はて、何故自分は此処に居るのだろうか、とは首を傾げた。
しかし、その答えは声をかけて来た男の声で解決する。

「目が覚めたか」

真っ黒の髪に真っ黒の瞳。

「誘拐犯・・?」
「・・・盗賊と言ってくれ。せめて。」

一応自分は今世間を賑わせている幻影旅団、つまり盗賊だと説明したはずなのに、わざわざ誘拐犯と呼ばなくても。
まぁ、今回は余りどっちも変わらないが、と苦笑しながらクロロはの前髪をさらりと撫でた。

「おはよう」








だって不可抗力だった!









それはそれはもう、綺麗な笑顔で「おはよう」なんてのたまうものだから私はびっくりしてしまった(外見上は全く動揺していないのだろうけど)。
いやぁ、普通に女子高生やってればこんな人と接する機会は余り無いものですからね。

状況を確認すると、私はベッドに横になっていて、その傍らの椅子に腰掛けた、ケロロだかグロロだか知らない青年が私を見下ろしている(あ、クロロだ、クロロ)。
何でこんなところに居るのかと言うと、それは一重に目の前の彼のせいだ。
あーあ、折角平穏な学生生活を謳歌していたはずなのに。
私は今更ながら彼との出会いを後悔した。

「どうした、気分が悪いのか?」
「・・いや、全く。元気。だからそろそろ帰っても・・・」
「駄目に決まってるだろう。」

言いかけた私の切なる願望を彼は見事な笑みで一刀両断してくれた。
思わず溜め息もつきたくなるもんだ。

「・・・まぁ、いいや。で、此処はどこ?」

彼も四六時中此処にいるわけじゃぁ無いだろう。
旅団なら、仕事が入れば嫌でも此処から離れなきゃいけないだろうし。
逃げる云々はその時を見計らって考えるとして、取りあえず此処が何処なのかはっきりさせてしまおう。

「此処はアメ共和国。そして此処が愛の巣其の一だ。」
「アメ共和国って・・・うわぁ・・結構遠くに来たなぁ・・・」

アメ共和国は私の住んでいた場所とは大陸が違う。
つまり、相当遠い。寝てる間に此処まで移動してるとは思わなかったなぁ。
これは、帰るのも一苦労だわ。

「何か必要なものはあるか?」
「ありまくりに決まってんでしょーが!取りあえず買い物。買い物に行くわよ。」

正に着の身着のままで(不本意ながら)新生活。
ベッドとかソファとか、基本的な家具は用意されてあるが、日用品についてはさっぱり。
衣類とか、化粧品とか、そういうものは当たり前だが無い。てか、着るものなんて今着てる制服くらいだし。

「いや、今日は家でゆっくりとお互いの愛を確かめ合う。」
「勝手に連れて来たのはあんたでしょ。買い物くらい行かせてよ!」
「買い物は明日だな。」
「着替えが無いっつーの!」
「ふっ、俺は裸で全く問題無いが?」

ああ、もう駄目だこいつ。
ちょっとちょっと、幻影旅団って頭がこんなにアホで良いの?

ちらりと私はクロロを見た。

クロロは私の彼の申し出(裸で問題ないのくだり)に対する反応が気に入らないのか、口を尖らせている。
キモいことこの上ない(鳥肌立っちゃったよ!!)。

「とにかく、下らないこと言ってないで、買い物!」

少し強気に言ってみると、彼は渋々立ち上がった。
が、私の方に来ると、鬱陶しいことに腕を大きく広げて突進して来た。

「ちょっと!暑っ苦しい!!」
「あぁ・・・やっぱりこうしているのが一番だよな。安心しろ。俺もだ。」
「いや、安心よりも、貞操の危機を感じてすこぶる不安なんですけれども。」
「ふっ、照れるな。」

あー、やっぱ駄目だ。
頭がちょっとおかしいよ、この人。



















まぁ、そんなこんなで街に買い物に出かけた訳なんですけど、やっぱりこの人おかしい。
何がって聞かれれば、性格とか性格とか性格とかなんだけど。今言ってるのは金銭感覚。
服を買いに行けば値札にゼロがいくつもついた服をほいほいと買うし、靴もすんごい高いのを値札も見ずに店員さんに「これをくれ」とか言ったりで、私はその度に会計の時にそっと聞き耳を立てて仰天していた。
だって、皆おっきい買い物の時って「あ、これにしようかなぁ・・・んー、でもこれも捨て難い」とか言って、まぁある程度は吟味するでしょ?
それなのにこいつはそれが全く無いときた。
どこの貴族だ。
数時間に渡る買い物で私はもうへとへと。
あれ、こういうのって女の買い物が「えーどうしよー」「あ、これも良いかも」とかいって長引いて男が「おい、さっさとしろよ」みたいな感じで、余りにも待たせられてへとへとになってるもんじゃないっけ?
でも今回は、迷う瞬間が全く無かった。
私が両手に服を持って悩んでれば「両方買えば良いだろう」と言って、何悩んでんだお前みたいな目で私を見て、両手に持って居た服と、ついでにちょいちょい迷ってた服もがしりと持って「これ、全部くれ」と店員さんに持って行ってしまうのだ。この男は。
おかげさまで私はいくらかかるかに毎回どっきどき。
この疲労感は間違いなく心労だと思う。

「・・・疲れたのか?」

そんな心労もおかまい無しに、買い物を一通り終えて入ったカフェで、目の前の男はコーヒーを啜りながら言った。

「そりゃぁね。もう、こんだけのものを買うのにいくらかけたかと思うとどっきどきで心身ともに疲労感が押し寄せるに決まってるじゃない。」
「・・・そんなにかからなかったと思うが。」

聞きました?
いま、この男、そんなに(お金)かかんなかったって言ってますよ。
どーゆーこっちゃ!!

「どうやら私とアンタじゃぁ住む世界が違うみたい。だからさっさと帰らせて。」
「・・・どうしても帰るって言うんだったら今日の買い物の分、払ってもらうことになるが・・・」

鬼だこいつ。
大金持ちでもない私が今回の買い物費用払えるはず無いじゃん。
だいたい、買い物の半分以上はいらないって言ったのに「迷ってるなら全て買ってしまえ」みたいな感じでぽんぽん買っちゃった分でしょうが!!
と、叫んでみてもきっと彼の情に訴えることは出来無いんだろうと思う。

てかさ、盗賊のくせに何で律儀に買うかなぁ。
盗んでたら別にお金払ってもらった訳じゃないし、とか言って逃げれるのに。

そう少し悪態をついてみたって罰は当たらないだろう。
だって、コイツがほとんど悪いんだから。
でもさ、こう言ったって、お金を払えないっていう事実は変わらないんだよね。


「・・・アンタって酷い男だね。」
「アンタじゃない。クロロだ。」
「・・・」
「それに酷い男というのは褒め言葉だ。俺にとっては。」

そうして、こいつ・・クロロはにやりと笑った。

こんな訳で、晴れて、今日からクロロとの(強制)共同生活は始まった。あー、もう、最悪だわ。


わー、高校はどうしようか。折角だから卒業までしたかったなー。
いや、それ以上に大学まで行きたかった!!






だって不可抗力だった! (出来る事なら出会いたく無かったよ!!)






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