉にノブナガは目を擦ると伝票の上にお金を置いて立ち上がった。
「また買い物かぁ?昨日も行ってたろ。」
「暇なんだろ。」
そう言うマチの言葉からも辟易しているのが感じ取られる。
バス停に向かい、バスに乗ったを見届けてから二人はそのバスに飛び乗る。
もちろん、屋根に、だ。
「・・・おかしいね。ショッピングモールはあっちの筈だけど。」
「散歩でもしに行くんじゃねぇの?」
「だと良いけど。」
は空港につくと、いよいよだと手を握りしめてバスから降りた。
向かう先はやはりカウンター。
後ろから二人が尾行しているのに気づくはずもなく、喜々として受付嬢の待つカウンターに走りよった。
「いらっしゃいませ。」
そう頭を下げる受付嬢にはにこりと笑みを浮かべた。
「14時20分のパドキア共和国行きの飛行船は空いてる?」
「はい、今、確認致しますので少々お待ち下さい。」
そう言ってパソコンに向かった受付嬢の前で待っているに魔の手が伸びた。
「ん!?」
口を塞がれたのは一瞬。そして、その場から連れ去られたのも一瞬。
「・・お待たせしました・・・?お客様?」
すぐに確認した受付嬢はを探すがその姿は無い。
パソコンの画面には空席の文字が光っていた。
三人は空港付近の路地にいた。
連れ去られたはと言うと、目の前の二人に胡散臭そうな目を向ける。
「パドキアはマズいだろ。散歩にして遠過ぎるぜ。」
「馬鹿かい。アンタは。散歩じゃないに決まってるだろ。」
はん、と馬鹿にするような言葉にノブナガはむっと眉を寄せた。
「じゃぁ何だって―――」
「逃亡に決まってるじゃない。」
ノブナガの言葉を割って入ったのは勿論。
マチとノブナガは忘れていた、と目の前のに向き直った。
「あなたたち、クロロの知り合い?縁を切った方が良いわよ。あんな変態。」
吐き捨てるように言われた言葉に(一応俺らの頭なんだけどな)とノブナガはぽりぽりと頭をかいた。
「・・・で、アンタは逃げ出そうとした訳だ。」
「そうよ。何をするにもついて回られるし、束縛っていうか軟禁よ。軟禁。私もよくこの数ヶ月我慢したと思うけど。でも、もう限界。」
今まで愚痴る相手がいなかったからだろうか。
の口は止まることは無い。
「変態で思考回路が可笑しくて、生活能力も無くて、性格も最悪。ほんと良いのは顔だけなんだから付き合ってらんないっつーの。」
「・・・それは否定出来ないところもあるけど・・・」
「いや、団長の良い所はあるぜ。」
ノブナガの言い切った言葉にとマチの目が行く。
「何だい?言ってみなよ。」
だんだんとが気の毒に思えて来たのだろうか。マチの立ち位置は寄りになっている。
「金がある。頭も良いし、何だかんだ言って強ぇ。」
はん、と馬鹿にするような声が二人から漏れた。
「あのねぇ、金とか頭とか顔とか。そんなのはどうでも良いのよ。肝心なのは性格。」
うんうん、と其の横でマチは頷いている。
「しかも、ヤツの変態さ、性格の悪さっていうのは、金とか顔でカバーしきれる範囲を大幅にオーバーしてるのよ。そんなヤツと毎日毎日同じ屋根の下で暮らしてみて。ほんっとーに精神的に辛いんだから!!」
さらに、とはまくしたてる。
「まだ(ぎりぎり)10代の私が、やることと言えば炊事洗濯に買い物。友達もいなければ親族もいない。本とテレビが友達さ★なんて悲し過ぎるに決まってるでしょーが!!!」
分かってんの、アンタ!?
とすごまれてしまってはノブナガも小さくなるしかない。
いかんいかん、感情的になりすぎた、とは息を吐き出すと、にっこりと笑った。
「ま、そう言う訳だから行かせて貰うわよ。」
「おいおい、ちょっと待てって。なぁ、マチ。」
声をかけられた時、マチは葛藤していた。
旅団に属する立場から言えば、このままあのマンションに連れ戻すしかない。
しかし、だ。
あり得ないことではあるが、もし自分がどこかの誰かにいきなり拉致られて、そのまま軟禁等という状態になったらどうだろうか。
すんなり思い浮かぶ状況では無いものの、考えてみた。
が、思い浮かべた瞬間、マチの額に青筋が浮かんだ。
そんな状況に甘んじれるほど、男に己の人生を握られることを彼女のプライドは許せなかったのだ。
「団長が悪い!」
突然のマチの咆哮にとノブナガはびくりと肩を揺らした。
「良いよ。。でも、パドキアは危ない。団長もマークしてるだろうからね。」
と、マチはさらさらと紙に何かを書き出した。
それをはきらきらとした目で見、ノブナガはやばいやばいという目で見る。
「アタシの家がここに有るから好きに使いな。あと、アタシの携帯の番号。」
「良いの!?」
手渡されたそれを小躍りしながらは見つめる。
「良いさ。本当ならアタシがその男を殺(や)ってしまえば良いんだろうけど、団長だしね。」
「そうそう。あんな変態の血で穢れるようなことしちゃ駄目よ。」
すげー言われようだな。オイ。と感心していたノブナガだが、はっと我に帰って「待て待て!」と引き止める。
「そりゃマズい!何がマズいって、何だか知らねぇけどマズい!!」
「は?何言ってんだい、ノブナガ。」
「何言ってるんだってそりゃお前の方だぜ!俺たちが見張っていながらその嬢ちゃんに逃げられるとすると、俺らは・・・」
団長に殺される!!
とノブナガは必至に目で訴えかけるのだが、マチはふんと鼻を鳴らすだけ。
「こんな若い子があんな変態の団長に軟禁されてるって聞いてほっとけるほどアタシも性格は腐っちゃいないよ。」
だめだこりゃ、とノブナガはマチに何を言っても無駄だと気づくと、に目を向けた。
しかし、「何なのよ」とノブナガを見て来るも中々の強敵だ。
何を言えばうまく行くのか。
ノブナガは無い脳みそを総動員させた。
「・・嬢ちゃんも、良く考えてみな。逃げたからって団長がこの世から消える訳じゃねぇ。ずっと嬢ちゃんを追い続けるんだぜ?あの、しつこくて執念深い団長から逃げ続ける。どれだけ大変か分かるだろ?」
なけなしの話術でもっての説得はなんと、上手く言ったようで、確かに、ととマチは目を見合わせている。
「・・・・じゃぁ、こうしよう。」
ノブナガよりも遥かに出来た頭を持っているマチは、ぽむ、と手を叩くと口を開いた。
「もアタシ達の仮宿にくれば良い。そうすればそれとなく団長の悪の手から守ってやれるし、遊び相手も出来る。」
「良いの!?」
「勿論だよ。」
うふふん、あははん、と和やかに笑い合った二人は顔を青くしているノブナガなんか放ってマンションに荷物を取りに歩き出している。
ぴぴぴぴ
と、其の時、携帯がなった。
時刻は14時18分。
この時間と言えば、団長からの定時連絡だ。とノブナガは嫌々ながら携帯の通話ボタンを押した。
「あぁ、団長?・・あぁ、あぁ、嬢ちゃんは無事だ。ハハ。」
様子の可笑しいノブナガにクロロから怪訝そうな声がかかる。
「マチがよぉ、妙に嬢ちゃんの事気に入ったらしくて、これから一緒に仮宿で暮らすんだと。」
その瞬間、受話器からつんざくような声が聞こえて来て思わず携帯を耳から離した。
「何故、どういう経緯で、そもそも何処で知り合った!?」と追求の言葉が次々と少し離した携帯から聞こえて来て、ノブナガは盛大に溜め息をついた。
背後ではごぉぉと音を立てて飛び立つ飛行船。
パドキア行きの飛行船を尻目に、ノブナガは長い言い訳を言う為にようやく携帯を耳に当てて口を開いたのだった。
拍手ありがとうございます。
糧です。
あぁ、其の前にあけましておめでとうございます!
年明け早々拍手なんてしてくれちゃって、嬉し過ぎちゃうよ、やったー★
意外と好評なこの拍手連載。
感想を頂いたのでさっそく書いてみましたが・・・楽しんで頂ければ幸いです。
っていうか、クロロ出てないし(笑)
ではでは、今年も宜しくお願いします♪
2009.01.04
久世 桂